恋人の取説。
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オレは神崎に振り向いてほしくて、夏目に渡された本の通りにすすめていただけだ。
なのに、どうしてオレが神崎を嫌っている話になってるんだ。
「待て待て。なんでそうなるんだよ。オレが神崎を嫌いなわけ…」
「だったら、なんでメール送っても返信しねえんだ!」
「そりゃ……」
理由を話そうとして、言葉に詰まる。
メールが来たのは知ってる。
無視したことも認めよう。
だって、そうじゃないと本に書かれてあった、「かまう」ことになってしまうからだ。
一からやり直しになるのも御免だ。
しかしそれを神崎に話すこともできない。
「……腫れもの扱うみたいに距離置くし…。ヨーグルッチもらっただけでオレが気をよくすると思ったか!? てめーのペットじゃねーんだ! ナメてんじゃねーよ!! オレが欲しいのはそんなんじゃなくて……っ」
そこまで言って神崎は耳まで真っ赤になった。
「…「そんなんじゃなくて」? 続きは?」
オレが自惚れてもいい言葉なのか?
「…………っっ。…オレのこと、気に食わなくなったなら、そう言ってくれよ…。オレが辛ぇよ。好きな…っ、好きな奴に対してどう接していいかわかんねーオレなんかと一緒にいても、楽しくなかっただろ!」
そう吐き捨てるように言ってうつむく神崎を見て、オレは今まで自分のことばっか心配してたのだと自覚する。
本の言いなりになって、肝心の神崎のことをわかろうともしなかった。
居た堪れなくなったのか、神崎が踵を返す。
「てめーが言わねえなら…、オレから別れて…」
神崎が屋上の出入口のドアノブをつかむと同時に、オレは背後から神崎を抱きしめた。
「………今度は嫌がらねえんだな」
「あ…っ! は、放せコラ!」
はっと我に返った神崎はオレの腕の中で暴れる。
「神崎」
優しく名前を呼ぶと、神崎は一瞬大人しくなり、その隙にオレはくるりと正面を向かせると同時に、ちゅ、と風のように唇を奪ってやった。
「………!! キ……!?」
真っ赤な顔でフリーズする神崎を再び優しく抱きしめる。
今のがファーストキスだったら嬉しいな。
「あ……」
「別れるかよ。こんなに惚れこんでんのに…」
振りほどこうと思えばできるのに、神崎は無抵抗だ。
そっと頭を撫でてやれば一瞬震えたが、なすがままになる。
「安心した。オレ、ちゃんとおまえから好かれてたんだな…。正直、遊ばれてんのかと思ってた…」
「ば…、バカ言うなよ…。てめーじゃねーんだ…。嫌いな奴と…、付き合えるか…」
そう言ってる顔が見たくなったが、神崎はオレの肩に顔を埋めたまま上げようとしない。
恥ずかしいのだろう。
「神崎…、顔見せろよ」
「ヤ…」
オレの肩に顔を埋めながらぐりぐりと首を横に振る。
この天然キュート。
“顔のまわりを撫でてもらうのが大好きです”
「……………」
本のその一文を思い出したオレは、試しに神崎のアゴを撫でてみた。
「ひゃっ!」
くすぐったかったのか、神崎は顔を上げた。
オレは素早くその頬を両手で覆い、擦るように撫でる。
「ぅわ…ッ、な…、なにす…ッん…」
首を掻いてやれば切なげに眉を寄せる。
このまま押し倒してしまおうかと邪念が湧いたが、雰囲気を台無しにしたくないので、「キスしていい?」と聞いてから返事を待たずにキスした。
*****
翌日、オレはヨーグルッチを買いに自販機の前にいた夏目を呼びとめ、校舎の裏に連れていった。
「これ、返す」
オレは夏目からもらったあの本を、本人に返した。
夏目は不服そうな顔もせずにいつもの笑みを浮かべて「わかった」と受け取った。
「もう必要ないんだね?」
「ああ。あとはオレが自力で頑張ってみるさ」
ようやくキスまでいけたんだ。
その上は自分で目指す。
それを察したのか、夏目は「よかったよかった」と頷きながらにこにこしている。
しかしオレはそれで話を終わらせる気はなかった。
もう1つ、こいつに聞かねばならないことがある。
「おまえ…、それ自作だったよな? ほぼ参考になったっちゃなったが…」
どうも、“顔のまわりを撫でてもらうのが大好きです”という文が引っかかる。
試したのだろうか。
だったら黙って聞き流すわけにはいかない。
真顔になるオレに対し、夏目は噴き出した。
「ほぼ!? 参考!? そりゃよかった(笑)」
「あ?」
意外だと言わんばかりの笑いっぷりだ。
「ごめんごめん。そっか、参考になったんだ。よかったぁ。これ、とある参考書を見て、ちょっと変えて移し書きしただけだから…」
「参考書?」
なにを参考にしたというのか。
その時、近くの茂みがガサガサと音を立てた。
誰かそこにいるのかと振り向くと、茂みから一匹のトラネコが出て来た。
オレ達を見ても警戒もせずに、甘える声で「にゃー」と鳴く。
すると、夏目はその場にしゃがみ、トラネコを手招きした。
トラネコは「にゃっ」と夏目に駆け寄り、ゴロゴロと喉を鳴らしながらその膝に額をこすりつけ、夏目はその喉を優しく撫でる。
「さぁ。なんの参考書だろうね?」
呟くように言った夏目に、トラネコは気持ち良さげに目を細めて「うにゃーん」と返事を返した。
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