前日の追いかけっこ。
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今度はメンズアクセサリーショップだ。
ブランドものではなく、高校生のサイフでも買えるところだ。
オレは向かいのCDショップの窓からそれを窺っていた。
男鹿と古市が一緒にいるのは見慣れた光景だが、あいつが加わると違和感…パネェ(パー子のマネ)。
つうか古市、距離近すぎだろ。
男鹿も、なに首傾げて聞いてんだ。
相手はあの2人だってのに、姫川が楽しげに話してるの見てるとムカつく。やっぱりアレか。
オレと付き合ってるからあいつは男でもイケると思ってるのか、オレ。
ずっと眺めているのも怪しいので、CDを眺めているフリをする。
そこでオレはとあるCDに目を留めた。
(あ、そうか、今日発売日だったな…。……金持ってくればよかった)
小銭はあるが、札が少ない。
仕方ない、また買いに来るか。
その時、店の通路を見ると、見覚えのある奴が横切った気がした。
いや、気のせいじゃない。
あの棚よりデカい奴オレンジ頭は知ってる。
(東条…!!)
店の服を着ているということは、ここでもバイトしてるのか。
CDの入ったダンボールを運んでいた。
オレは反射的に棚の後ろに隠れ、そのまま外へ出て別の店から窺おうとガラスの自動ドアに向けて走ったが足を止めた。
店から出てきた姫川は男鹿達に手を振ったあと、こちらに一直線に向かってきたからだ。
このまま出たら鉢合わせだ。
オレは急いで店の奥へと逃げ込んだ。
店に入ってきた姫川はすぐに東条の姿を見つけ、「東条!」と声をかけて近づく。
「お、姫川」
「突然来て悪いが、あのこと忘れてねえだろな? おまえバイトに夢中で忘れそうだったから心配してきてやったんだ」
「……………?」
東条が首を傾げ、肩を落とした姫川は「やっぱ忘れてたか」と呆れた声を出す。
「明日だ。明日のこと…」
「……おお、そうだそうだ。思い出した」
「ったく、しっかりしてくれよ…」
なんの話をしているのだろうか。
東条がなにを忘れてたのか。
気になる。
「それじゃあ、あとでな」
「おう」
あとで?
また会う気か?
オレの知らねえところでなにやってんだ、あいつは。
姫川が店を出たのを見計らい、尾行続行。
現在、17時40分。
姫川がこちらに振り返りそうになるたびに車や通行人の陰に隠れながらだ。
やがて、大通りにやってきた。
人込みで姫川の姿を見失わないように気をつけながら尾行を続ける。
気持ちは忍だ。
姫川は喫茶店の中に入っていった。
「また店に入られた」
けど、今度はそれなりに広い店だ。
店に入って席を指定し、姫川の後ろの席に着席した。
姫川の背中がすぐそこだ。
バレないようにメニューで顔を隠した。
相手はいない。
でも、待ち合わせなのは間違いないだろう。
もっと気になるのは、姫川の前に置かれている、レター用の白い封筒だ。
「お待たせ」
「!!」
現れたのは、夏目ひとりだ。
出入口から入ってきた夏目は、ウェイトレスに案内され、姫川に一声かけてから向かいの席に座った。
どうして夏目が。
そういやあいつ、オレが「用事あるから」って言ったら、「よかった。オレも今日ちょっと用事が…」と返したのを思い出す。
その用事ってコレのことだったのか。
なんの用事なのか。
オレはそわそわとする。
ここなら会話もよく聞こえるはずだ。
「それで…」
「ああ」
姫川は目の前の封筒をスッと夏目に渡した。
「間に合うか?」
「たぶんいけると思うよ」
「そっか。なら、よかった」
封筒の中は金だろうか。
夏目は確認せずにポケットの中へと入れてしまった。
姫川はホッとした顔をする。
なにに安堵しているのかまったくわからない。
(夏目の奴、なにをお願いされたんだ? オレに言えないことなのか? まさか姫川のヤロウ、夏目に…)
その時だ。
「姫ちゃん」
「!」
夏目は声をかけると、机にのせられた姫川の右手の甲の上に、自分の右手を重ねた。
ちょっと待て。
なにしてんだあいつら。
「このあとヒマ?」
「ん? ああ」
「じゃあ…、付き合ってくれる?」
ドクン、と心臓が跳ねた。
嫌な跳ね方だ。
「時間がねえから早くしろよ」
姫川は平然とそう答え、席を立った。
夏目は「うんうん」と笑みを浮かべて頷き、姫川の腕に絡みつく。
「おい、ベタベタすんなよ。どーした?」
そんな2人の背中を見送ったオレ。これから2人がどこへ行くのか気になったが、怖くなって立ち上がることすらできなかった。
時間は18時30分。
日はとっぷりと暮れていた。
そろそろ帰られねえと。
でも、復活までもう30分かかりそうだ。
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