小さな話でございます。
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神崎と姫川の2人きりの学校帰り、足先は姫川の家に向かう途中、小腹が空いたのでどこかのカフェに立ち寄ろうかと話していた。
「じゃあ、あの店に…」
姫川が指さしたのは、いかにも「高級」といった雰囲気のケーキ屋だ。
店内で座ってケーキやお茶を楽しんでいるシャレた客も見える。
神崎は、迷いのない足どりで店に入ろうとした姫川の腕を引いて店から離れた。
「どうした?」
神崎は肩を落とし、あからさまなため息をつく。
「あのよー…、毎回思うけど、てめーはオレに遠慮せず、少しはケチるってのを覚えた方がいいと思うぜ」
「ケチる?」
まさか「ケチる」という言葉自体を知らないのでは、と神崎は呆れたが、「節約だ」と簡単に教えてから言葉を継ぐ。
「オレはべつに、安っぽいケーキでもいいんだよ」
それこそ、コンビニで売ってるようなケーキでもかまわないとさえ思っている。
「バカ言うな。高い方がその分美味いし…」
姫川は眉を寄せて言い返そうとしたが、神崎は遮る。
「安いケーキ、食べたことねーだろ。高いケーキは誕生日ケーキだけにしとけ。付き合ってんだから、オレ相手に金で機嫌とろうとすんな。…セールのケーキでもいいから、てめーはオトクってもんを学べ」
「オトク…」
まだ不満そうな顔だ。神崎はトドメの言葉を口にする。
「てめーとはなに食べても美味い。…姫川はそうじゃねーのか?」
上目遣い+不安げな声。
姫川は不覚にもキュンとしてしまう。
「神崎…っ。…わかった」
姫川は神崎の腕を引いて、「オトク」を捜した。
「…よし、じゃああの店にしようぜ」
次に姫川がチョイスしたのは、一般人でも入りやすいケーキ屋だ。
店内に女子高生が多いのは気になるが、先程の店よりはマシだ。
学生が入りやすい。
神崎は腕を引かれるままに、甘い香りが充満した店内に入った。
女性店員2人が声をそろえて「いらっしゃいませ」と一礼し、営業スマイルで2人を迎える。
ショーケースには、小遣いの少ない学生でも買える値段のケーキがずらりと並べられていた。
神崎は季節限定のマンゴータルト、姫川は甘さ控えめのガトーショコラを注文する。
店員がショーケースから取り出そうとした時だ。
姫川が「ちょっと待った」と声をかける。
選び直しかと神崎も首を傾げると、姫川は突然神崎を抱きしめた。
「は!?」
「「「「ええ!?」」」」
店内がざわめいた瞬間、姫川は構うことなく神崎とキスする。
(はあ!!?)
((((きゃあああああ!!?))))
絶叫を押し殺すほどの驚愕ぶり。
店員達も真っ赤な顔で目を点にしていた。
茫然とする神崎から離れた姫川は、店員に向き直り、満足そうな笑みを浮かべる。
「キス割とハグ割、合わせて3.5割引きだな」
神崎は見ていなかった。
ケーキ屋の前に置かれた立て札に、“ハグ割:1.5割引き キス割:2割引き”と書かれた文字を。
「す、すみません…、その…、併用はできなくて…」
口元に営業スマイルを浮かべながらも店員はややうつむき、言いにくそうに答えた。
「え―――。じゃあキス割の方で割引してくれる?」
「か、かしこまりました…っ。あの…お持ち帰りですか?」
未だに動揺しながらも、手はレジを打っている。
「いや、店内で…」
「お持ち帰りでっ!!」
まったく気にしていない様子の姫川と違い、痛いほど突き刺さる店内中の視線にいたたまれない。
神崎は早く店から出たさあまりポケットからサイフを出し、1000円札をカウンターに置いて一括で済ませる。
早くっ、と真っ赤な顔と訴える神崎の涙目に促され、店員も急いでケーキを箱詰めした。
「お待たせしました」
おつりも受け取り、神崎は姫川の袖を引いて足早に店を出る。
「てめ…っ、あんな…っ」
「いやぁ、オトクがあんないいモンだとは思わなかった」
まだケーキも食べてないのに、姫川は御満悦だ。
「オレが言いたかったのは、そういうことじゃねえよっ!!」
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