12年前、とある大激闘がありました。
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神崎達は子姫に引っ張られるままに町中を移動していた。
神崎は時々姫川と交代しながら自転車を押しながら歩いている。
「かんざき、アレ!」
子姫が指をさしたのは、ソフトクリーム店だ。
3人はテラスに座りながら、それぞれ違ったソフトクリームを食べる。
神崎はバニラ、姫川はチョコ、子姫はチョコバニラ。
「てっきり同じにするかと思った」
同じ姫川なのに、と神崎は意外そうだ。
「おまえのバニラを食べればチョコバニラだろ?」
「やらねーよ?」
「…っっ美味い…っ」
子姫は感動して夢中でチョコバニラをかじるように食べる。
「めいいっぱい口の周りにクリームつけてんじゃねーよ」
神崎はそう言って、テラスのテーブルに置かれている紙ナフキンを数枚取り、口の周りを拭いてあげる。
「んぶぶ…」
「神崎神崎」
姫川はわざと口端にクリームをつけて拭きとりを願う。
「自分で拭け」
一蹴。
「そいつばっか甘やかしてズリィぞっ!」
「こいつもおまえだろが。自分に嫉妬してんじゃねーよ」
「だったら、おまえもオレのこと甘やかせよっ」
「ガキだから許されるんだよバカが!」
「恋人に対して酷くねっ!?」
「そ、そういうことガキの前で堂々と言うなぁっ!」
騒ぎ出す2人に構わず、子姫はキラキラとした表情でソフトクリームを食べ終え、クリームがついた指を舐めた。
「かんざきっ、次は…っ」
まだ食べ終わってもないのに子姫は神崎の袖を引っ張って急かす。
「待てよ。まだ食い終わってねーだろ」
「手伝ってやる」
「オレも」
ダブル姫川は神崎のソフトクリームにかぶりつく。
「たかるなあああッ!!」
そのあと、一気に色んな店を見て回れるようにデパートへとやってきた。
おもちゃ屋、ペットショップ、ジャンクフード、CDショップなど、リニューアルされる前にも関わらず見どころ満載だ。
“迷子センターのお知らせです。石矢魔町からお越しの神崎様ー、神崎様ー、そのお連れの家来様ー。竜也君がお待ちです”
「やると思った」
「今度はオレは家来かよ。あのガキマジで泣かす…」
2人は迷子センターへと向かい、子姫を迎えに行く。
3人は3階のゲーセンに来ていた。
姫川も最初はビギナーだったことを知った。
先程から神崎の指導のもと姫川と格ゲーで対戦する子姫だったが、何十連敗もしてしまう。
姫川が勝つたびに「もう1回」とムキになり、100円を投入する。
(こうやって経験を積んで、ああなるのか…)
向こう側を見なくても、邪悪なオーラで姫川が今大人げない笑みを浮かべているのを感じ取った。
「もうやめとけ。最初はみんなこうなんだって。初心者でも大したもんだ。ここにきて何度もやってれば時期に手慣れてくる(あんなふうに)」
「う゛ぅ~」
子姫は立ち上がり、ゲーセンの店員に歩み寄って話しかける。
「いくらであのゲーム機譲ってくれるかって聞いてんだ」
「くらぁ」
子姫を小脇に抱えて回収する神崎。
「普段家から出してもらえねーんだ。何度もこれるわけねーだろ…。デパートどころか、遊園地に連れてってくれたことさえねーんだ…。親は2人とも…忙しいから…」
不貞腐れるように呟く子姫に、神崎はため息まじりに返す。
「今はそうかもしれねーけど、あのリーゼントヤロウみたいに好き勝手生きられるって、将来。遊園地にだって…」
目先にいる姫川は、クレーンゲームに寄りかかりながらメールを打っていた。
「あいつみたいにはならねえ。あいつ大人げねえっ」
それを聞いた神崎は苦笑する。
(嫌でもああなるって。そうでないとオレも困る…)
そう思いながら姫川に歩み寄る。
「姫川、こいつ今度は遊園地に行きたいって…」
声をかけると、姫川はいきなり神崎の肩に腕を回して引き寄せた。
「!? おま…っ、こんなとこで…」
「神崎、面白いメール見せてやるよ」
そう言って姫川はケータイの画面を見せた。
“話を合わせろ さっきから怪しい奴らがいる”
「!!」
神崎は顔上げそうになるのをぐっと堪えた。
それからムリヤリ笑みを作り、少々わざとらしいが姫川と話を合わせようとする。
「へぇ? なんだこれ。いつきた?」
いつからいたのか。
その質問を見越したのか、姫川はケータイの画面をスクロールさせて教える。
「あとこれな」
“デパートに入った時から 5人くらい同じ奴らがこっちのこと窺ってる うちの家のモンかと思ったが あんなガラの悪いスーツは着ない”
そして素早くメール文を打つ。
“なんかヤバい 逃げるぞ”
笑顔のまま逃亡宣言。
「もうこれ“笑”しか送れねえだろ」
「だよなーっ」
実際笑える状況ではないが、2人は軽く笑い合い、さっさとその場を離れようとした。
子姫を抱く神崎の視界の端に入ったのは、こちらを追いかける人影だ。
気味の悪さを覚え、姫川と同じく少し早歩きなる。
「どうする気だよ…っ」
小声で姫川に尋ねた。
「階段とエレベーターは使えねぇ。階段は人気が少ねえし、エレベーターは逃げ場もねえ」
だとすれば、使用できるのはエスカレーターだ。
神崎と姫川は下りのエスカレーターに乗り、他の客を避けながら駆けおりる。
スピードがアップすると、背後も足音が騒がしくなってきた。
1階におりると同時に、2人はダッシュで出入口へと向かった。
その速さに子姫も「おおっ」と興奮する。
外へ飛びだし、駐輪場に寄って自転車を取りに行く。
「早くしろっ!」
「うっせーよ! わかってるっつの!!」
急いで自転車の鍵を外し、3人乗りをすると、ちょうど神崎達を追いかけていた5人と、その他数人の男達がデパートから出てきた。
それを肩越しに確認した神崎は思いっきりペダルを漕ぎだす。
「く…んのおおおおおっ!!!」
勢いよく自転車は歩道に飛びだし、通行人を避けながら走る。
「撒いたか!?」
「いや…」
ペダルを漕ぎながら大声で尋ねる神崎に、姫川は背後を確認して舌を打った。
「あいつら車で追いかけてきてるぞ!」
車道を見ると、黒の車のフロントガラスに尾行していた連中が見えた。
姫川は「次の路地に曲がれ」と指示を出し、神崎は角を曲がる寸前で右足を地面につけて器用に路地へと曲がった。
車は通行禁止の道だが、向こうの道で先回りをされる前に出なければならない。
「これがバイクだったらカッコがつくのによ…」
「抽選で当てたヨーグルッチカラーの自転車だ! カッコいいだろが! 嫌ならおりろっ!!」
運転している神崎は苛立ちのままに怒鳴った。
過去へ飛ばされた自分達が、どこへ逃げていいのかもわからない。
警察も家もダメだ。
ただ闇雲に逃走するだけだった。
「なんでオレら追われてんだ!? 姫川っ、さっきの連中に心当たりとかねえのかよ!」
「ねーよっ。チビ、おまえは?」
「ない」
子姫も首を横に振った。
「クソ…ッ、いつまで逃げりゃ…」
次の角を右に曲がった時だ。
待ちかまえていたかのように、神崎の顔面目掛け、角材を横に振るう男がいた。
「!!!」
「神崎!!」
道には、子姫を抱いた神崎と、姫川と、奇襲をかけた男が倒れていた。
自転車は電柱の近くで倒れている。
「かんざきっ!」
子姫が声をかけると、神崎は「無事か?」と尋ね、子姫にケガがないか確認したあと姫川に駆け寄った。
「姫川っ!」
「ぐ…っ」
姫川は右腕を押さえて呻く。
先程、神崎の顔面に角材が直撃する寸前で、姫川が右腕を前に伸ばして庇い、素早く腰から取り出したスタンバトンで男の顔面を撲りつけたのだ。
そのあと、神崎はバランスを崩してしまい、自転車ごと横転してしまった。
その時に膝と腕を擦りむいたが、姫川ほどの痛みではない。
「神崎…っ、ケガは…?」
「アホがっ! オレよりてめーの心配しろよ! 腕見せてみろっ」
「いだだだっ!!」
腕の骨が折れていないか心配だったが、ありえない方向に曲がっているわけでもなく、打撲だけのようだ。
ホッとした神崎は姫川の腕を放す。
「かんざき!!」
はっと振り返ると、先程襲ってきた男が子姫を抱えて逃げ去ろうとしていた。
「!!」
「放せこのやろっ!!」
黙って捕まる子姫ではなく、男の顔面にパンチを食らわせたり、頬を引っ張ったりしている。
神崎は男を追いかけ、高くジャンプした。
「そいつを…っ、放せボケぇぇえっ!!!」
ゴッ!!
「ぐはっ!?」
必殺のかかと落としが、男の脳天に炸裂した。
まるで我が子を取り戻そうとする母親のような光景だ。
男は地面に仰向けに倒れ、神崎は子姫を宙でキャッチする。
「かんざきっ!」
ひしりと子姫は神崎の胸にひっついた。
立ち上がった姫川はズボンの土を払い、神崎の横を通過して男に近づき、その胸倉をつかんでムリヤリ立たせてから左右の頬を数回ひっぱたく。
「コラ。寝るんじゃねえ。てめーらはなんだ?」
服装から見て、デパートで尾行していた連中の仲間であることはわかる。
「……………ぐー…」
寝たフリをかます男。
ボコッ! ゴッ! ゴキンッ!
姫川は問答無用にグーで殴る。
神崎を子姫にとられているぶん、ストレスもたまっていた。
「次、目にチョキいってみようか」
「話しますっっ!! ごめんなさいっ!!」
本気で目潰ししようとする姫川に男は音を上げた。
「オレ達は誘拐屋だ。そのガキを誘拐して身代金を受け取るよう依頼されたんだよ。それ以上は言えねえ」
「誘拐屋…」
財閥の御曹司たるもの、注意すべき裏稼業は一通り把握している。
「ああ…」と思い出したように声を漏らした。
「依頼する奴らの目的は金ではなく、会社の損害…だったか…。中には、会社の奴らの身内を人質にとって、言葉巧みに横領までさせたりするそうじゃねえか…」
姫川の口元が不気味に笑った。
そういう外道な輩は嫌いではなく、逆に参考にさせてもらうのが姫川竜也だ。
その笑みを見てゾッとする男。
「だ…、だからオレは乗り気じゃなかったんだ…。今回だって…、ヘンな男が絡んでこなけりゃ…。つうかオレ今までなにして……」
ぶつぶつと後悔を呟く男に、姫川は「ヘンな男?」と片眉を吊り上げ、問い詰めようとした。
だが、道の向こうから5人の男達がこちらに走ってくるのが見えた。
ガラの悪いスーツから、この男の仲間だろうと察する。
「ぐふっ!?」
姫川は男のみぞおちに重い一撃を入れて気絶させ、神崎の自転車を起こした。
「神崎、チビと先に逃げてろ。オレが乗るとスピード落ちる」
「ああ!? おまえどーすんだよっ!」
「とりあえず足止めしてから追いつく。…これ一度言ってみたかったんだよなぁ。「オレに構わず先に行け」」
「死亡フラグだからっ!! そのセリフっ!!」
「いいからっ! 待ち合わせ場所決めるぞ! ―――…」
待ち合わせ場所を指定した姫川は、神崎と子姫を促し、自転車に乗せた。
「姫川…」
「心配すんな。早く行け」
ぽん、と神崎の背中を叩くと、神崎はペダルを漕ぎだした。
「捕まっても、助けなんて期待すんじゃねーぞ!」
「捕まらなかったら、熱いチューを期待してもいいってことか!?」
「やっぱいっぺん死んでこいっ!!」
片手運転に切り替え、神崎は振り返ると同時に中指を立てた。
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