身代金はいくらですか?
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
翌日の下校時間。
その日は雨が降っていた。
神崎はひとり、ビニール傘をさして姫川の家へと向かう。
先程までは姫川が隣を歩いていたが、途中で姫川が携帯を忘れたことに気付き、急いで学校へと逆走したのだ。
待っていてもよかったが、神崎から離れる際、姫川が「先にオレの家に向かっててくれ。あとで追いつくから」と言ったので、先に向かうことにした。
こちらには合い鍵もあるので、先に家で待っててもいいわけだ。
またあの看板が見えてきた。
「まだ工事やってんのかよ…」
仕方ないので、昨日姫川に教えてもらった道を進む。
後ろを何度も確認したが、姫川が追いついてくる様子はない。
仕方ないと言うように小さなため息をついた神崎は、傘をとじ、シャッターの閉まった店の軒下で雨宿りしながら姫川が追いついてくるのを待つことにした。
姿が見えたら、どや顔で「遅いぞ」と言ってやるつもりだ。
雨脚は強くなる一方だ。
風も強い。
こちらに来る途中でリーゼントが解けているかもしれない。
「…別に車で来てもいいだろうが」
車を呼ばなくなった理由を聞いて見たところ、「一緒に帰りたいから」と今までぼっちだった人間がそんな小学生のようなことを口にしたのを思い出す。
以来、神崎と帰る時はほとんど徒歩だ。
神崎は姫川に連絡しようと携帯を取り出した。
「……早く来い」
その呟きは、雨の音にかき消された。
一方、姫川は黒の傘を片手に神崎のもとへと走っていた。
どの辺りまで行ったのだろうか。
もしかしたらもう家の前に着いているかもしれない。
工事の看板が見え、昨日通った曲がり角を曲がったところで姫川は携帯を取り出し、神崎にかけた。
今、どこにいるのか。
近くで、聞き覚えのある携帯の着信音が鳴った。
姫川は携帯を耳に当てたまま、そちらに振り返る。
シャッターの閉まった店の軒下に、ビニール傘と、鳴りやまぬ携帯が落ちていた。
姫川は怪訝な顔をしながらゆっくりとそれに近づき、携帯を拾い上げる。
携帯の蓋を開けると、待ち受け画面に自分の名前が表示されていた。
「神崎…?」
辺りを見回すが、神崎の姿は見当たらない。
徐々に焦りがせり上がってくるのを感じた。
その時、姫川の携帯が鳴り、姫川は突然のことにドキッとした。
相手は蓮井だ。
通話ボタンを押して耳に当てる。
「どうし…」
言うよりも先に蓮井がまくしたてた。
「坊っちゃま!! ご無事ですか!!?」
あの蓮井が珍しく大声を上げている。
なにやら慌てている様子だ。
「無事って…。なにかあったのか?」
「坊っちゃまこそ、今、なにをしていらっしゃるのですか!?」
「えと…、帰るところ…」
すると、あからさまに安堵のため息が聞こえた。
「よかった…。やはり、いたずらだったのですね…」
「いたずら? 蓮井、なに言ってんだ? 全然読めねえんだけど」
「これは申し訳ありません。いえ、実は先程、坊っちゃまのご実家に電話がかかってきて…。「お宅の息子の姫川竜也を預った。警察沙汰にすれば即座に殺す。要求は1億だ。また電話する」と手短に言うと、一方的に電話を切られてしまいました。旦那様は海外に出張されているというのに…。そこで私は真偽の電話を…。…坊っちゃま?」
姫川の頬を、冷や汗が伝った。
それは地面に落ち、雨水と混じる。
冷静になろうとしたが、携帯を持つ手がわずかに震えている。
「坊っちゃま? どうされました?」
姫川は一度深呼吸をしてから声を出す。
「…蓮井、まだ警察には言ってねえんだな?」
「…はい」
「そのまま警察に電話せずに、すぐに迎えに来い。すぐにだ!!」
神崎の携帯に、メール作成中の画面が表示されていた。
宛先:姫川 竜也
件名:いまどこだ?
本文:雨宿りしながら待っててやるから、早く来い。
.