狐と狸と踊りゃんせ。
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それから、数百年の歳月が流れた。
神社に、浴衣姿の青年の影が2つ。
「姫川ー」
神崎は神社の石段の上から、こちらにのぼってくる姫川に声をかけた。
「あれだけ祭りではしゃいでたクセに元気だな…」
慣れない人込みでヘトヘトに疲れた姫川は、2段飛ばしで駆けあがっていった神崎を感心するように見上げた。
鳥居の下で、2人は石矢魔町を見下ろす。
夜景が一望でき、花火もよく見えそうだ。
まさに、石矢魔町の隠れスポット。
この場所を言いだしたのは、神崎だ。
「よく見つけたな、こんなところ…」
鳥居を潜り、境内を見回す。
手入れされていないのか、社殿へ続く石畳には雑草が生え、社殿や賽銭箱も長い間風雨にさらされ苔にまみれていた。
「ガキの頃とか…、中坊の頃もたまに来てた」
「なにしに?」
「さあ…、なにしに来てたんだろ…」
神崎は幼い頃の自分を思い返した。
なにがあるわけでもないのに、時々ひとりでこの場所に来ては、なにかを待つように社殿の前でじっと座り、時間が経てば家路についていた。
「そういや…、おまえと会ってからめっきり来なくなったな…」
「ふぅん? …ここに来るヒマがあるならオレに会いに行くってか?」
「……都合のいい思考回路してんな」
神崎は呆れながらそう呟き、2人は社殿の階段に座ろうとした。
その前に姫川は社殿の隣を指さす。
「お。あの木の方が見晴らしよさそうだ」
見つけたのは、社殿と同じ高さの大木だ。
近づいた姫川はそっと触れてみる。
「まだ子供だな」
「よくわかるな」
「あと100年経てばもっとデカくなる」
そんな気がした。
最初に姫川が登り、神崎は伸ばされた手をとって木の枝へと登った。
ちょうど、花火が上がり、どーん、と夜空に花を咲かせた。
「おー、スゲー眺め」
「だな…」
そろりと伸ばされた姫川の左手が神崎の右手に当たり、それに気付いた神崎は繋いでほしそうなその手を握り返した。
温かい手だ。
目頭が熱くなるほど。
2人は今の自分の顔を相手に見せないように、花火を見上げる。
「…神崎、あとで盆踊り行くだろ?」
「ああ」
「あとでちょっと、踊り方教えてくれねーか?」
「…いいぜ」
いつもの調子が出ない。
「おまえが盆踊り?」と小馬鹿にするような言葉も。
これは憐れみか、それとも新しい罰か…。
いつまでも手を繋ぎ合う2人を見下ろしているのは、あの山と花火だけ。
今、あの祠の両脇には狸と狐の像がたてられていた。
そして妖達の間では今でも囁かれている、“神破り”を犯した妖、狸と狐の物語。
その結末が悲劇で終わらないことを知っている妖は、いるのだろうか。
「姫川」
「ん?」
「来年も来ような」
「再来年もな」
「ああ。約束だ」
.END