王子は何処に?
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翌日、シロヤマの酒場にて。
「今準備中です。…あ、ナツメ」
「うわ…。予想以上に荒れてるね」
ほとんどのテーブルは倒され、床には割れた酒ビンの破片が散らばり、カウンターでは完全に酔っぱらって伏せっているカンザキがいた。
「…シロヤマ、もう1杯、ヨーグルッチ割り」
「カンザキさん…」
客と乱闘を起こされかねないので、シロヤマはあらかじめ準備中の看板を出していた。
「もうその辺にしときなよ」
ナツメはカンザキの隣に座り、その背中を軽く叩く。
「うるせぇよ」
「…ヒメちゃんがお城に戻ったのがそんなにショック?」
「………まだ宿代が余ってんだ。後味悪ぃだろが…」
「そんなこと、もうどうでもいいくせに」
図星を突かれたカンザキはナツメの胸倉をつかみ、「表出るか?」と凄む。
ナツメは「ああ、ごめんごめん」と苦笑しながら両手を小さく上げる。
「…明後日、ヒメちゃん結婚するってさ」
「明後日…」
「その日だよね? カンザキ君がこの町出てっちゃうの…」
聞いてなかったのか、シロヤマが「そうなんですか!?」とショックを受ける。
「1年くらい出るだけだ…。また戻ってくる」
それを聞いたシロヤマは「1年も待てませんよ」と暑苦しく泣き始める。
「…ヒメちゃん、このままでいいの?」
「……あいつが自分で戻ったんだ。もうオレには関係ねーよ…。関係ねえからな!?」
「はいはいムキにならない。オレもヤケ酒付き合うよ。シロちゃん、軽めのやつ出して」
「ああ」
シロヤマは言われた通り、純度の低い酒を出した。
「あいつ…、今頃あっちで美味いメシでも食ってんだろな…」
「……カンザキ君、今なら、泣き上戸になってもいいんだよ?」
「……………」
「カンザキ君?」
酔っているとは思えないような真剣な目が、宙を睨んでいた。
*****
一方、城に戻ったヒメカワのもとにハスイが訪れた。
「王子、食事が出来てますよ」
ノックをしてから声をかけると、扉越しに返事が返ってきた。
「…いらない」
ベッドに伏せたまま喋っているため、声がくぐもっている。
「……なにか口になさってください。今度は引きこもりですか?」
「オレの側近なら察してくれ。…こっちはマリッジブルーってやつだよ」
「……………」
ハスイはもう1度ノックしようとしたが、やめておいた。
何度呼びかけても王子は出てこないだろうと思ったからだ。
「……本当になにもいらないのですか?」
「……リンゴ」
「え?」
「リンゴが食べたい……」
「……………」
まるで独り言のようだった。
*****
その夜、薄暗い部屋の中、ヒメカワはきっちりと皮まで剥かれ、切られたリンゴを指で食べながら窓際で町の景色を見下ろしていた。
町の外れ辺りは明かりがないが、カンザキの家がどの辺りかはわかる。
「カンザキ…」
ゆっくりと食べていたため、残りのリンゴは黄色く変色し、食べる気が失せる。
「……………」
物憂げな顔でカンザキの家辺りを見ていると、いきなり部屋の扉をノックされて驚いて扉に振り返った。
こんな時間にハスイが来るはずがない。
それに自分が寝ているかもしれないのに、そんな荒く扉をノックするなんてもってのほかだ。
まさかと期待を胸に、扉に呼びかけてみる。
「カンザキ…?」
「ざんねん」
聞こえたのは、カンザキの声じゃない。
だが、聞き覚えはあり、顔も脳裏をよぎり、扉に近づいた。
「ナツメか?」
「せいかーい♪」
「おまえ…、どうやって城に…」
「ああ、オレ裏で情報屋やってるから、城のことなら大体わかるんだ。ちょっと面倒だったけど、城の抜け道から忍び込んで、あらかじめ用意してた鎧を着てお城の兵士に化けて、あとはうまくこっちの塔に侵入成功」
ナツメの大胆な行動に、ヒメカワは呆れずにいられなかった。
「……いい度胸してるな。城に忍び込んでくるなんて…」
「そのオレみたいな度胸者が、明日の夜、ヒメちゃんを迎えに来るよ。オレに口では言わなかったけど」
「…!! カンザキか!? やめさせろ! 今度はオレひとりじゃどうにもならねえよ!」
慌てだしたヒメカワに対し、ナツメは「しーっ」と小声で注意する。
「ヒメちゃん、声大きいよ。…止めるのはムリ。カンザキ君、そういう人だから…」
「無謀だ…。うちには何人兵士がいると思ってんだ」
喧嘩に自信のある知り合いが多いようだが、それらを揃えたとしても数万の兵士を相手にできるわけがない。
「無謀だよね、うんうん。…けど、そんなことを始めようとするのは、ちゃんとカンザキ君とお別れしなかったヒメちゃんが悪い。たった数日過ごしただけなのに、オレより仲良くなってるし、正直嫉妬してる」
「ナツメ…?」
「……まあオレのことは置いといて、提案があるんだけど、のってくれる? ついでに知恵も借りたい。…カンザキ君がムチャする前に」
「おまえってけっこう黒い性格してるな。王子を脅しやがって…。……いくらでも貸してやるよ」
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