とある子猫達。
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翌日、たつやがいなくなった。
はじめがやけに鳴きながらオレの耳を引っ張るので、何事かと起きてみたら、たつやの姿がない。
「あれ…? たつや…?」
「みゃーっ、みゃーっ」
「…!」
オレ達が寝てる間にどこかへ行ってしまったようだ。
今、何時だ。
2度寝も熟睡だったらしく、朝日が昇る前に部屋に戻ろうとしていたのに、日はとっくに顔を出して街を照らしていた。
飼い主がオレを呼ぶ声が上から聞こえる。
「みゃーっ」
「静かに…。…捜しに行こう」
自分の都合を考えている場合ではない。
オレは必死に訴えてくるはじめを背中に載せ、飼い主には悪いが顔も見せずに茂みから庭を抜けだした。
今日も昨日のように散歩して過ごそうと考えていたのに、ブチ壊してくれるものだ。
あのチビのことだからそんなに遠くへはいけないはずだ。
移動しながら、まずは抜け出した理由を考えた。
それはすぐに浮かび上がった。
神崎だ。
昨日の様子から、あいつは神崎を必死に探していた。
オレだけじゃ物足りなかったのだろう。
ちょっとショックを受けたが、神崎の根城に行ってみた。
例の廃車置き場だ。
「たーつーやーっ!」
「み―――っ!」
廃車置き場全体に聞こえるように呼び、耳を立ててみたが、たつやの鳴き声は聞こえない。ここには来てないのか。
「姫川、どうした?」
居残り組がオレの声を聞きつけてこちらにやってきた。
はじめは警戒心を露わに、オレの背中に顔を隠すように擦りつける。
その状態のままオレは事情を話した。
神崎の耳に入るだろうが、気にしている場合じゃなかった。
たつやになにかあるほうがまずい。
「神崎さんがいないって聞いたら、すぐにぴゅっとどこかに…」
「どっちの道に行ったんだ!?」
聞けば、オレ達の昨日の散歩コースだ。
考えなしに行動しているかと思えば、ちゃんと見覚えのある道を通ってるのか。
昨日一度見ただけで。
頭は悪くないようだ。
これがはじめだったら迷子確実だな。
公園にはいない。
昨日はすぐにオレが逃げたから危ないところだと思ったのかもしれない。
なら、残るは空き地だ。
空き地に近づくと、昨日と違って騒々しかった。
黒い物体がいくつか空き地や近くの住宅の上空で旋回し、電柱の電線にも気味が悪いほど留まっている。
「カァッ!」
カラスの群れだ。
「うわ…。うそだろ…」
凶暴なカラスに古市が襲われたと話した男鹿を思い出す。
ギャァッ、と汚い声で鳴く奴までいる。
奴らに食われたか隠れているのか、虫は一匹もいない。
嫌な予感は的中した。
「みゃっ」
土管からたつやの鳴き声が聞こえた。
神崎を捜している途中で運悪く奴らが来てしまったのだろう。
土管に隠れたのはいいが、出るに出られないようだ。
「みー」
背中にのっているはじめが声をかけると、聞こえたのかたつやも「みゃっ」と鳴き返す。
「はじめ」
オレははじめを背中から下ろした。
「ちょっと待ってろ。今からあいつ助けてくるから、絶対ここを動くなよ?」
「みー」
はじめを電柱の陰に隠し、オレは空き地の中に飛びだした。
「カァッ!」
早くも察知したカラス共はこちらに降下し、くちばしでつついてくる。
「いててっ!」
オレの毛をつまんで引き抜いてくる。ハゲになったらどうしてくれるんだ。
一番痛いのが皮膚への直接攻撃。
体験したことはないが、ペンチでひねられているようだ。
「うく…っ!」
カラスまみれになるのだけは避け、反復横とびをしながら土管へと移動する。
「たつや!」
「みゃっ」
オレが土管から顔を出すと、たつやはこちらに飛びかかって来た。
感動の再会。
しかし浸っている余裕はない。
オレはたつやを咥えて空き地の出口を目指した。
「ギャァッ」
「カァ、カァ」
行きよりも帰りが困難だ。
さっきより降下してきた奴が増えてる。
「うっ!」
右足を思いっきり突かれ、その場に転ぶ。起き上がるより、オレはたつやを下に隠した。
傷つけるわけにはいかない。
容赦なく、その隙にカラス共がたかってきた。
気が済めば離れていくかと思い、オレは歯を食いしばって耐えた。
「て…めーら…!」
そのままガマンするつもりだったが、しつこくつつかれるたびに苛立ちが募り、爪を出す。
「調子に乗ってんじゃねえぞコラァ!!!」
「え」
オレが攻撃する前に、カラスに飛びかかる影があった。
驚いたのか、一斉にカラスがオレから離れる。
「野郎共!!!」
そいつが声をかけると、次々と町の野良猫たちが空き地に突入し、カラスに飛びかかったり威嚇したりしている。
野良猫とカラスの戦場だ。
そこからずっとたつやを下に傍観していたが、勝敗は野良猫達の勝ち。
身の程知らずなカラス共は引っ掻き傷を負ったまま、情けなく空へと逃げ去った。
「神崎…」
遠征から帰ってきたようだ。
随分と早い到着だな。
取り巻きの数も増えていた。
「おまえがチビを捜してるの聞いてな…。物騒なカラス共がこの町に来たってのも聞いたから…」
駆けつけてきてくれたらしい。
「みーっ、みーっ」
はじめもこちらに駆けつけてきてくれた。
たつやがオレの下から這い出ると、はじめはたつやがどこも怪我をしてないか確認し、心配させるなと言ってるのか、軽くパンチを食らわせてからすがりついている。
「……やっぱ…、おまえに似てる…」
「似てねえよ」
そう言いながら、神崎はオレの傷を舐め始める。
ざらざらとした舌が傷に障ったが、文句は言わなかった。
「見せつけていいのかよ」
「言ってる場合か」
夏目は「お熱いね」と冷やかすが、それでも神崎は無視してオレの傷を舐め続けた。
「神崎…、おかえり…」
「おう…。姫川も…、お疲れさん」
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