王子は何処に?
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翌朝、カンザキの出立の日だ。
生活に必要な家具などは商品と一緒に荷車に詰め込んだ。
さすがに一人で引くのは大変なので馬を買った。
用意のために金はかかったが、それでもヒメカワからもらった金貨は使わなかった。
それは今、カンザキのポケットにおさまっている。
「……………」
カラッポになった部屋を見つめる。
ヒメカワに貸していた部屋も。
なにもない。
しんみりとしている場合じゃない。
昨日の騒ぎもあったのですぐにでも発たなければいつ城の者が来るかもしれない。
ナツメ達のことも気になったが、「陽動班はほとんど変装してたし、オレはどこでも自由に隠れられるとこ知ってるしね」と陽気に言っていたナツメを思い出す。
顔を隠すためにローブについたフードを被り、外へと出た。
馬は雑草を食べながら待っていた。
カンザキは馬に近づき、首を撫でる。
「ちょっと大変だろうが、頑張ってくれよ。ヨーグルッチ一号」
ヨーグルッチ一号は鼻を鳴らして答える。
「いい子だな」
カンザキは荷台に積んだリンゴの樽からリンゴをひとつとってヨーグルッチ一号にあげた。
ヨーグルッチ一号はさも美味しそうに食べている。
「……………」
カンザキはすべての実をとりつくしたリンゴの木に近づき、下から見上げてみる。
ヒメカワのいた場所には鳥が巣をつくっていた。
カンザキは木に手を触れ、「また戻ってくるからな。…予定が伸びちまって3年後くらいになるけど」と言って我が子のように優しく撫で、背を向けて荷車に向かった。
荷車に乗ったカンザキは手綱を手にし、「行くぞ」と軽く叩く。
それに応え、ヨーグルッチ一号が進みだす。
裏通りから行くと、カンザキは気になる手配書を見つけた。
「…?」
その絵には顔ではなく鎧兜が描かれていた。
「…“喧嘩の強い鎧兜マンを捜している。決着をつけようぜっ!! オガ王子”」
勝負のどさくさで無事に逃げられたようだ。
「あいつ、結局兜外せなかったのかよ…」
この国の門が見えてきたとき、カンザキは町に振り返り、景色を目に焼きつけようとした。
すると、荷物を覆った布に動く盛り上がりを見つけた。
「!!」
はっとして布をつかんでめくると、
「おまえ…!!」
「カンザキさん、オレもついていきます!!」
シロヤマが三角座りで当然のように座っていた。
「ついてくんなっ!!」
容赦なく荷車から蹴り落とすカンザキ。
「だって、1年って言ってたのに、3年って…」
シロヤマの目が潤む。
「…はぁ、シロヤマよぉ。オレのことを慕ってくれるのは嬉しいが…」
「嬉しいんですか!!?」
「聞け!!」
ぱぁっと目を輝かせるシロヤマを一喝し、言葉を続ける。
「オレはてめえの出す酒が一番好きだ。…だから、オレが戻ってきたらさらに美味しくなったヨーグルッチ割りが出せるようにしろ」
「え…」
「わかったな?」
「は…、はい…!」
シロヤマの目から滝のような涙が流れる。
「てめーもだ、ハナザワ」
骨董品のツボからハナザワが出てくる。
「えへ。バレちゃいました?」
「貴様、いつの間に!!」
シロヤマでも気付かなかったようだ。
「……そうだ、約束だったな。今商売用の花持ってるか?」
「当然、持ってるっスよ! なんの花がほしいんスか?」
「大量って約束だったからな。おまえ好みに包んでくれ」
「了解っス♪」
ハナザワは持ってる全ての花を言われた通り自分好みに包み、カンザキに手渡す。
「おまちどうさまっス」
金を渡し、それを受け取ったカンザキ。
「ん」
「へ?」
しばらく間を置き、ハナザワの前に差し出す。
気に入らなかったのだろうかとハナザワが不安の表情を浮かべた。
「やる。…オレからのプレゼント」
それが引き金となり、花束を受け取ったハナザワはシロヤマと同じく泣きだした。
「カンザキ先輩~っ!!」
「泣くな泣くな。戻ってきたら、また寄らせてもらう。…クニエダ達にもよろしく言っといてくれ…」
「うっす…!」
慕っていた2人に見送られ、カンザキは門を潜って国を出た。
次の国までしばらく野山が続く。
平原をゆったりと進むカンザキは遠のく国を振り返り、目元が熱くなるのを感じた。
「………危うくもらい泣きするとこだ。……ヒメカワの奴は今頃結婚式か…」
呟いていると、ヨーグルッチ一号がこちらに振り返った。
「おお、リンゴ欲しいのか? ちょっと待ってろ」
リンゴを気に入ったのか、ヨーグルッチ一号はまたも鼻で答える。
カンザキはリンゴの樽に手を伸ばし、またひとつつかんでヨーグルッチ一号にやろうとした。
「!」
そのリンゴには、かじられた跡があった。
人の歯型だ。
移動中にシロヤマかハナザワがかじったのだろうか。
不思議に見つめていると、いきなり目の前の視界が真っ暗になる。
「だーれだ?」
背後から聞こえたその声に息を呑んだ。
「………どうして…?」
ようやく出た声は震え、目を塞ぐ手の隙間から涙が伝った。
その手はゆっくりと下へくだり、カンザキの肩を抱きしめる。
「さあ…、どうしてか…。……ちょっと長くなるけど、のんびり話していいよな? カンザキ」
「ヒメカワ…っ」
カンザキは振り返ると同時にヒメカワの首に腕を絡め抱きしめた。
この時わかったことだが、ヒメカワはリンゴの樽の中に隠れていたようだ。
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