王子は何処に?
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翌日の夜、ナツメの読み通りカンザキは城の前で右往左往していた。
巻き込みたくなかったので知り合いは呼ばなかったが、そのことを今後悔していた。
結婚前夜ということもあり、見張りの兵士達が多い。
「う~ん…」
堂々と行けば命がいくつあっても足りない。
門の傍で腕を組んで唸るカンザキは、
「!?」
突然背後から口を塞がれ、薄暗い路地に引き摺り込まれた。
「んん!」
いきなりのことにカンザキはもがき、
ゴッ!!
「うぐ!」
ジャンプして頭突きを食らわせ、相手から離れた。
「!? おまえ…、シロヤマ!?」
「カンザキさん…、お静かに…」
頭突きを食らったシロヤマは痛むアゴを左手で押さえながら、右の人差し指を自分の口に当てた。
「バカ、なんでてめーがこんなとこに…、帰れよっ」
「そういうわけにはいきません」
「そうそう、こんな面白そうなこと、一人でやろうとするなんてさ…」
「ナツメ!」
路地にはナツメも待っていた。
他にも、声をかけた覚えのない知り合い達もそこに集合している。
「おまえら…」
「カンザキ先輩、お姫様助けるってマジっスか!? パねぇ!」とハナザワ。
「愛の逃避行…」とタニムラ。
「派手な喧嘩するそうじゃねーか。オレも混ぜろよ」とトウジョウ。
「オレ姫様って見たことねーんだけど」とアイザワ。
「城に姫なんていたのか?」とジンノ。
「止めにきたのに、勢ぞろいじゃない;」とクニエダ。
「姐さんが行くなら私も!」とオオモリ。
「勘違いしてる奴も混じってるな」
「カンザキ君、ヒメちゃんは相手のお姫様の城で結婚式を上げるってことは知ってる?」
知らなかった、と言いたげにカンザキの目が丸くなる。
「は? あいつ王子だろ? だったら普通、こっちで式上げて将来この国の王様に…」
「婿養子だよ。同盟を結ぶための政略結婚ってやつかな。決定のきっかけを与えたのが大臣って話だよ。まあこっちにはまだ息子が3人いるからね」
「ふざけやがって…。だったら、ここで待機して馬車を襲撃…」
「それこそ無謀だ、カンザキ」
「ジンノ…」
「移動中に命を狙われるかもしれない。四方八方厳重に馬車は見張りで固められるだろう。だとしたら、隙間の多い城を狙った方が効率がいい」
「へぇ、さすがだな」
褒めたのはアイザワだ。
それを聞いたトウジョウは、
「ともかく、正面から堂々と喧嘩おっ始めりゃいいんだな? カオル」
コブシを鳴らし、闘争心を露わにしている。
「いや、トラ、話聞いてたか? 隙間から攻めないと…。…そうだ、陽動班が必要だな。そうすればごっそり穴ができる」
その場で作戦会議が始まり、陽動班とヒメカワ奪還班に分けられる。
陽動班、わかりやすく、トウジョウ組とレッドテイル。
奪還班はカンザキ組。
「まあこのメンバーに分かれるよね」
「ちょっと待て」
言いだしたのはトウジョウだ。
「オレも奪還班に入る」
その場にいる全員が「は?」と口を開ける。
「おい、乱してんじゃねえよ。てめえはどう見ても陽動班だろが。図体からも物語ってんだろが」
陽動班を思いつくきっかけとなった男がなにを言ってる。
トウジョウは「くくく」と不敵に笑った。
「カンカン、主役について行った方が見せ場が増えるんだぜ?」
「目立ちたがり屋かっ!! つうかそのパンダ名定着!!?」
精いっぱいの突っ込みにハナザワが「先輩声デカいっス」と両手で口を塞ぐ。
「しょうがない。シロヤマ、てめートウジョウと変わってやれ」
「ええ!? なんでですか!?」
納得いかないシロヤマ。
「よく考えたら、図体はてめーの方がデカかった。…チェンジで」
もっともなことを言うカンザキ。
シロヤマは路地の隅で縮こまって泣き、ナツメに「よしよし」となぐさめられる。
急遽メンバー変更もあったが、作戦開始だ。
それぞれ位置について戦いに備える。
「それじゃあ、行くぜ!」
あらかじめ用意していたのか、廃屋の屋根の上にトウジョウが設置した筒に繋がる長い導火線に、アイザワが点火する。
小さな火は油が染み込んだロープを急速に辿り、筒に到達し、筒から次々と夜空に放たれた花火が爆発した。
町の眠りを覚まし、兵士達は何事かとそちらに注目する。
その隙にジンノ達が先陣を切って突っ込み、レッドテイルもそれに続く。
辺りが騒ぎになるなか、カンザキ達はナツメを先頭に例の抜け穴から城の中に潜入する。
見上げれば、ヒメカワの部屋がある塔はすぐそこだ。
「こっちだよ、カンザキ君」
裏庭の茂みから城の周りを窺い、数人の見張りを発見した。
数は5人。
3人は頷き合ったのを合図に、茂みから飛び出し、声を上げられる前に鎧を着た兵士の唯一の急所である顔面を殴りつける。
トウジョウの場合、パワーが尋常ではないのでこちらは鎧ごと腹を殴りつけて気絶させた。
「ちょうどいいや、この甲冑もらってっちゃおっか」
これで堂々と侵入できる。
気を失った兵士達を縛り上げて茂みに隠し、甲冑に着替える。
視界は悪くなるが顔も隠せる。
だが早くも脱ぎたがっていた。
「臭ぁっ!? ちゃんと甲冑洗ってねえだろ! うぇっ、持ち主自体も風呂入ってんのか、これ。うぇっ、ブーツもジメジメ…」
「こっちなんかポケットにビスケットのカスが入ってるし」
「む…。被れん…」
トウジョウはムリヤリ兜を被ろうとする。
「…う~ん…。トウジョウ君はムリそう…」
誤算だった。
やはりガタイが違うので鎧が小さくて着れない。
シロヤマを連れてきても同じことになっていただろう。
それでもトウジョウは留守番したくないがためにムリヤリ着ようとする。
……着れた。
「鎧がパンパンじゃねえかっ。…それ、あとのこと考えてんだろうな?」
「あと?」
知らない方が幸せだろうな、と教えないことにした。
「あ、トウジョウ君を捕えたフリして忍び込むのもありだったよね」
「早く言えよっ。今になって言うな!」
とにかく、兵士に扮した3人は見張りから戻ってきたフリをして城の中へと入る。
どの兵士も騒ぎを聞きつけて外へと出ているので、逆走を怪しまれないために「忘れものをした」「トイレトイレ」「報告しないと」とそれらしい理由をわざと他の兵士達に聞こえるように言いながら城の奥へと走った。
やはりほとんど出払っているためか、兵士の数が少ない。
先頭を走るナツメはヒメカワの塔へと案内する。
「ここからは慎重に」
「わかってるって」
次第に兵士の姿が目立たなくなってきた。
「……!!」
廊下の先に、パジャマ姿の小さな子供が歩いている。
「おお、そこの者達!」
声をかけられた3人は立ち止まり、子供を見下ろした。
「ヒマじゃ。余と遊べ」
「ああ? ガキは寝る時間…」
ナツメはカンザキの肩を叩き、言葉を止めて小声で言う。
「たぶん、3人のうちの一人だと思う」
王子は4人兄弟、全員男子だ。
この子供はその三男・エンオウだ。
「すみません、王子。今、それどころでは…」
「遊んでくれぬのか?」
今にも泣き出しそうなエンオウ。
ここで泣かれては他の兵士達が何事かと集まって面倒なことになる。
「わかった! わかったから泣くんじゃねえ!」
焦ったカンザキは仕方なく相手をすることになった。
「おおっ! 我が弟もよろこぶぞ」
「え。弟もいるのか?」
連れてこられたのはエンオウの部屋だ。
そこで同じく待っていたのは、末っ子のベル坊だった。
カワイイもの好きなトウジョウはベル坊贔屓に遊ぶ。
遊びの種類はチェス、すごろく、トランプ、ジェンガなど。
時間がないと焦り始めた頃、いきなりエンオウがジェンガ3回戦で倒れて眠りだした。
「ようやく眠りやがった…」
「けっこう時間潰れちゃったけど、まだ間に合うはずだよ…」
そろそろジンノ達も引き始める頃だろう。
3人は先を急いだ。
ヒメカワの塔へ向かう階段が近くなったとき、カンザキはあることに気付き、驚愕した。
「!! トウジョウ…、それ…!!;」
「…!!?」
ナツメも続いて驚愕。
2人の視線を追ったトウジョウだが、反応はのんびりとしたものだ。
「お、ああ、ついてきてちまったのか?」
トウジョウの背中には眠るベル坊が器用にしがみついていた。
「てめえ! なに爆弾持ってきてんだっ!! すぐに返してこいっ!!」
「え―――っ」
「ついでにてめぇも帰れっ!!」
「! カンザキ君!」
ナツメは廊下の奥からやってきた人影に気づいた。
見た目は同じ年頃の男子だ。
何者かと窺っていると、男は不敵に笑い、コブシを握りしめた。
「てめぇらか、侵入者ってのは…。ベル坊をどこに連れてくつもりだ?」
「……カンザキ君、すごくマズいよ。この国最強の、オガ王子だ」
現れたのは次男のオガだ。
兵士100人をたった一人で軽々と倒した伝説がある。
その真偽は彼が放つオーラでわかった。
「…バレたらしょうがねえな」
カンザキとナツメは着ていた甲冑を脱ぎ捨てた。
一方トウジョウは、
「……脱げん」
お約束なことに。
鎧兜も見事にフィットしている。
「さすがにアレはオレなら泣く」
「一生鎧兜マンになるかもしれねーのに、冷静だよな」
2人は気の毒な目を向ける。
仕方ないのでトウジョウは顔だけでも見せた。
「…先に行け。こいつの相手はオレがやる」
「トウジョウ?」
「くく…、最強…か。コブシで証明してもらおうか」
やる気のトウジョウに、オガは興味を持つ。
「へぇ、ビビらねーのか。久々に骨がありそうな奴だぜ!」
トウジョウとオガはコブシを握りしめ、ほぼ同時に床を蹴って突進し、互いの顔面を殴りつけ、吹っ飛び、すぐに起き上がって再び殴り合った。
これで100パーセント城の者たちが集まってくるだろう。
「トウジョウ! ここは任せたぞ!」
「楽しそう」
カンザキとナツメは巻き添えを食らう前にそこから離れ、ヒメカワの部屋に向かう螺旋階段をのぼった。
ここに来るまで体力を大幅に削ってしまった。
足が疲れと苦痛を訴えるが、それでもカンザキは足を止めない。
「ぐ…っ」
「カンザキ君、頑張って」
「わかってる…!」
「……再会したとして、もしヒメちゃんがここを離れたがらなかったらどうするの?」
走りながらナツメは神崎に尋ねた。
「ああ? …殴ってでも連れてく。完全に誘拐になっちまうけどな。…あいつはここを嫌がってる。それだけは確かだ。一生追われることになるかもしれねえけど、捕まるその時まではあいつに外を見せてやりたいし、教えてやりたい…」
「……………」
ナツメは寂しげな表情を見せたが、ただ前を目指すカンザキはそれに気付かない。
「見えてきた!」
階段を登り切ったはいいが部屋はすぐそこで、休んでいるヒマはない。
下では轟音が響いているし、慌ただしい足音も聞こえてきた。
「行こう、カンザキ君」
「ああ」
2人はそのまま助走をつけ、同時に扉を蹴り破った。
「ヒメカワ!!」
「! カンザキ…」
薄暗い部屋の中、ヒメカワはベッドに腰掛けていた。
「迎えに来たぞ! 急げ!」
カンザキは呼吸を落ち着かせたあと、ヒメカワに近づき、その手を引っ張って立たせた。
「……カンザキ…、戻るんだ。今ならまだ極刑は免れる…! オレは一国を担う王子だ。自由に暮らしていくのはムリなんだ。…捕まったら処刑だぞ?」
「処刑? 上等だ。ただただ嫌な人生を送って過ごすてめぇより、末路がはっきりしてる…。ここまで来たからには付き合ってもらうぞ」
「……………」
「オレが連れていきたいから連れてくんだからな」
カンザキが手をつかんだ時だ。
違和感に気付いた。
(…こいつの手、こんな小さかったっけ…)
その前にいち早くナツメが気付いた。
「カンザキ君! こいつ、ヒメちゃんじゃ…!!」
そう声を上げた時にはヒメカワは果物ナイフの刃先をカンザキの首筋に当て、窓際まで追いやった。
「…!!」
月明かりに照らされたその顔に、カンザキは見覚えがある。
「てめぇ…」
「タツヤ王子の芝居はいかがでしたか?」
空いている手で自らカツラを外した偽ヒメカワの正体は、ハスイだった。
「もう手遅れです。あなた方は足止めをしたつもりだったかもしれませんが、王子を乗せた馬車はすでに出立いたしました」
「な…に…!?」
「そんな…、まだ予定時刻まで時間が…」
予想外のことにナツメは困惑している。
「ああ、あなたが情報屋ですか。残念ながらこちらの方との仲はすでに把握させていただきましたので、ガセネタを流させていただきました」
「……………」
「それじゃあ、ヒメカワは…」
「だから申しあげたように、王子はもうここにはおりません。…ですから、お帰りください」
カンザキの視界が反転した。
ハスイに窓から突き落とされたからだ。
あとからナツメが飛び下りたのが見えた。
しかし、できれば追いかけてきてほしくなかった。
カンザキは屈辱のあまり血が滲むほど唇を噛みしめ、両手のコブシを握りしめ、嘲笑うかのように見下ろす月を睨みつける。
「クソがあああああああ!!!」
ドボーンッ!!
庭の泉に落下し、大きな水しぶきが2つ上がった。
ナツメはカンザキの腕を自分の首にかけ、泉の水面から顔を出し、引き上げる。
運よく、抜け穴の近くだ。
「大丈夫!?」
「今なら…、今なら追いかければ…!」
「カンザキ君」
「まだ間に合うかも…」
「カンザキ君!!」
「!」
ナツメの怒声にはっとする。
「……もうムリだよ。…早く逃げよう…」
「……っ!!」
地面を殴りつけた音が虚しく夜空に響いた。
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