王子は何処に?
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朝の城下町の外れ、そこには一軒のレンガの家がある。
武器や骨董品を売る商人の家だ。
その家の主人であるカンザキはベッドから起きて庭に出、「うーん」と腕を伸ばす。
「ふわぁ…」
大きな欠伸をし、朝日を浴びていつも通り仕事を始めるつもりだった。
「!」
庭にあるリンゴの木を見ると、木の下にリンゴの芯がいくつも落ちているではないか。
カンザキは「またやられたか」と後頭部を掻き、木に近づいた。
気まぐれで植えたリンゴの木だが、すくすくと育ち、人が寝ている間に盗まれることもしばしばある。
罠をはってもだ。
「今度はどこのどいつだ…ったく…」
どれくらいの被害を被ったのかリンゴの木を見上げ、カンザキは硬直し、我が目を疑った。
まず目に入ったのが珍妙な髪型。
鳥がその上で巣と間違えて休んでいる。
全体を目に入れると、緑のサングラスをかけた男が木の上ですやすやと眠っていた。
目を擦ったカンザキはもう一度確認し、しばし考えたあと、リンゴの木に背を向け、
ゴッ!!
勢いをつけて回し蹴りを木に叩きこんだ。
驚いた鳥は飛び立ち、数個のリンゴと男が落ちてきた。
背中から落ちた男はさすがに起きる。
「痛って~!」
「おいゴラ」
カンザキはそいつの胸倉をつかみ、睨みつける。
男は突然のことに困惑していたが、落ちているリンゴを目にして「おお」と手を叩き、カンザキがリンゴの木の持ち主であることに気付く。
「リンゴごちそうさまでした。あ、仮宿もな。…って、なんで縛ってんの?」
どこから取り出したのか鎖で拘束されてしまう。
「黙れ、リンゴただ食いヤロウ。これも立派な商品だったのにガツガツ食いやがって…。人買いに売り払ってやる!」
「腹減ってたんだ。許せ」
男に反省の色はない。
カンザキは、パンッ、とその頬を叩いた。
「痛たっ」
「対価もなしに空腹満たそうなんざ、リンゴ様に悪いと思わねえのかよ。この町もてめーみてぇなクズばっか増えやがって。コソ泥やるしか能がねえのか」
それを聞いた男はムッと顔をしかめて言い返す。
「その対価っての、払えばいいんだろ!?」
「そのふざけた髪でも売る気か?」
髪型はともかく、珍しい銀色だ。
常人の毛髪よりは売れるはずだ。
「これは遠い国の、リーゼントっていう立派な髪型なんだよ。髪切っちまったら、しょぼいのしか作れねーだろが!」
「知ったこっちゃねーんだよ、他に売るモンあるのか?」
服もどこかで拾ったものとしか思えない、ぼろい布地だ。
なのに、それに釣り合わない高そうなサングラスはどこで手に入れたのだろうか。
盗んだものか。
男は不敵に笑う。
「体でv 天国見せてやr」
ドスッ!
カンザキは躊躇わず、靴裏で男の顔面を踏みつけた。
運よくサングラスは割れなかったが、縛られた男はうずくまって痛みに悶える。
「乱暴な奴だぜ…。オレの顔を2回も攻撃したのはてめーが初めてだ…っ」
「なら、この調子で記録更新目指してもいいんだぜ?」
カンザキは腕を組んでその様子を冷たい目で見下ろした。
男は「待てっ」と慌てて鼻の赤い顔を上げる。
「確か、コインが1枚…」
「1枚? 銅貨じゃ足りねえぞ。銀貨なんだろうな?」
「右手だけ解放してくれ。絶対逃げねえからっ」
「……………」
怪訝な顔をしたカンザキだったが、逃げないように犬のリードを持つように垂れた鎖を手にし、右腕の鎖を緩めた。
すると、男は解放された右手を自分のリーゼントの中に突っ込んだ。
「えーと…、確かここに…」
「どこに入れてんだ」
「…コレで足りるか?」
差しだされたものを見て、カンザキは息を呑んだ。
「…っ!!」
男が出したのは、金貨だ。
受け取ったそれを噛んだり、指で弾いたり、模様を確認したりして本物かどうか見極める。
(本物…。久々に見たぜ…)
盗まれたものだとしても、貴族の家に忍び込まない限り簡単に手に入るものではない。
「てめー、何者だ? どこでこれを…」
「元からオレのだけど?」
「……………」
露骨に疑いの眼差しを向けるが、余裕の笑みを返されてムカついた。
「それで足りる?」
「足りるもなにも…」
このリンゴの木一本丸ごと買い取れるくらいだ。
こいつの金銭感覚、大丈夫か、とカンザキは金貨と男を交互に見る。
「…銀貨と銅貨は?」
「それしか持ってねーんだよ」
「……くずせねぇ…」
お釣りが足りない。
「じゃあもらっといて」
心が揺らぐが、カンザキは邪心を払うように首を振った。
「いや、オレの気がすまねーよ。えーと…」
目を閉じてうつむき、真剣に考え出したカンザキを見て、男は噴き出した。
「律儀な奴だな」
「……仕方ないから、このリンゴの木、丸ごと持ってけよ」
「ムチャ言いだすな。担いで行けってか。…じゃあこうしよう。金貨の分だけオレを匿ってくれないか?」
「…「匿う」? …なんだ、追われてる身なのか?」
この町では珍しくない話だ。
裏の仕事に足を突っ込んで逃げ出す奴は少なくない。
男は困ったように笑みを浮かべ、「そんなもん」と答える。
「ちょっとした人気者でな…」
「そんな頭の人気者なら、嫌でもオレの耳に入ってくるがな。…まあどんな奴でも金を受け取ったからには、それ相応の要望に応えてやるよ」
金貨を握りしめたカンザキは、「リンゴは食べたらちゃんと芯捨てろ」と叱ってから男の鎖を外した。
「それで、おまえ、名前は?」
「ヒメカワ」
「似合わねえな」
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