呪いの解き方、教えて下さい。
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「男鹿ヨメ―――ッ!!」
学校に到着するなり、神崎はヒルダを廊下へと連れ出した。
「…一緒じゃないのか?」
ヒルダは神崎の周りを見回すが、姫川の姿がない。
「今日死ぬかもしれないって時に悠長に学校なんざ来てられるかってんだ! てめぇ、絶対オレ達じゃ止められないってことわかってただろ!?」
今にもつかみかからんとする勢いだったが、ヒルダが自分より強いことはわかっている。
それに、今回は彼女の機嫌を損ねるわけにはいかない。
ヒルダは「ほう」と腕を組んで感心していた。
「男鹿よりは理解力があるな…」
「フフン、当たり前だろ。 …いやいや、そういうことじゃなくて…」
褒められて一瞬嬉しくなった神崎だったが、本題を忘れてはならない。
「昨夜は高みの見物をさせてもらった」
「てめぇ…」
青筋を立たせる神崎だったが、ヒルダはそれを手で制す。
「怒るな。奴の呪力を見たまでだ。なにせ、それほど情報を持ち合わせていなかったからな。…貴様が心配せずとも、今日は力を貸してやる」
「お…、おう…」
神崎がヒルダに頼みたかったのはそのことだ。
「一般のボディーガードでは当てにならん。魔力に免疫がある者でなければ…。貴様は亡者の前でも動けただろう」
「そういえば…」
ボディーガード達は一瞬で気絶させられたのに、神崎はそれがなかった。
やろうと思えば、気を失わせることができたかもしれないのに。
「早乙女の修業を受けておいてよかったな」
「…なら……」
今夜のボディーガードは、おそらく知ったメンツばかりが集まるだろう。
時刻は午前3時を切った。
神崎が声をかけたメンバーは全員来てくれた。
あとはヒルダが考えたプラン通りに行動することだ。
「奴はどこへでも追ってくる。海外へ逃げようが、ヘリで逃げようが…、どこへでも…」
それを聞いた姫川はゾッとした。
ヒルダが来てくれなければ実行しようとしていたことだ。
「アランドロンで次元転送をしては?」と古市は提案を出したが、ヒルダは「奴は次元を越えて現れている。どこへでも追ってくると言ったはずだ」と冷たく返した。
姫川を隠した神崎は、3005室のモニタールームでヒルダと蓮井とともに待機していた。
マンション内に設置されたすべての監視カメラを見ることができる。
昨夜のように電源をシャットアウトされてしまうかもしれないので、あらかじめヒルダとアランドロンが手を加えておいた。
連絡は無線機を使用する。
3時半。
別室に移動させられた姫川から連絡がきた。
“奴は来たか?”
不安の声に、神崎は無線を口元に近づけて返す。
「まだだ。…絶対死なせたりしねーから、大人しく待ってろよ」
“……息苦しくてな…。おまえの声を聞いてねえと落ち着かねえんだよ”
「……………」
あのネックレスは、チョーカーのように姫川の首に巻きついていた。
徐々に食い込んでいるのだろう。
姫川の息が荒い。
(…あいつの首、斬らせてたまるかよ…!)
神崎はモニターを睨み、無線機を握りしめた。
「!」
その時、玄関のモニターに亡者の姿が映り、凝視する。
昨夜と違って、今度は大鎌を肩に担いでいた。
「来た…! 城山! 古市! 第一関門、できるだけ時間稼ぎしてくれ!」
マンションの玄関には、城山と古市が待機していた。
“ムグ!? ま、任せてくださいっ!”
“ホントにきたーっ! モガモガ”
「夜食食ってんじゃねーよっ!!」
2人はいつ買ってきたのか、ハンバーガーを食べていた。
緊張感にかけつつも、2人はマンション内に入ってこようとする目の前の亡者と対峙する。
「臆するな古市!」
「殺されそうな鎌持ってますけど…」
古市は目に見えて城山の背後に隠れていた。
「亡者にはこれだ!」
城山が取り出したのは、ニンニクと十字架だ。
“吸血鬼だ!! それはっ!!”
今回は神崎がツッコミ役。
「神崎先輩がオレのツッコミを…!!」
「古市、おまえはなにを持ってきたんだ?」
十字架を死神に見せつける城山に問われ、古市はポケットからお祓い用のお札を見せた。
「神社の巫女さんに書いてもらいました!」
「おおっ。それっぽいぞ!」
“「ナンパお断り」って書かれてるように見えるのはオレだけか?”
お札を見せつけられた亡者だったが、文字が読めたのか、古市の肩に手を置いてあからさまに憐れむようなため息をついた。
ドンマイ。
そう言ってるようだ。
(チクショ―――ッ!!)
「古市!!」
精神的ダメージを受けた古市はその場に両手両膝をつく。
亡者は2人の間を通り、玄関を自力で開けて中に入った。
「すみません神崎さん。失敗しました」
“一目瞭然だボケども!! スライムでももうちょっと粘るぞ!!”
亡者はエレベーターで上がろうとしたが、電源は切られていた。
自力で入れられると思い、念の為ワイヤーも切っておいた。
腹を立てたのか、エレベーターを蹴り、階段へと向かう。
そこで第二関門に遭遇する。
5階と6階の踊り場で、レッドテイルが待ちかまえていた。
全員、水着だ。
神崎は無線で連絡する。
“第一プラン、“霊媒作戦”は失敗。第二プラン、“色仕掛け作戦”実行”
花澤以外、全員羞恥が見え隠れしていた。
「そ…、そこの死神さーん」と大森。
「私達と…」と谷村。
「あ…、遊ばなーい?」と邦枝。
亡者は立ち止まり、様子を窺っている。
(成功…?)
嬉しくない達成感を得ようとしたところで、亡者は、鼻で笑った。
“ハッ…”
「な…!?」
バカにされた気がして、邦枝達は各々の武器を手にとる。
すると、亡者はローブの下を見せた。
昨夜の折れてしまいそうな腕もどこへ行ってしまったのか、亡者の袖から女のような手が出てきた。
ローブの下も、豊かな胸を持った胴体が露わになる。
ヒルダにも劣らぬダイナマイトボディ。
「「「「女ァ!!?」」」」
モニターから見ていた神崎達もレッドテイルも驚愕した。
邦枝、大森、谷村を抜いて、亡者の体を見てしまった花澤達がその場に崩れる。
「同じ女としてショッキングっス…!!」
「みんなしっかり!」
亡者は勝ち誇りながら上へと目指した。
途中途中にある次の階へと続く階段は、上がれないようにと家具で塞いだり、油を撒いたり、階段ごと崩したり。
しかし、亡者は速度を落とすことなく難なくクリアする。
それを見た神崎は舌を打ち、第三プランを発動させるために連絡を取る。
「第二プラン失敗! 第三プラン“障害物作戦”も失敗! 第四プラン“力づく作戦”実行!」
だが、応答はない。
「おい、男鹿!」
25階で待機しているはずの男鹿から返答がない。
モニターには階段に座り込み、真剣な顔をしている男鹿が映っている。
集中のあまり聞こえないのではないか。
「…?」
いや、よく見ると、口端からよだれが垂れている。
「寝てる!!?」
肩にいるベル坊もすやすやと眠っていた。
「今何時だと思ってる。坊っちゃまはとっくにおやすみの時間だ」
第四関門、あっさり突破。
「どこ行く気だ」
亡者が階段を上がってこちらへやってくる間、ヒルダが部屋を出ようとしたため神崎が呼びとめる。
「私は私のプランを実行するまでだ」
「そんなの、一言も聞いてねえぞ」
ヒルダは「言わなかったからな」と薄笑みを浮かべて答え、ドアから部屋を出て行く。
「男鹿ヨメ!」
追いかけようとしたところで、蓮井に「神崎様!」と呼びとめられ、モニターに振り返った。
亡者が、早くも30階にやってきた。
途中にあった東条達の“力づく作戦パート2”も失敗したようだ。
迷いのない足どりで廊下を渡っている。
姫川を隠したのは、3010号室。
あのネックレスに引き寄せられているのか、姫川の居場所はバレているようだ。
「! おい…!」
亡者の呪力に当てられ、蓮井が耐えきれずにその場に伏した。
亡者がこの部屋の前を通過するのがモニターで見え、神崎はドアの横に立てかけておいた金属バットを手にし、部屋を出た。
「待ちやがれ!!」
振りかぶり、背後を狙って勢いよく振り下ろす。
だが、亡者の頭に直撃する寸前、見えない壁に当たり、跳ね返された。
「ぐっ!」
勢いに負け、神崎は尻餅をつく。
手から離れた金属バットは片廊下の窓ガラスを破り、外へと落下した。
「待て…!! 待てっつってんだろ!!」
3005号室の部屋も通過されてしまった。
もうすぐそこだ。
神崎は走って亡者の横を通過し、3010号室のドアの前に立ち塞がる。
「あのネックレスを買ったのはオレだ…! オレの首を刎ねればいいだろ!?」
亡者は3010号室の前で足を止め、嘲笑する。
“アレを付けたのは…、あの男だ”
ドガッ!!
扉ごと吹っ飛ばされてしまう。
「あぐ…っ」
明かりのない部屋の廊下に背中を打ち、神崎は頭に生温かいものを感じた。
朦朧とする意識にしがみつき、身を起こす。
「神崎!!」
奥から姫川の声が聞こえる。
「出てくんな!!」
“見つけた…!”
亡者は大鎌を片手で持ち、姫川に向かって真っ直ぐに走る。
“あははは!! 私の首ィ!!”
「姫川―――っ!!」
「っ!!」
姫川は反射的に身を屈めてそれをかわし、そのまま亡者の脇を通り抜けて神崎のもとに駆け寄る。
「神崎…!」
神崎の頭に触れると、温かい血が付着した。
“どこへ行く…!?”
亡者が鎌を掲げると、先端から青光りする電気が発せられ、それは真っ直ぐに姫川の首へとつながった。
「ぐ…!?」
釣り糸をたぐりよせるように、姫川の体がずるずると亡者のもとへと引きずられる。
「姫…川…!」
神崎は手を伸ばし、姫川の手をつかんだ。
しかし、引き寄せられる力は強く、神崎自身も姫川もろとも亡者のもとへと引きずられてしまう。
亡者は姫川の首を刎ねようと待ちかまえている。
呪い達成まで、あと1分。
持ちこたえることは不可能か。
「おい、そこの首なし」
「!」
入口に立っていたのは、ヒルダだ。
「「男鹿ヨメ!?」」
なにか策があるのだろう。
神崎の中に希望が生まれた。
ヒルダは剣を片手に、こちらに向かってくる。
ザンッ!
「…え?」
斬りつけられたのは、姫川の首だった。
鮮血が廊下に飛び散り、神崎の顔にもかかる。
ヒルダは不敵な笑みを浮かべた。
「貴様に取られるくらいなら、私がもらう」
亡者は鎌を落とし、顔面を覆った。
“私の首がああああああっ!!”
絶叫とともに、長針が4時44分に達した。
パァンッ、と“亡者の首”が弾け、亡者は黒い煙となってペンダントのドクロに吸い込まれ消えた。
ヒルダはそれを拾い、握りしめる。
「終わったな…」
「てめえ!!」
立ち上がった神崎はヒルダの肩をつかみ、壁に押し付けた。
「なにが「終わった」だ!! 姫川死んじまったじゃねえか!!」
「神崎君!」
今までどこにいたのか、入口から夏目が入ってきて神崎に駆け寄り、肩をつかむ。
「落ち着いて、神崎君!」
「姫川返せよこのアマァ!! あいつを助けてくれるんじゃなかったのかよォ!!」
目に涙をためた神崎を見つめ、ヒルダは小さく息を吐き、剣先を姫川に向けた。
「だから、助けただろ」
「…神ざ…き…」
「!?」
振り返ると、身を起こして首を擦っている姫川の姿があった。
それどころか、廊下に飛散したはずの血もなくなっている。
「この剣は、1分の間、殺したように見せかける…騙し道具だ。…プランはすべて成功していた。残り1分まで持ちこめたからな…」
「そんなふざけた剣、一体どこで…」
姫川が問うと、代わりに夏目が答える。
「ああ。あの人が…」
入口を指さすと、現れたのはアランドロンだ。
「…オッサンが?」
姫川がそう言うと、アランドロンは自身を割り、中からロープで縛られた男が出てきた。
ヒルダになにかされたのか、顔には大きな痣が目立っていた。
「あーっ!! こいつ…!!」
神崎は見覚えがあった。
男は「へへっ、どうも…」と引きつった笑みを浮かべる。
ネックレスを売りつけた張本人だ。
「ふむ。奴も高みの見物をしているだろうと捜した結果、近くのビルに潜んでいた。脅したところ、この剣をくれたのだ」
ちなみに捜索は夏目や他の石矢魔生徒も協力してくれた。
「この男はこのまま魔界へ連れ帰る。…大魔王様から直々に裁きを下されるのだ。貴様、運がいいな」
男は「ひっ…」と怯えた声を上げ、アランドロンの中へと引き摺り込まれる。
「い、嫌だ!! オレは魔界には帰りたくな…」
転送。
姫川は足下に落ちたネックレスの破片を拾う。
「…生きた心地がしなかったぜ…」
「オレもだ…」
神崎はその場で腰を下ろし、長いため息をつく。
指先はまだ震えていた。
姫川は神崎のもとに歩み寄り、その手を握りしめた。
「終わったんだ。…神崎」
「……ああ」
姫川の手が温かいままなことに安堵し、溜めてた涙が一筋頬を伝った。
*****
数日後、神崎と姫川は下校中だった。
姫川の胸には、十字架のネックレスが光っていた。
だが、チェーンは前のものを使用している。
神崎は今朝からずっとそれを気にしている様子だ。
「大丈夫なのかよ…。それ…」
「呪い自体はあのドクロのモンだ。…問題ねーよ」
「そうか…」
「おまえがくれたものには違いねえし…」
「……………」
そんな会話をしていると、姫川は歩道の右端に小さな露店を見つけた。
「そこのリーゼントのお兄さん、いいものがあるよ」
ベレー帽を被った中年の男が愛想のいい顔で声をかける。
露店に並べられているのは、指輪ばかりだ。
「…いや、遠慮しとく」
惹きつけられそうになったが、姫川は神崎の手を引いて足早にそこを去る。
「残念。またのお越しを」
その2つの背中を見送った中年は頬まで裂ける笑みを浮かべ、煙のように消えた。
あなたも、人間を愉しむ悪魔達の誘惑にはお気をつけて。
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