今日だけリーゼント。
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とある日の、石矢魔高校。
神崎は、目の前の机でふんぞり返っている因幡の姿を見て、茫然と立ちつくしていた。
周りの石矢魔の不良達も何事かと遠巻きに見つめている。
「よう、神崎」
ケータイをいじっていた因幡は目の前の神崎を見上げ、小さく手をあげて平然と挨拶を交わした。
神崎は持っていたヨーグルッチを一口飲んで落ち着いてから、率直に今の疑問をぶつける。
「……因幡…、なんのマネだ?」
「見てわかるだろ…」
なにをバカなことを、と言いたげに鼻で笑った因幡は、両目にかけた色眼鏡を指先で押し上げ、わざと頭のリーゼントが揺れるようにもう1度神崎を見上げた。
「姫川…ですけど?(どやぁ)」
パァンッ!
「はうっ!!」
躊躇なく上履きで横っ面を叩かれた。
そのせいで1時間かけて仕上げたリーゼントがL字に曲がり、サングラスも吹っ飛んだ。
「あぁっ! リーゼントが…っ!」
「リーゼントが…じゃねえよ! オレが聞いてんのはフランスパンのコスプレしてる理由だ!」
今の因幡は、リーゼントやサングラスだけでなく、きっちりとアロハシャツまで着こなしていたのだ。
神崎の後ろでそれを眺めていた城山は茫然し、夏目は笑いを堪えていた。
「簡潔に話せ」
「姫川が風邪引いた。以上」
「結論は求めてねえんだよっ!! そこからてめーが姫川になった経緯を話せっての!!」
風邪を引いただけなら、なにもコスプレの必要はない。
手鏡を取り出した因幡は、それを城山に持ってこちらに向けてもらい、リーゼントを直しながら理由を話した。
「昨日、オレ、ちょっと風邪気味でさぁ…」
*****
下校しようとしたところで、姫川が校門の前で車を待っているのを見かけて声をかけた。
「ひっくし! よぅ、姫川」
「因幡…。どうした? バカのクセに風邪か?(笑)」
「バカじゃねえから引いてんだろ。…あ、ちょうどいいや。オレの家まで乗せてってくれねーか? 家まで帰るのしんどい」
「はぁ? おまえんちすぐそこだろ。飛んでけよ」
「へっくし! 薄情な奴だな…。ん? なんだそれ、ラブレター?」
姫川を睨んでいた視線が、姫川の手元に移る。
その手には、汚れた封筒が握られていた。
「よく見ろ」
姫川は因幡の顔の前に封筒の表面を見せる。
それには“はたしじょう”と汚い字で書かれていた。
果たし状は石矢魔のような不良校では珍しくないことだ。
まじまじと見た因幡は「汚い字だな…」と呟いてから姫川に視線を上げる。
「果たし状…。今度はどこと喧嘩するつもりだ?」
あわよくば混ぜてもらおうかと企む。
「この間潰したところ…、なんてギャングだったかな…」
「後ろに書いてあるぞ」
“喪卑漢”
「そうだそうだ、“モヒカン”だ」
「ブッ!! アッハッハ!! くしゅんっ!! ハッハッハッ!! へぶしっ!!(笑)」
「くしゃみ笑い? つうかウケすぎ」
「くく…っ、モヒカンって…。リーゼントVSモヒカン…ぷくく…っ!(笑)」
「おい、リーゼント笑うならオレは怒るぞ」
未だに腹を抱えて笑う因幡は「悪い悪い」と手をひらひらさせる。
「ちょっと教育が足りなかったか…。面倒だな…」
「面倒なら行かなきゃいいだろ? 代わりに行ってやってもいいぜ」
目を輝かせながら期待の返事を待つ因幡を姫川は手で制す。
「バカ言うな。シッポまいて逃げたって思われるのも癪だからな。仕方ねえから行ってボコボコに叩きのめしてくるわ」
「そうかよ。…いつボコボコにするんだ?」
「明日の夕方4時だ。オレの集会所の近くか。親切なことに、ちゃんと下校時刻に設定してくれてるようだな」
「ふーん」
「ついてくんなよ?」
そう言って因幡の額を人差し指の先で軽くつつく。
「わかってるって。見学はしに行くかもしれねーけど…」
「くんなよ?」
さらに念を押されてしまう。
因幡は「はいはい」と口を尖らせて返した。
そこでちょうど迎えの車が到着する。
「また明日な」
「おう」
蓮井に後部座席のドアを開けて乗り込んだ姫川を見送った際、
「へっくし!」
ドアが閉まると同時にくしゃみをした姫川を見た。
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