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目を覚ました神崎は、ベッドの上で、手首が背中の後ろで縛られていることに気付いた。
「どこだここ…。…っ」
身を起こすと、頭がクラクラした。
姫川にメールを送信しようとしたところで、背後から忍び寄った何者かに薬をかがされて気絶したことを思い出す。
「くっ」
後ろのロープを力任せに引き千切ろうとしたが、頑丈に結ばれていてムリそうだ。
改めて部屋を見回す。
薄暗い部屋には扉がひとつ、カーテンが閉められた窓がひとつ。
大きなベッドがあるということは、どこかのホテルか、誰かの寝室かもしれない。
ホテルだとしても古びたところなのだろう、目覚めた時に嗅いでしまったシーツのカビ臭さを思い出す。
ベッド脇の小棚や床にわずかに埃が積もっている。
手はこんな状態だが、この部屋から出なければとベッドから降りようとした時だ。
鍵が空き、木製の扉が、ギィ、と音を立てて開いた。
そこから大柄の3人組の男が入ってくる。
肌が色黒の男、スキンヘッドの男、右の眉にピアスした男だ。
見たところ、3人ともガラの悪そうな20代後半に見える。
「起きたか?」
「…誰だてめぇら?」
神崎は警戒心を露わに尋ねる。
「オレ達はアンタを誘拐してくれと頼まれたモンでね…」
色黒がそう言って、「せんせー」と開け放たれた扉の向こうに声をかけた。
すると、口髭の中年が入ってきた。
他の3人と違って、高そうなスーツを着ている。
ネクタイには黒アゲハのネクタイピンがついていた。
こいつが黒幕か、と神崎は睨む。
「……………」
神崎と依頼人が見つめ合う。
2人が口を開いたのはほぼ同時だった。
「「誰?」」
悪役らしく口元に嫌な笑みを浮かべていた3人は同時に依頼人に「はぁ!?」と間抜けヅラで振り返った。
「いや、誰って、先生がこいつ連れてこいって言ったんでしょう!?」と色黒。
「そうそう! オレ達に写真渡しておいて…。場所と時間を指定したのも先生だ!」とスキンヘッド。
「こいつが姫川竜也じゃ…」
眉ピアスが神崎に指をさしながら言ったとき、神崎は遮るように言う。
「オレ神崎一」
3人が「え」と神崎に振り返り、眉ピアスがポケットから依頼人から渡された写真を取り出し、見比べた。
肩を寄せる、神崎と姫川の姿が写っていた。
「「「こっちかっ!!!」」」
3人の指が姫川を指さした。
無理もない。
写真の真ん中に神崎が写っているのだから。
「タイミングが悪かったんだ」
依頼人が言い訳するが、「だったらちゃんと特徴を言うか印をつけてください!」とスキンヘッドに叱咤された。
まさか人違いされるとは。
誘拐された神崎は呆気にとられていた。
紳士的に見える依頼人もあからさまに携帯を片手におろおろとしている。
「馬鹿共め! どうするんだ!? 私はもうあちらに連絡してしまったぞ! カッコ悪いことに!!」
「オレ達のせいですか!?」
「―――で、オレもう帰っていい?」
あほらしくなった神崎は申し出る。
その時、突然依頼人の携帯が鳴った。
全員の視線がそちらに移る。
依頼人は戸惑いながら通話ボタンを押し、耳に当てた。
「…誰だ?」
“本物の姫川竜也だ”
「!!」
依頼人以外、電話の声は聞こえていない。
依頼人は神崎を一瞥し、口を開く。
「…こちらはキミのお友達か…」
「!」
そこで神崎が携帯の相手が姫川だと勘づく。
“そうだ。やっぱり拉致ってたか…。ちょっとそいつにかわってくれるか?”
「……わかった」
依頼人は神崎のもとに歩み寄り、「姫川からだ」と神崎の耳に携帯を押し当てる。
「…姫川?」
“神崎! 無事か!? なにもされてねえな!?”
「ああ。…まさかおまえと間違えられるとは…」
神崎は失笑した。
“笑ってる場合じゃねえよ。そこがどこかわかるか? こっちはリダイヤルでかけ直したが、特定に時間かかりそうだ”
「……どこかのボロホテルか誰かの家の寝室…。なんか、口髭のオッサンがどっかのチンピラに依頼したみたいで…」
「おい、余計なこと喋ってんじゃねえ!!」
「ぐっ!」
眉ピアスに右肩を蹴られ、ベッドに倒れた。
その音が聞こえたのだろう、姫川が携帯越しに怒鳴る。
“おい! なにしやがった!?”
依頼人がそれに答える。
「こちらも場所が割れるのは困るからね。…さて、キミの誘拐は失敗してしまった。…そうなると、この友達は用済みってことになるな? …殺すか」
眉ピアスがナイフを取り出し、目前に突きつけられた神崎の顔色が変わる。
“待て!! 1億だったな!? オレが用意してやるよ!!”
その言葉を待っていたかのように、依頼人がニヤリと笑った。
「姫川社長はどうした?」
“親父なら海外出張だ! けど、息子のオレが出せない値段じゃねえ!!”
「…10億と言われてもか?」
いきなり跳ねあがった値段に、神崎は歯を噛みしめた。
「調子に乗ってんじゃねえっ!!」
神崎は身を起こし、依頼人に飛びかかって体当たりを食らわせる。
「ぐあっ」
依頼人の手元から携帯が落ち、床を滑った。
“神崎!?”
「姫川! こいつらにくれてやる金なんかねえ!!」
床に転がった神崎は携帯に向かって怒鳴る。
「このガキ…!!」
ゴッ!
色黒がその頭を押さえつけ、神崎の頬を殴り付けた。
“神崎!!”
鈍い音を聞き取った姫川は呼びかける。
「――――…」
“!”
神崎はなにかを口にした。
床から立ち上がった依頼人は携帯を拾い上げ、耳に当てる。
「5億に変更だ。時間は20時に石矢魔公園の前。仲間に行かせる。なにかあれば、すぐにこちらでお友達を始末する」
“……わかった。ただし、そいつにはなにもするな。なにかしたら、一生かけてでもてめえら探し出して皆殺しにしてやる”
本気を感じ取った依頼人は唾を飲み込んだ。
「……きっちり5億。待ってるぞ。…また連絡する」
通話は、切られた。
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