姪っ子が家出しました。
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「…………?」
急に静かになった廊下に、二葉はドアにそろりと近寄り、耳を澄ませた。
すると、そのタイミングを見計らったように神崎は高笑いを発した。
「クソクソクソ! 今日が貴様の最期でクソ! ごはんくんっ!」
「出たな、うんコップ大佐! おまえの好きにはさせないぞっ!」
続いて聞こえたのが因幡の声だ。
「!?」
二葉は突然何事かと、頬がつくほど耳をドアに押し付ける。
「うんコップらぁ!!」
「ごはんどパワー!!」
どたばたと騒がしい音まで聞こえ、二葉は混ざりたい衝動にうずうずしてきた。
「ごはんどパワ―――ッ!!」
「ぐっはぁ~!」
床に倒れる音に、悪役好きの二葉は「負けたのか!?」と思わず口にする。
「貴様など…、うんこ男爵がいれば…っ」
「でも、うんこ男爵って部屋に閉じこもってて出てこないよねー。早くしないとごはんくんにやられちゃうねー」
そこで夏目が言うと、二葉ははっとした。
「うんこ男爵…っ、お助けを~…!!」
(いいぞ名演技だぞ神崎! つうかノリノリだなっ)
ここで二葉がノリノリでうんこ男爵となって登場させるという作戦だ。
“天照作戦”改め“ごはんくんごっこ作戦”。
しかし、大好きなうんコップのピンチになっても、一向に現れない。
首を傾げた夏目は、人差し指を自分の口元に当てたままドアに近づいて耳を澄ませた。
わずかだが、シャカシャカ、という音が聞こえる。
「…なんか音楽聴いてるよ?」
「あ、たぶんオレのiPod…」
部屋のテーブルに置いていたのを思い出す。
耳を塞いで作戦に乗るまいと抵抗していた。
「そんな逃避手段置いとくなよ」
「オレの部屋だからいいだろっ」
「もうこっちが騒いでもムリそうだねぇ。思ったより手ごわい…」
耳を塞がれたからには、こちらがどれだけ騒いでも無駄だろう。
だがそこで諦める因幡達ではない。
「音がダメなら、匂いでおびき出すしかねえな…。…城山」
「ああ」
因幡と城山は目を合わせ、一度ダイニングに戻ってキッチンに立ち、エプロンを身に着ける。
「材料OK」
「油OK」
「これよりスウィーツ・クッキングを開始する」
「了解」
因幡は卵やマーガリンなどの材料をボウルに入れてヘラで混ぜ、粉っぽさがなくなれば城山に渡し、城山はそれを手で混ぜ始めた。
その間に因幡は台の上に小麦粉を振るい、混ぜ終わった城山が生地をそこへ置いて伸ばし、型抜きをする。
それから、型を抜いたそれを、温めておいた油に投入していく。
入れていくたび、ジュワッ、と泡立ち、甘い香りがしてきた。
ダイニングのドアを開け、神崎と夏目はうちわで煽ぎ、その匂いを2階の部屋へと上げる。
「…!」
ロックの真っ最中だった二葉はすぐにその匂いに気付き、腹を鳴らし、口の中を唾液でいっぱいにする。
ドアの前には、出来上がって粉糖をかけたドーナツを並べのせた皿を持って立つ因幡達の姿があった。
神崎と夏目はドアの向こうの反応に耳を澄ませながら、出来立てのドーナツを頬張っている。
「これウマッ」
「反応ないけど…」
しかし、しばらくすると、カリカリ…、と爪でドアを引っ掻く音が聞こえた。
カリカリ…
二葉は欲に押し負けそうな自分自身と戦っていた。
「出るに出られないネコか」
そのか細い音を聞きながら因幡はつっこんだ。
まるでこちらが苛めているようだ。
欲に打ち勝ったのか、またドアの向こうは沈黙した。
「我慢強いな」
ドーナツ作戦も失敗だ。
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