12年前、とある大激闘がありました。
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黙って話を聞き終えた神崎は、額に汗を滲ませ、腕を組んでわかったふうに頷く。
むちゃくちゃな話だけに理解が追いつかない。
「神崎先輩、話わかってます?」
「…まとめろ古市」
「つまり、マカオの国の悪党が監獄から脱走→偉い奴の秘宝ってのを奪って逃亡→その悪党と秘宝のせいで12年前に飛ばされてしまったってことです…」
魔界とまったく関わり合いのない普通の人間である神崎に、それっぽく話をまとめてみた。
すると、神崎の額から汗が消える。
「なるほどな。とりあえずそいつを捕まえればオレらは元の時代に戻れるってわけか。わかりやすいぜ」
(さっき理解してなかったじゃないですか)
それを言うと踵落としされそうなので古市は口にしない。
「で、姫川も来てるはずだろ? あいつどこ行ったんだ?」
「オレならここにいるだろう?」
男鹿の前に現れたのは子姫だ。
男鹿と古市の目が点になる。
「あ―――…と…」
神崎は面倒臭そうに頭を掻きながら、ここに飛ばされてからの経緯を話した。
もちろん、エラそうにしている子姫のこともだ。
「おまえいくらだ?」
子姫は古市に指さして尋ねる。
「うわ。びっくりするくらい姫川先輩」
「そっくり賞取れるな」
男鹿と古市は屈んで子姫を見つめる。
「いや。本人だからな」
つっこむ神崎。
「今、こいつが誘拐屋に追われてる身でな。姫川とは別の場所で落ち合うことになってる…。あいつのことだから、簡単に捕まるとは思わねえし…。…あいつにとっても予定外だろうが、とりあえず先にこいつを家に送り届ける」
「! 嫌だ。まだ夕方じゃねえし…」
子姫は神崎の袖をつかみ、ふるふると首を横に振った。
「あのな。ワガママ言ってんじゃねーよ。自分の状況よく考えろっ。姫川だろがっ」
「子どもの要望に答えるのが大人だろ!」
「神崎さんはまだ子どもですぅ―――」
「汚ねぇよッ!」
神崎と子姫が言い争っていると、男鹿にやられたはずの一人がいきなり立ち上がり、子姫目掛けて突進してきた。
「!!」
(! あの目は…)
ヒルダは男の虚ろな瞳の中心に映るひし形の目を見た。
ゴッ!!
神崎が蹴りを出す前に、男鹿が殴り飛ばした。
吹っ飛ばされた男の半身はブロック塀に突き刺さるようにめり込む。
「まだのびてなかったのか…。鈍ったか?」
呟きながら、男鹿は手を握ったり開いたりする。
「……こいつらが言っていた誘拐屋か?」
倒れた男達を見下ろし、ヒルダが神崎に尋ねる。
「ああ、そうだ」
「………アヴァン・ヘイズに操られていたようだ」
「あ? 操られてた?」
「奴は相手に催眠をかけて操る術を持っている…。その特徴がこの連中にあった…」
特徴的なのは、あの瞳に映った、アヴァンの刺青だ。
深刻な表情でヒルダは言葉を続ける。
「理由はわからないが、誘拐屋と関わった様子だな。逃亡犯がしでかすこととは思えん」
逃げたければさっさと逃げればいい。
ましてや人間の神崎達にけしかけるのもおかしな話だ。
「とりあえず移動しようぜ。ここにいつまで留まっててもしかたねえ」と男鹿。
「だな」と神崎。
神崎はカゴに子姫を乗せた自転車を押しながら、男鹿達と大通りに出た。
近くに見覚えのあるリーゼントがないか捜したが、それらしいシルエットはない。
残念そうなため息を漏らし歩いていると、ふと、刺さるような視線に気付いた。
通行人達が神崎達を目で追っている。
「な、なあ、なんか見られてないか…?」
古市は隣を歩く男鹿に耳打ちする。
「そりゃ、全裸の赤ん坊連れてるし、ゴスロリ女もいればな…」
視線に慣れている男鹿はどうとも感じないのだろう。
言えていることだが、古市は違和感を覚えていた。
「それもそうだが…。視線のほとんどが神崎先輩に…」
(なんなんだ…)
神崎もその視線に気付いていた。
本来ならその怪訝な視線は背後を歩く男鹿達に向けられるものだ。
睨めば視線を逸らされるがキリがない。
カゴに乗っている子姫も「なに見てんだコラッ」と睨み返している。
「!! お、男鹿…、神崎先輩…っ」
古市は原因を見つけてしまった。
小声で呼ばれた神崎と男鹿は古市に振り返り、向かい側のビルを見上げる古市の視線を目で追う。
そこには建物の外側に設置された大画面テレビがあった。
放送されているのはニュースだ。
そのニュースキャスターの横の画面には、子姫の写真が公開されていた。
“姫川財閥の御曹司―――姫川竜也君が2人組の青年によって誘拐されました。犯人からの要求は未だにありません。犯人の特徴は、ひとりはリーゼントで、アロハシャツを着、色眼鏡をかけた青年。もう一人は、金の短髪で、迷彩服を着、耳と口を繋ぐチェーンピアスをつけた青年です”
(なんだとおおおおおおっっ!!?)
さすがに神崎も我が目を疑った。
描かれた犯人像もそっくりだ。
「あ!!」
「御曹司と犯人!!」
「け、警察に…!!」
それを見ていた通行人が次々と自分達を発見し、露骨に叫んだり指をさしたりする。
「な…っ! オレは誘拐犯じゃ…。なあ?」
男鹿達にもフォローしてもらおうかと思って振り返ったが、すでに関わるまいと逃げ、米粒サイズになっていた。
「男鹿あああああっっ!!!」
遠くでパトカーのサイレンが聞こえ、自転車にまたがった神崎は男鹿達を全力で追いかける。
「オレを置いてくんじゃねええええぇっっ!!」
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