小さな話でございます。
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とある監獄にて、その地下の奥にある牢屋に、マフィアの一員である男が捕えられていた。
世間を騒がせる天下のイシヤマファミリーの一員である、姫川。
襲撃の最中、ひとり捕らわれてしまったのだ。
両手には壁に繋がれた手枷をはめられ、半裸の状態で丸3日、水も食料も与えられずにいた。
その肌にはムチで打たれた痕が生々しく残っている。
明かりも差すことのない真っ暗な部屋。
拷問専用の牢屋なのか、血と排泄物の匂いが充満している。
最初はあまりの悪臭に吐きそうになった姫川だが、3日経った今では鼻が慣れてしまっていた。
(噂通り、酷ェとこだな…)
廊下の奥から足音が聞こえた。
それはこちらに近づき、檻の扉を開けて入ってくる。
拷問専門の看守だ。
ジェイソンを思わせるような白い面を被り、拷問器具が入っているだろう肩にかけたボストンバッグを床に落とした。
「…昨日の拷問はどうだった?」
看守はそう尋ね、その場にしゃがんでバッグを漁りだす。
「うーん…。気絶しない程度に電流流されたり、爪剥がされたり、ムチで打たれたり…」
「それでも仲間について喋らなかったらしいじゃねーか。見上げた根性だな」
「仲間について喋っても、てめーらはオレを始末するだろ。どこのファミリーに金つかまされた?」
「……………」
「まあいいや。オレの代わりはいくらでもいるんだ。―――…で、今日はなんの拷問? 男色共の牢屋に放り込むってマジな話?」
カチン、と音が聞こえた。
銃弾を装填する音だ。
「!」
拳銃の銃口を向けられた姫川は一瞬顔色を変えたが、すぐに薄笑みを浮かべた。
「……Mじゃねーし、痛いのもうヤだから、一発で終わらせてくれねーか?」
「一発で済むわけねーだろ」
ドン! ドン!
引き金は連続で2回引かれ、撃たれた銃弾はどっちも姫川を外して手枷の鎖を吹っ飛ばした。
「…!」
両腕の自由を取り戻した姫川はその場に両膝をつく。
看守は姫川に近づいてそのアゴをつかんで顔を上げさせ、拳銃を持ったままの右手で仮面を取り去って素顔を晒し、姫川の唇に熱いキスを落とした。
「…血の味だな」
「神崎…」
その看守の正体は、同じイシヤマファミリーの神崎だ。
神崎はバッグに近づいて中から高価なスーツを取り出し、白のスーツを姫川に投げ渡した。
「着替えろ。臭いが染み付く前に出ねーと…。あ、その前に水」
神崎はバッグからミネラルウォーターの入ったペットボトルを手渡してから、元の黒のスーツに着替え始める。
姫川は着替える前に一気に水を飲み干し、少し咳き込み、手の甲で口端を拭ってから口を開いた。
「ここまで来るとは…」
「古市がこの監獄について調べ上げた。狡猾さに欠けるが、てめーが言う「自分の代わり」だけはあるぜ。あ、ちなみに男鹿のヤロウ…―――いや、ボスはご立腹だ。大事な商談係が捕まっちまったんだからな」
「あー…、ケガしてても同情してくれなさそーだ」
姫川は男鹿と再会した時のことを考え、ため息をつきながら着替えを始めた。
ついでに気合が入るように髪型もリーゼントにキメる。
「―――で、このあとのことは考えてんのか? 神崎」
神崎は拳銃とグラサンを姫川に渡し、「抜け目はねーよ」と不敵に笑い、自分のサングラスをかけた。
サイレンが鳴りだした頃には、神崎と姫川は通気口から外へと脱出していた。
神崎は時計を確認する。
「ちょうど時間だ」
監獄の塀の前で堂々と待っていると、黒の高級車が近づいてきた。
運転席には男鹿、助手席には古市が乗っている。
運転席側の窓が開かれ、男鹿は作戦成功を確認する。
「姫川先輩、大丈夫っスか!?」
「置いてかれたくなかったら早く乗れ! パトカー来てんだよ!」
神崎と姫川はすぐに後部座席に乗り込んだ。
車はすぐに発進され、監獄の出入口から次々と出てくるパトカーが追いかけてくる。
「もう2度とあんなところに戻るのは御免だ」
左の後部座席に座る姫川はそう呟きながら銃弾を装填する。
神崎は装填を確認したあと、いきなり姫川のこめかみに銃口を当てた。
「!」
「か、神崎先輩!」
ミラーで確認した古市はぎょっとする。
「次…、勝手にオレの代わりに捕まったら、オレがてめーを殺す」
襲撃の際、姫川が身代わりにならなければ捕まっていたのは神崎だったのだ。
「…約束だ」
姫川がそう言うと、神崎は銃口を下ろし、見守っていた古市は胸をなで下ろした。
「…姫川先輩が捕まっている間、神崎先輩、気が気でなかったのでオレ達も冷や冷やしてて…。今回も「オレが姫川を助ける」って聞かな…」
「古市、てめーから撃ち殺すぞ」
神崎は目の前の座席に銃口を押し当てた。
「すみません…っ」
「神崎…」
姫川は神崎の肩を引き寄せ、その耳に囁く。
「帰ったら、ベッドで殺してくれねーか?」
すると、神崎の顔は耳まで真っ赤に染まり、姫川の股間に銃口を向けた。
「やっぱコロスッッ!!」
「オレが今まとめてブチ殺すぞっ!! さっさと撒くの手伝え!!」
男鹿に怒鳴られた2人は窓を開け、車が乱暴な運転で路地の曲がり角を曲がると同時に窓から体を乗り出し、追いかけてきたパトカーに向け、引き金を引いた。
タイヤを打ち抜き、事故を起こした2人は車内に戻る前にこんな短い会話をする。
「…「自分の代わり」がいようが、オレにはてめーしかいねえんだってこと、風穴空けられたくなかったら絶対忘れんなよ」
「そーゆー素直なセリフ、毎日聞きてえもんだ」
4人を乗せた車は、アジトへと向かう。
他の仲間はきっと美味い酒と食事でも用意して待ってくれていることだろう。
お楽しみのデザートはそのあとだ。
姫川は隣に座るデザートを流し目で見、実に悪人らしい笑みを浮かべた。
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