ぷちヴァンパイア、拾いました。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
好物のヨーグルッチがなくなってしまったので、コンビニに寄った日のことだった。
コンビニの掛け時計を見ると、時刻は午前0時を切った。
さよなら、10月。
ようこそ、11月。
コンビニを出て空を見上げると、ニヤリと笑う真っ黄色な三日月を見つけた。
住宅街を歩いて家路をたどるオレは妙な生き物と出会った。
「ぐーるぐるぐるヨーグルッ…いっってぇっ!」
ビシッ、と額になにかがぶつかった。
こんな時間に誰かがキャッチボールでもしていたのか。
しかし、当たったのはボールではなかった。
オレの額にぶつかったそれは、へろへろと宙を回転しながらオレの足下に落ちた。
黒かったから飛行を誤ったコウモリかと思って見下ろすと、銀髪のちっちゃい人間が傷だらけで倒れていた。
「……………」
オレは目を擦り、眉間をマッサージしてからもう一度見る。ちっちゃい人間だ。
目を回している。
オレはビニール袋からヨーグルッチを飲んで、5分間堪能してから2度見る。
やっぱりちっちゃい人間だ。
大きさはざっと5センチ。
黒のマントを身に纏い、オシャレに着こなしている。
躊躇ったが、オレはそいつを右手ですくうように拾った。
人差し指の先でつんつんと頬をつつくと、ぷにぷにと反動が返ってきた。
人形にしてはよくできてる。
「ぅ…っ」
突然声を出したそれに驚いて危うく落としかけた。
人形だと思っていたそれはもぞもぞと手の中で動き、大きな瞳を開く。
「あ…」
なんて声をかけていいのか。
それはオレの顔をじっと見つめ、いきなり「あ―――っ!!!」と大声を発した。
「え、な、なに?」
「今、何月何日の何時だ!?」
見た目は洋風だが、日本語は喋れるようだ。
喋り出したそいつに動揺しながらも、オレはさっきコンビニで見た時刻と日付を告げた。
それを聞いたそいつはオレの手の上で両膝と両手をついた。
「クソォ…完全に遅れたじゃねえか…! このオレが変な奴らに絡まれたばっかりに…」
オレと会う前になにかあったのだろう。
だからといって右手の上で落ち込まれても困る。
パニックを起こしかけた頭は落ち着き、「うっ、うっ」と震える小さな体に、とりあえず左手の人差し指でその背中を擦って慰めてみた。
すると、いきなり顔を上げたそいつは両手でオレの人差し指をつかみ、牙が見える口を大きく開けてガブリと躊躇なく噛みつきやがった。
「痛てえええええっっ!!」
近所迷惑なほど叫んだオレは、かぶりついたそいつを払おうと左手を払った。
しぶとい。
しかも血を吸ってる!?
だからといって右手でそいつの体をつかんで引っ張っても、オレの指が痛むだけだ。
オレが左手を止めると満足したのかそいつは口端から垂れたオレの血を手の甲で拭い、名残惜しそうに舐めとる。
「おまえ、意外と美味な血を持ってるな」
羽が生えたわけでもないのに、そいつは高くジャンプしてオレの頭にのった。
「普通のA型の血ですが?」
「A型だろうが新型だろうが、個人によって味と濃度が違うんだよ。おまえ名前なんていうの?」
「……神崎一」
妙な生き物に自己紹介する日が来ようとは。
家を出て、駅が近いアパートで一人暮らしを始めて2年。
オレはちっちゃなヴァンパイアの姫川と出会った。
ついでに血の味がお気に召したようで、めっさ懐かれてしまった。
「オレは由緒正しき純血ヴァンパイア、姫川家の姫川竜也だ」
ちっちゃいのがオレのちゃぶ台の上でエラそうに言った。
「西洋の生き物なのに和名なんだな;」
さて、連れて帰ってきてしまったが、どうしてくれようか。
姫川の体にあった傷は、オレの血を吸ったおかげか痕も残らず消えていた。
話を聞けば、昨日は魔界と人間界が唯一繋がる日であり、人間界にやってきた姫川は散々遊びまわった挙句、ハンターとやらに追われて帰るヒマも与えられなかったらしい。
さっきの傷はハンターにつけられたものだとか。
昨日は確かハロウィンか。
こういう奴らが遊びにくるから出来た行事だと知ってしまった。
「ハロウィンを狙って、金欲しさにハンターが狙ってくるんだよ。オレが魔力発散させたのをいいことに…」
「おまえらって売れるのか?」
「売れるさ。マニアに売りつけたり、見世物小屋で晒したりすれば軽く一千万は手に入る」
「いっせ…」
あまり現実味がない。
それにしても、そんなことオレに話して大丈夫なのか。
オレがおまえを売るとか考えないわけ。
知的そうに見えて、ただのアホか。
まあ、売りはしないけど。
「神崎だったな。昨日は人間界と魔界が繋がると同時に、人間界でも力を発揮できる日だったんだ。その日が過ぎてこのザマだ。いつネコのエサになるかわかったもんじゃねえ。―――てことで、来年まで、オレを世話しろ」
「……………」
かぽ、とオレはおわんを被せた。
「あっ!! なにしやがんだ!!」
オレはおわんの上にヨーグルッチを積んで出られないようにしてから寝転がり、ちゃぶ台の上のリモコンを手にとってテレビをつけた。
「出せーっ!!」
おわんが内部から叩かれる音が聞こえた。
(連れて帰ってくるんじゃなかった…)
なにが由緒正しき純血ヴァンパイア、だ。
坊っちゃんが。
教育がなってねえんだよ。
人んチに居候させてもらうんだったらそれなりの態度でいろっつーんだ。
ふと噛まれた指を見ると、凹みがあったが血は止まっていた。
親指で押してみるが痛みはない。
「出せ―――っ」
後ろではまだあいつが叫んでいる。
ニュースしか見るものがなく、オレはリモコンを消してヘッドフォンをし、音楽を聴きながら眠りについた。
明日起きればどうせ夢オチで終わっている。
そう信じたかったが、
「ガアアッ!!」
「ぎゃーっ!」
朝起きるなり、ヨーグルッチをどけておわんを上げると、おはよう代わりに本性露わに襲われ、手首に噛みつかれて血を吸われてしまった。
がっつきようは吸血鬼というより、狼男だ。
「こんのクソ吸血鬼がぁっ!! 出てけーっ!!」
「出てくかボケー!! オレの城より狭いこの部屋で過ごしてやるっつってんだ!! むしろ感謝しろっ!!」
「どこまで傲慢!!? てめーが感謝しろ!!」
小さな生き物と本格的な喧嘩だ。
つかんで床に叩きつけても、そこはやはり吸血鬼なのか死にはしない。
すぐに「やったなこのやろう」と身を起こして足にかぶりついてきた。
こんなに騒いだのはいつぶりか。
*****
散々喧嘩したあと、姫川からヴァンパイアについての注意事項を言われた。
ヴァンパイアの飼い方。
その1、なるべく日光に当てないこと。
「やっぱり灰になっちまうのか?」
オレの部屋は肌寒い季節は日当たりもよく、今も姫川は窓から差し込む朝日にモロに当たっている。
懐から色眼鏡を取り出してかけているだけだ。
「低級吸血鬼と一緒にすんな。オレら純血はちょっと日に当たったくらいで簡単にお釈迦にはならねえよ。…紫外線が気になるだけだ」
女子か。
吸血鬼も将来のシミを気にするというどうでもいいことを知ってしまった。
その2、にんにくのような匂いのきついものは控えること。
「オレ達はともかく匂いに敏感なんだ。ニラもキムチもアウト。焼肉行ったあとは、リセッ○ュを忘れるな。ちなみにオレはフローラルがお好みだ」
蚊取り線香みたいに、あちこちににんにく設置してやろうか。
その3、十字架を近づけないこと。
「火傷するって聞くけど…」
「純銀の十字架を体に当てられたらな」
「……そんな高価なモン持ってるわけねーだろ」
その4、杭で心臓を突き刺さないこと。
「さすがに死ぬ」
「心臓どころの話じゃねえよな、そのサイズじゃ」
杭も持ってねえし、これも気をつける心配はなさそうだ。
その5、血液とポマードは必須。
「………ポマード?」
食うつもりだろうか。
買ってきてやると、姫川は手慣れた様子でリーゼントを作りだした。
なんだか親近感が芽生える。
「外に出る時、これがけっこう役に立つ」
「…日よけ?」
吸血鬼っていうから弱点多そうだけど、姫川の場合注意事項は特に気にする必要はなさそうだ。
忘れてくれ。
それからオレと姫川の生活が始まった。
.