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リーゼント主義者で姫川財閥の御曹司・姫川竜也。
高校卒業した彼は、社長になるために毎日の多忙な日々を繰り返していた。
そんなある日、蓮井に会社へ送ってもらう途中、喉が渇いていた姫川は適当に自販機の前に停めてもらい、自ら降りて自販機に千円札を投入した。
本来なら、蓮井に買いに行かせるところだが、会社と家以外車を降りる機会が滅多にないため、ほんの少しの間でも、それ以外の場所の空気を吸っておきたかった。
「…!」
ガコン、と音を立てて出て来たのは、ブラックコーヒーの缶ではなく、白と青のカラーの“ヨーグルッチ”と書かれた紙パックだった。
「…誰かが入れ間違えやがったのか?」
甘ったるそうなそれを見た姫川は眉をひそめ、自販機を睨みつけた。
ガラス越しに今出て来たそれを捜してみるが、この自販機には存在しないものだった。
これから会議だというのに、苦手なものをよこされ、苛立ちが募る。
「坊っちゃま、そろそろお時間が…」
「わかってる」
釣銭をとった姫川は、仕方なくヨーグルッチを持って会社へと向かった。
数時間後、腹の探り合いといった殺伐とした空気から解き放たれた姫川は自分の個室へと向かい、デスクについた。
背もたれに体重を預け、天井を見上げる。
「面倒臭ぇ奴らだな…」
周りは全員敵ばかり。
あわよくばこの座を奪おうと目論んでいるのが目に見える。
父親が個室の仕事部屋をとってくれたのが幸いだ。
そうでなければ周りの空気に胃が刺されそうだ。
そういえば、と姫川はカバンの中からヨーグルッチを出した。
疲れた時には甘いものを、ともいう。
そう考えるようにして、ストローをパックにさして飲み始めた。
「甘っ!」
乳酸飲料の味が口内に広がり、それでも落ち着く甘さを吸い続ける。
あっという間にパックの中はカラになり、ズズズ…、と音を立てた。
「まあまあだったな…」
さて仕事に戻るか、とデスクのパソコンを起動させた時だ。
デスクの端に置いたパックのストローの先から、白い煙が上がった。
「!?」
それは、勢いよくもくもくと噴出し、大きな煙の塊となっていく。
「な…、なんだ…?」
「呼ばれて飛び出て…おはヨーグルッチ!!!」
その煙の塊から現れたのは、同じ年頃の男だった。
半裸で頭にはターバン、耳と口端は細いチェーンで繋がっている、見た目はインド人風だ。
「今、昼時だけど…。つか、誰?」
突然のことに姫川は混乱する。
いきなりパックから人が出てくれば当然の反応だ。
もっとパニックになってもいいくらいだ。
デスクに着地した男は偉そうに姫川を見下ろし、「ああん?」と睨みつける。
「てめぇ、ヨーグルッチは朝に飲んだ方が一番美味ぇんだよっ!」
「どーでもいいわ!! だから誰だよてめー!!」
そう返すと、男は舌を打ち、その場にしゃがんで自身を親指で指した。
「オレはヨーグルッチの魔人の、神崎さんだ。てめーの願いを叶えにきた」
「願い?」
姫川は訝しげに神崎の顔を見上げる。
「おう。ただし、1つだけな。あ、てめコラ、胡散臭そうな顔すんじゃねーよ!」
「当たり前だろ。買った自販機から出てきたパックがまさかの願いを叶える魔法のランプだぞ。大体、願いごとは普通3つまでだろ?」
そう言って姫川は3本指を立てて神崎に見せつけた。
説明するのが面倒臭いのか、神崎は舌を打つ。
「ランプ(本家)が願い事3つなんて贅沢させるから、この間世界に混乱まねくわ、戦争を起こしかけるわで規制されちまったんだよ」
この間と言われても、何十年、何百年前の話だ。
神崎は説明を続ける。
「あと、すぐに別人の手に渡らないように、こうして飲み干した奴限定で願いを叶えてやることにしたんだよ。自販機でランダムに出るとか考えたのも上の奴らだ。何億分の1の確率おめでとーございまーす」
棒読みとともに乾いた拍手を鳴らす神崎。
「壮大な宝くじだな」
「つうことで、オレも早く帰りたいからさっさと願いごと言え」
「態度の悪い魔人だな…。願い事……」
アゴに指を当てて考える姫川は、はっと目を開け、くるりと神崎に背を向ける。
「肩揉んで」
「ん? ここか?」
「そうそう。そこそこ。あー、いいねー」
「こりすぎじゃね?」
「もー、マジで仕事だるくってさー」
「たまにはゆっくり風呂に浸かれよ」
「あー、サンキュ。楽になったわ」
「よかったよかった」
「じゃあ、お疲れさまっした」
「ありあっしたっ」
ゴッ!!!
神崎は本気の踵落としを食らわせた。
食らった姫川はデスクに顔をめり込ませている。
「てめ魔人ナメてんじゃねーぞゴラァっっっ!!!」
ナイスノリつっこみ。
「言っとくけどなぁ! あっちに帰ったら報告書書かなきゃなんねーんだよ!! 結果報告「肩揉み(笑)」なんて、魔人的ブラックリスト載せる気かっ!!!」
「そっちの会社も大変なんだな…」
デスクから顔を上げた姫川は割れたサングラスをスペアに替える。
「せっかくの願いごとだぞ。世界を取るとか言えねえのか!?」
「世界? 別に欲しくねえよ。今は自分の会社とるのに精いっぱいなんだ。世界を取るなんてムリムリ。自殺行為」
「じゃあ億万長者は?」
「すでに億万長者ですが?」
「絶世の美女共に囲まれたり…」
「モテるからいい。女面倒臭い」
「不死身の体!」
「人間やめる願いなんて言語道断」
次々と返されるリア充発言に、神崎の顔にいくつもの青筋が立った。
「ふざけんなよ。オレ、てめーの願い事叶えねえと、あっちに帰れねえんだけど?」
「じゃあ「帰れ」」
「却下だ!!! 報告書書くっつっただろ!!! クビになるわっ!!!」
「痛たっ! 蹴るなバカッ!」
何度も足裏で蹴ってくるのを腕で防御しながら騒いでいると、部屋に蓮井が入って来た。
「坊っちゃま、書類の方を…」
「ちょうどよかった、蓮井。こいつ追い出してこい」
「? ……こいつ、とは?」
姫川が指さす方に蓮井が顔を向けるも、そこにはなにもない。
「え?」
「ぷぷっ。バーカ、オレの姿はヨーグルッチを飲んだてめーにしか見えねえんだよ。だからオレを追い出そうとしても無駄無駄。願い事言うまで一生つきまとってやる」
神崎が納得するような願い事を言わない限り、宣言通り本当につきまとってくるだろう。
それを察した姫川は苦渋に満ちた顔を浮かべた。
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