12年前、とある大激闘がありました。
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姫川、神崎、アヴァンは道路の真ん中で倒れていた。
先に目覚めたのは、姫川だ。
周りからざわめいた声が聞こえる。
痛む体を起こし、サングラスを外し、割れてないか確認した。
幸い、ヒビはないようだ。
体を地面に打ちつけ、腕に擦り傷が見当たったが、大したケガは負っていない。
サングラスをかけ直したあと、周りを見回すと「生きてるぞ!」と野次馬がまたざわざわと騒ぎだす。
「神崎…」
すぐ傍には神崎が仰向けに倒れていた。
「! 神崎…っ」
駆け寄って抱き起こし、ケガの具合を見る。
自分と同じく、大したケガは負っていないようだ。
「ん…」
体を動かされ、痛んだのだろう。
神崎は眉根を寄せ、目を開けた。
目前には自分に口付けようとする姫川がいるではないか。
「ギャアッ!!」
ボコッ!
「だっ!?」
ほとんど反射的に姫川の横っ面を殴った。
「なにすんだよ…」
「そのセリフそっくり返すわ!! 公衆の面前でなにしようとしたんだっ!?」
「気絶した神崎がいたら…、な?」
「な? じゃねえよ!! つうかあの兄ちゃん大丈夫か!?」
立ち上がれたということは骨折の心配もなさそうだ。
神崎に続いて尻餅をついていた姫川も立ち上がる。
アヴァンはうつ伏せで大の字のまま伸びていた。
近づこうとしたところで、2人の目の前に黒いスーツの男が現れた。
「御二方、御無事ですか!?」
「「あ?」」
誰だこいつ、と怪訝に睨む2人に、髪をすべて後ろに流した黒のスーツ姿の若い男は「申し訳ありません」と慇懃に一礼する。
「いきなり目の前に出現なされたので…」
スーツの男の言っていることがわからず、神崎が困惑した顔をしていると、姫川は「おい」と肘で腕を軽く小突いた。
「もしかしてアレのことで謝ってんじゃねーか?」
姫川が指をさした方向を見ると、白のベンツのボンネットに神崎の自転車がのっている。
カゴは凹み、前の車輪はベンツのフロントガラスを突き破っていた。
2人に謝る黒スーツの男はその車の運転をしていたようだ。
(オレの自転車が…!!)
高級車を傷つけたことに、神崎は目を見開いて額に汗を滲ませる。
「く…、車なんて、あの時あったか…!?」
アヴァンがひとり飛び出してきたところまでしか覚えていない。
ベンツから出て来た、目の前の男よりガタイのいい数人のスーツの男達は野次馬を追い払っている。
「どうかこのことは御内密に…」
スーツの男は神崎に近づくと、いきなり懐から小切手と高そうな万年筆を取り出した。
「我が姫川財閥の名に傷がつきます故…」
「姫川財閥だと?」
自分の財閥名が出たことに、姫川は片眉を吊り上げた。
「いくらでございましょう?」
「ちょっと待てよ。それよりおまえら、こいつのことは無視かよ…」
神崎は背後にいる姫川は親指で指すが、スーツの男は「は?」とキョトンとした顔をする。
なにを言ってるんだこの男は、という顔だ。
姫川を見ても大したリアクションは返ってこない。
「そのリーゼント…。素敵でございますね」
「いやいやそうじゃなくて…」
見てほしかったのは、リーゼントではなくて全体だ。
姫川財閥の御曹司だとわかっているのだろうか。
姫川も怪訝な顔をしていた。
「おまえ誰だ?」
姫川が問うと、スーツの男は「執事の勝俣と申します」と素直に答えて再び礼儀正しくお辞儀した。
「……蓮井が入る前の…」
「? なにをおっしゃっているのか…」
姫川と勝俣は不可解なことに首を傾げた。
神崎は車のフロントから自転車を下ろし、まだ走れるか車輪の曲がり具合とハンドルの利きを確認してから、「行くぞ、姫川!」と呼んだ。
「…姫川?」
勝俣は姫川の顔を凝視する。
怪しむような目付きだ。
「オレは姫川竜也だ。知ってるだろ?」
「ははは。御冗談を。非はこちらにありますが、あまり過ぎたことを申されますと…」
「!」
勝俣は口元に笑みを浮かべ、腰から取り出した鋼鉄の警棒の先を姫川の喉元に素早く押し当てた。
「少々手荒にいたしますよ? たとえ騒ぎ出す輩がいようが、もみ消すことは容易いので」
他のスーツの男達も不穏な空気を纏っている。
(こいつらもオレを知らない…?)
「姫川!」
「………。…その兄ちゃん、あとで病院に運んでやれ」
聞きたいことは山ほどあるが、今は引いた方が良さそうだと悟った姫川は勝俣からたじろぎ、スーツの男達の間を通り、神崎が乗る自転車の後ろに立ち乗った。
2人を乗せた自転車が視界から消える最後まで怪訝な目を向けていた勝俣は、「おかしな奴らだ。金も受け取らずに…」と呟き、倒れているアヴァンに近づいた。
うつ伏せのため具合がわからない。
微かに背中が上下に動いているため、息はしているようだ。
「大丈夫ですか? 私の声、聞こえますか?」
呼びかけると、アヴァンは「う…」と呻き、はっと目を開けて身を起こした。
その顔面には車輪の痕が痛々しく残っていた。
顔を上げると鼻血が一筋流れ、それに気付いたアヴァンは袖で拭う。
「ここは…」
「妙な2人組と共に倒れていましたが、お知り合いで?」
「…!!」
すぐに気を失う前のことを思い出したアヴァンは、慌てた様子で自分の懐やポケット、アスファルトの上を見渡した。
(……ないっっ!!!)
瞬時に大量の汗が流れ、胃がしめつけられる。
あの魔石がなくなっていた。
魔石が纏う魔力で位置を感じ取ることができるのだが、現在自分の周りに魔石の気配はない。
飛ばされた場所は同じだ。
考えられるのはひとつ、誰かが持ち逃げした。
「あのガキ共…!!!」
そうなれば心当たりは、突如自転車に乗って自分目掛け飛んできた神崎と姫川しか思い当たらない。
「あの…?」
怒りに体を震わせるアヴァンに勝俣は、こいつもおかしいのか、と関わり合いになりたくなかった。
「大変だ!!」
その時、他のスーツの男達が騒ぎ出した。
「何事ですか!?」
ただならぬ様子に、勝俣は車の周りで騒ぐスーツの男達に駆け寄った。
ひとり残されたアヴァンは、骨が折れてないか手や足を振って確認してから立ち上がる。
「捜しださねえと…!」
(このオレから獲物を盗み取るなんざ…。あの人間のガキ共…! 魔石奪還と同時に惨殺してやる…!!)
プライドを傷つけられ、芽生えた殺意に周りの空気が震えた時だ。
「!」
アヴァンは、こちらを一角から窺う複数の視線に気付いた。
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