小さな話でございます。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ガキの頃、ランドセルを背中に揺らしながら帰ってきて、小腹が空いたから、真っ先に台所に向かって口に入るものを探した。
とにかく甘いものが欲しかった。
棚の戸棚を開けたり、冷蔵庫を開けたり、宝探しのような気分で漁っていると、棚の一番上にあるビンを見つけた。
「!」
親父が「食べすぎだ」と取りあげたアメ玉が詰まったビンだ。
全部、親父の部下の奴らがオレにくれたものだ。
まだ小さかったオレの背じゃ、棚の一番上に手が届くはずがない。
親父もそれを見越してそこへやったのだろう。
「んしょ…っ」
オレは椅子を引きずり、のってみた。
それでも届かない。
あと身長が30センチ伸びれば届くのに。
そこで背後から両脇をつかまれた。
親父か、その部下共に見つかったのだと慌てた。
「一、 なにやってんだ?」
「あ、あにき…」
ちょうど学校から戻って来た兄貴につかまったのだ。
「あれ、とりたい」
オレが指をさすと、苦笑した兄貴は「オレが協力したことは内緒だぞ」と言ってオレを高く持ち上げてくれた。
それから、たびたび、アメが欲しくなった時は兄貴にねだるようになった。
「もちあげてくれっ」って。
ガキながらアレは気分が良かった。
昔から借りを作るのが嫌いだったオレは、そのたびに兄貴に自分のアメを分け与えた。
*****
「一っ、一っ」
あれから数年後、オレは姪の二葉に上着の裾をひっぱられて台所へとやってきた。
「あれ! あのアメがいっぱい入ったビンを取れっ!」
偉そうに言う二葉が指をさした方向には、棚の一番上に置かれたビンがあった。
「あ…」
オレがせっせと集め、こっそりと食べていた、アメが入ったビンだ。
兄貴が家を出てからは目にも留めなくなったっけ。
「ほら」
オレは二葉の両脇を持って頭上まで上げた。
「おーっ!」
二葉ははしゃぐように声を上げ、アメが入ったビンに両手を伸ばし、手に入れた。
「オレが協力したことは内緒だぞ」
つい、あの時のことを口マネしてしまい、二葉は首を傾げた。
「……親父に妬まれたくねえからな」
咄嗟に思いついた言い訳を言うと、二葉は「だなっ」と納得して頷き、ビンの蓋を開け、アメを2個取り出してひとつはオレに分けてくれた。
今はすっかりデカくなって持ち上げる側になってしまったが、これはこれで気分が良い。
久しぶりに食べたそのアメは、賞味期限は大丈夫かと心配になったが、懐かしい味がした。
.