12年前、とある大激闘がありました。
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「待ち合わせ場所って…、ここですか?」
「…そーだよ。文句なら姫川に言いやがれ」
夕方が近づき、神崎達が到着した先には、子どもたちの賑わう声や、軽快な音楽が聞こえる。
「石矢魔ランド…?」
まだ改築される前の、旧・石矢魔ランドだ。
「なんだってこんな場所に…」
「……………」
神崎は紙袋から顔を出した子姫を見下ろした。
「遊園地にも連れていってもらったことがない」。
姫川はそんな会話を聞いていたようだ。
他に待ち合わせる場所も思い当たらず、ここに指定したのだろう。
子姫を遊ばせることを前提に。
「中にいるかもしれない…。入るぞ」
「自転車どうする?」
男鹿に自転車を指さされ、神崎は「あ、そうだな」と立ち止まる。
周りを見渡すが、警備員の姿はない。
姫川がまだ到着していないことを想定し、サドルに貼り紙をはって中に入ることを古市が提案し、その通りにした。
青と白の自転車なら、姫川なら一目で神崎の自転車とわかるはず。
堂々と券売機の横に置き、紙袋を切り取って文字を書く。
“先に入って待っている”と。
「かんざきっ、早く入ろうぜ!」
姫川は神崎の手をぐいぐいと引っ張る。
「急かすな。つか…、オレ達今おたずね者なんだからな?」
「それならたぶん大丈夫ですよ。ほら、この時代、ケータイでテレビとか見れませんし…」
すまほやワンセグがまだ発売されていない時代だ。
神崎と男鹿は「ああなるほど」と手を鳴らす。
それぞれが入園券を購入し、石矢魔ランドに足を踏み入れる。
「楽しんでください。存分に」
受付の女性は神崎達を見届けたあと、口端を吊り上げ、他の従業員は閉館の看板を出した。
早速、子姫はゴーカートやバイキング、ジェットコースター、お化け屋敷など、男の子が好きそうな娯楽設備で楽しんでいた。
「ウィ―――ッ!!」
ベル坊も同じく。
「「「元気だなぁ…」」」
連れ回された男鹿と古市と神崎はベンチに座り、疲れた顔をしていた。
「……………」
先程からヒルダは周りを見回し、辺りを警戒していた。
その遊園地に似つかわしくない表情に、男鹿は「どうした?」と尋ねる。
「魔力の気配を感じる…が、出どころがわからん。ジャミングがかかったように…」
「魔力って電波みたいなもんか?」
「ドブ男が。呑気に言ってる場合か」
警戒心の欠片もない男鹿に苛立ちを覚える。
「次、あっち行ってみようぜっ!」
「ダブダッ!」
子姫とベル坊は一緒に近くの“鏡の迷宮”へと向かった。
古市、神崎、男鹿がそれを追う。
「走んな。また迷子センターに呼び出されちまうぞっ」
「それ以上離れんな、ベル坊っ」
「男鹿!! だから私は警戒しろと…」
そう怒鳴るが、男鹿達は“鏡の迷宮”へと入ってしまう。
脱力したヒルダはため息をつき、ベンチに座って待つことにした。
「…!!」
賑やかだった園内が、急に静まり返った。
それに気付いたヒルダははっと顔を上げる。
園内にいた数百の人間がヒルダを見据えていた。
ヒルダがベンチから立つとクスクスと不気味に笑いだす。
(まさか…!!)
誰もがその瞳に、あの印を宿していた。
そこへ、怯むことなくヒルダに歩みよる2人の従業員。
「大魔王の侍女悪魔か。オ・レ・の・遊園地を…楽しんでくれているか?」
アヴァンと、誘拐屋のボスだ。
「さすがだ。ここまでやってくれるとは…。アンタと組んだのは間違いじゃなかった」
「ボスの情報があったからこそだ…」
ヒルダは互いを褒め合う2人を睨む。
「貴様…っ、園内の人間をすべて…」
「ああ。一人残らずオレのコマだ。やり方は簡単。アトラクション開催の放送を流して場所を指定し、そこへオレが登場。包み隠さず催眠術のショーを開いたら簡単に人形になってくれた。単純な生き物だな、人間は。好奇心には脆すぎる」
「…噂以上のゲスだな…」
「ゲス? けっこうけっこう。オレのような悪党にとっちゃ最高の褒め言葉だ」
ヒルダは傘からサーベルを引き抜き、構えた。
「“クロノスの魔石”を返してもらおうか。ついでに捕獲する」
「それはこっちのセリフだ。金髪のピアスヤロウ共がオレの魔石を奪いやがった…」
「!?」
(あの2人が…?)
ヒルダの脳裏に神崎と姫川の顔をがよぎる。
同時に、誘拐屋と協力して神崎達を追っている理由もピンときた。
「知らん。私もそんな話は聞いていない」
「隠し持ってるわけじゃねえのか?」
「それはない。奴らにアレの使い方は知らんうえに、ただの人間だ。魔石の話をしても、キョトンとアホ面をしていた」
「…まあ、い・い・や。直接聞く」
「させると思うか?」
ヒルダは素早くアヴァンに突進し、サーベルを振るおうとした。
ボスは驚いてアヴァンの後ろに隠れたが、アヴァンは笑みを崩さず動こうともしない。
「くくく…」
「!!」
アヴァンの横から数人の幼い子どもが飛びだした。
操られていることは一目瞭然だ。
「くっ…!!」
アヴァンを守るように飛びだした子どもたちに、ヒルダはサーベルを止めてしまう。
その隙に、子ども達はヒルダの体にしがみつき、手足の動きを封じる。
「貴様ぁっ!!」
「黙ってオレに、し・た・が・え」
アヴァンの右手が、ヒルダの目を覆った。
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