王子は何処に?
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結婚式会場はシーンと静まり返っていた。
ちょうど、こちらの偽ヒメカワの正体が発覚したからだ。
「あれ? フルイチ?」
気付いたのはオガだった。
花嫁待ちの最中、遅れて到着した兄弟達と会い、オガが真っ先にそう言った。
「ち…、違う。…タツヤだ」
フルイチは顔を逸らして逃れようとしたが、オガがカツラをとったことで賑やかだった雰囲気は一変した。
「なにやってんだおまえ…;」
「ダブ」
「え…と…」
話を持ちかけたのは、ナツメだった。
『キミが言ってた王様の悪口、もろもろ全部バラしちゃうよ? あと、ずる休みして町で女の子をナンパしたことも…』
ヒメカワの元へ向かう前に城でひとりでいるところを捕まえ、脅しをかけた。
それと同時にうまい話を持ちかけた。
『王子のフリすればキレイなお姫様と結婚できるし、いい暮らしができるよ』
持ち掛け方は飴と鞭。
うまくのせられたフルイチは馬車に乗る時、途中でトイレでヒメカワと入れ替わることに成功した。
それに性格はともかく、顔立ちはいいのでうまくヒメカワに化けることができたので周りの者は気付かなかった。
そしてフルイチを乗せた馬車が行ったあとは、すぐに現れた陽動に紛れてヒメカワは城を脱出した。
フルイチの顔に大量の冷や汗が流れる。
まずいまずいまずい。
バレたからには処刑されてしまう。
年貢の納め時かと思いきや、相手方の姫様が登場した。
お互い初対面である。
「まあ素敵!! お父様、私、この殿方を結婚いたします!!」
「えっ、うそ! 王子でもないのにこんなカワイイ姫様と…ってオッサンじゃねえかっ!!」
全体が目に入ったフルイチだったが、もうアランドロン姫の方は恋のハリケーン上陸中。
「身分違いで結婚できないというのなら、私、この殿方と駆け落ちします!」
「いや、誰もそんなこと…。おい、どこ行く気だ!? 助けてくれぇ!! オガ――――っ!!!」
哀れフルイチはアランドロン姫に連れ去られてしまいました。
全員ぽかんと口を開けている。
「…ま、いいじゃん? あの姫様が気に入ったんなら。恋愛は自由!」
「その通りでございます、魔王さ…、いえ、王様」
適当な王様と、同意する侍女のヒルダにツッコむ者は誰もいなかった。
*****
「わざとでしょ?」
国の門の向こうを見据えるハスイに、ナツメが声をかけた。
ハスイは一瞥し、「なんのことですか?」と無表情で答える。
「とぼけないでよ。…長年ヒメちゃんと一緒にいたあんたが、フルイチ君の変装に気付かないはずがない…。それが予想外だったんだよね…。もしかして、この先に兵士達が待ちうけてるオチ? だったら、オレ…、国ごと潰しにかかるよ?」
「……カンザキ様の本心が知りたかったのです。…任せられないと思ったらそうしたかもしれません…。ですが…、認めてしまったのですよ…。ああ、さすが王子が目をつけられたお方だ、と。極刑だと言われても、瞳に迷いがなかった…」
「……カンザキ君は根性が違うからね。馬車が行っちゃったのに追いかけようとするし…」
「ふふ…。そうですか…」
ハスイは寂しげに笑った。
城の時と違い、カンザキと逃げている時のヒメカワが実に楽しそうだったのを思い出す。
あんなに笑った顔を見たのはいつぶりだろうか。
ヒメカワを鳥かごの中に閉じ込めておきたかったのは、ただの嫉妬だったのかもしれない。
カンザキと城で対峙したとき、そう実感した。
寂しさはあるが、それ以上の達成感を得た。
側近として大切な主人が望むことをしたのだから。
「任せて大丈夫だと思うよ。…カンザキ君が一緒だし。カンザキ君にもヒメちゃんがいるから、安心安心」
「…行ってらっしゃいませ、王子」
2人を乗せた荷車はもう見えないが、ハスイはそちらに向かって一礼した。
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