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「一時はどうなるかと思ったが、持ち直せてよかった…」
依頼人は携帯を見つめ、安堵の表情を浮かべていた。
床に転がった神崎は頬の痛みに顔をしかめ、身を起こそうとする。
だが、眉ピアスはその背中を踏みつけ、動けなくする。
「ぅ…っ」
「だから、大人しくしてろって…。こいつ、薬嗅がせたわりにはよく暴れやがる」
それを見た依頼人は注意する。
「手荒に扱うな。今は…」
「ああ」
眉ピアスは返事を返し、神崎の腹を蹴って仰向けに寝かせる。
「……………」
(姫川…)
染みのある天井を見上げた神崎の脳裏に、姫川の顔が浮かんだ。
このロープさえ解ければ、殴り返してやれたのにそれができない。
なにより悔しいのが、自分が捕まったせいで姫川が目の前の奴らに振りまわされていることだ。
どうにか自分の力で切り抜けたい。
そこで神崎は話しあっている依頼人達の動きを見ながら、後ろポケットに手を伸ばした。
*****
時間は残り30分を切った。
「坊っちゃま!」
「!」
蓮井が席を立つ前に、姫川は蓮井の背後に近づき、パソコンの画面を見た。
口髭の男。
ネクタイには黒アゲハのピンがある。
「2年前に倒産した会社の元・社長です。会社は“スパングル・コーポレーション”。姫川財閥に負けた会社のひとつです。…この黒アゲハのネクタイピンは、社長の特注品です」
「そいつは今どこでなにしてる?」
「会社が倒産したあとしばらくして離婚。今は小さな工場の従業員として働いているそうですが、1週間前から行方をくらませています」
蓮井はキーボード打ちながら情報を伝える。
すると、その向かいの席で同じくその会社について調べていたメイドが声をかけた。
「彼が管理していたホテルや別荘の場所が特定できました!」
すぐにプリントアウトする。
姫川はそれをつかみとり、目を通す。
ホテルはこの石矢魔町だけでも4つ。
別荘は2つ。
どれも位置がバラバラだ。
それでも、残り少ない時間で見つけ出すしかない。
「決定づけるのはまだ早いが、こっちはもう時間がねえ! いちかばちか、当たるしかねえだろ。蓮井、神崎はオレが捜す! おまえは5億持って取引場所に向かってくれ!」
姫川は印刷されたデータを持って、外へと飛び出した。
「お気をつけて!」
神崎が人質に捕えられているのなら、あまり派手には動けないうえに、先程手に入れたばかりの情報なので、大勢の部下は用意できない。
すぐに蓮井に電話をかけ、情報収集班と探索班に分けさせ、自分の位置から遠くにある別荘2つとホテル1つを当たらせ、自分は近場のホテルを当たることにした。
時間は残り20分。
どしゃぶりのなか、姫川はタクシーをつかまえ、近場のホテルへと向かう。
「神崎…」
ホテルには6分で着いた。
運転手に適当に金を渡し、目の前のおんぼろなホテルに駆けこむ。
4階建てのビジネスホテルだが、すでに廃虚となっていた。
関係のない人間が入り込んでいるのだろう。
中の壁にはたくさんのスプレーで描かれたグラフィティアートがあった。
部屋を1階から順番にひとつひとつ開けて中を見るが、誰もいない。
それどころか気配すらない。
もしもと考えながら捜すが、4階すべて捜し終わった頃には約束の時間5分前となってしまった。
「クソ!」
周りの壁に描かれたグラフィティアートの言葉が嘲笑っているように見え、壁を蹴る。
急いで階段を駆けおり、次のホテルへと走った。
その時、携帯が鳴った。
蓮井からだ。
「どうした!?」
“坊っちゃま! 申し訳ありません…。逃げられてしまいました!”
「は!?」
時計がちょうど20時をさした時だ。
5億を持って公園で待機していると、白いセダンの車がやってくるのが見え、そこから4人組の男がおりてきた。
だが、依頼人の姿はなかった。
それに、人質と交換だというのに、神崎本人もいない。
どういうことかと尋ねた時には5億を奪われてしまい、そのまま逃走を図られてしまったのだ。
今、蓮井はそれを追いながら電話しているところだ。
「蓮井、そのまま追ってくれ! 絶対撒かれるなよ!?」
それだけ言って姫川は一度通話を切り、例の携帯に電話をかける。
相手はすぐに出た。
“もしもし”
その呑気な口調に姫川は怒りを煽られる。
「てめえふざけてんじゃねーぞ。神崎と交換の約束だろうが! なに金だけ奪ってとんずらしてんだ!!?」
“…ククク。その言葉、姫川社長でないのが残念だ”
「金はやっただろ!? 神崎返せよ!!」
“いいだろう。ただし…、その前に楽しませてくれ”
「あ?」
すると、電話越しに布を引き裂く音が聞こえた。
“うわ!! やめろ!! なにしやがる!!”
“暴れるな!”
なにをされているのか察した姫川は思わず叫ぶ。
「神崎!!」
“明日の朝、石矢魔公園を訪れるといい。ぼろぼろに使い捨てられた彼が転がっているかもしれない”
そう言って依頼人は嘲笑した。
姫川の手に握られた携帯がミシミシと音を立てる。
「て…めぇ…っ!!」
言いようのない怒りに姫川は歯軋りし、目を血走らせた。
その時、電話越しに、もみ合いになる音の他に、なにか別の音が混じっていることに気付いた。
“実に滑稽だったよ。姫川竜也”
あの男は弄び、姫川の名を持つ人間を不幸にしたかっただけだ。
そう理解した頃には、通話は切られていた。
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