夜空に花が咲きました。
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夕方になり、神崎達が家にやってきた。
「「「因幡くーん、あーそーぼーっ」」」
インターフォン越しに言われ、因幡は露骨にため息をついて返す。
「それホントやめろ。恥ずかしくねえのかおめーら」
玄関のドアを開けたのは、コハルだ。
3人の姿を見て目を輝かせる。
「いらっしゃい。まあ、みんな浴衣? 素敵ね」
神崎は海縞柄の濃い緑の浴衣、夏目は麻の葉柄のグレーの浴衣、城山は朝霧柄の黒の浴衣だ。
「桃ちゃーん、早く出てきなさい」
「「「?」」」
肝心の因幡が玄関にいなかった。
因幡はダイニングに続く半開きのドアからこちらを恥ずかしげに見ている。
「なにやってんだ、早く出て来ねえと置いてくぞ」
「ま…、待てよ、今行くって」
神崎に促され、渋々ドアを大きく開けて出てきた。
「「「…どちら様?」」」
「因幡様だバカっ!!」
現れた因幡は、浴衣姿だ。
黒の布地に桜が散りばめられた、女子の浴衣だ。
前髪は下ろされ、後ろ髪は結われ、金色のかんざしをつけている。
「やっぱり、祭りと言えば浴衣よねぇ」
「はいはいそーですね(棒読み)」
楽しげな母とうんざり顔の娘のそのやり取りを見て、ムリヤリ着つけられたと察する3人。
(あいつ、母ちゃんにだけは頭が上がらねえんだよな…)
「早く行こうぜ」
「あ、桃ちゃん、これ」
下駄を履く因幡に、コハルはデジカメを渡した。
「あとは任せた」
「? わかった」
なにを任せたのだろうかと疑問に思いながら、因幡は神崎達とともに、石矢魔神社で行われている祭りへと向かった。
家族連れやカップルなどで賑わう神社の境内には色んな出店が並んでいる。
「多いな…」
人の多さに驚きながら、因幡は慣れない下駄で神崎達についていく。
「因幡ちゃん、大丈夫?」
「うん…。ちょっと慣れない…」
ずっとスニーカーを履き続けてきたのだから無理はない。
ましてや、足をうまく上げられない浴衣まで着ているのだから。
この状態で石段を登れというのだ。
階段を見上げる因幡の顔はげんなりとしている。
「これ登るのか…」
「しっかり歩け」
神崎は先頭を歩き、石段を上がっていく。
最後尾の因幡は夏目に心配されながらも一歩一歩と慎重にのぼっていった。
「うわっ」
だが、中間まで登ってきた辺りで、不意にバランスを崩してしまう。
「あ!」
因幡の前にいた夏目が手を伸ばすと同時に、因幡の背中に誰かの腕が当たり、支えられる。
「!」
「じょーちゃん、大丈夫か?」
「!!」
濃い紫の布地のアロハ柄の浴衣を着た、リーゼントの男。
「姫川!?」
「姫ちゃん…」
因幡が驚いた声を上げると、神崎と城山が立ち止まって振り返る。
「ん? オレとどこかで………」
はっとした姫川は因幡の前髪を後ろに撫でつけて確認する。
「…因幡か?」
「そうだよ」
「姫川、なんでてめーがこんなとこに…。祭りにくるキャラかよ」
神崎は呆れるように言う。
「あ? …因幡母に呼ばれたんだよ…」
なにを言われたのか、苦渋に満ちた顔だ。
因幡は夏目の電話のあとのコハルを思い出す。
あの時電話していたのは、編集者ではなくて姫川だったのだ。
これでデジカメとともに託された意味も発覚する。
「やられたな…」
そう言う因幡の口元は苦笑が浮かんでいた。
祭りの規模は都会と比べて小さいものだったが、境内の出店は充実していた。
因幡達は順番にまわっていく。
因幡はイカ焼き、姫川は焼きとうもろこし、神崎はたこ焼き、夏目はベビーカステラ、城山はからあげとバラバラだ。
鳥居の近くで立ち食いする。
「……うめぇな。とうもろこしなのに…」
とうもろこしを一口かじった姫川は小さな感動を覚えていた。
「因幡ちゃん、一個食べる?」
「おー。じゃあこっちも…」
夏目からからあげを一つもらった因幡は、持っていたイカ焼きを差し出して一口かじらせる。
それを見ていた姫川は横からなにかを突きつけられたことに気づいた。
見ると、つまようじに刺さったたこ焼きだ。
「……一個やるよ」
「どういう風の吹き回しだよ」
苦笑する姫川だったが、遠慮なくもらう。
「!! あつっっっ!!」
だが、口に含んだ瞬間、たこやきの熱さが口内全体に広がり、吐き出すこともできずに慌て、そのまま飲み込んだ。
「ぐ…っ」
痛いくらい熱い塊が食道を通っていくのを感じた。
それを見た神崎は抱腹絶倒している。
「ちゃんとふーふーして冷ましてから食えよバ―――カッ!!(笑)」
「てめー、わざとかこのヤロウ!!」
憤慨する姫川に、神崎は舌を出して「バーカ」「バーカ」と露骨にバカにしている。
一緒にいるのが恥ずかしくなってきた因幡はイカ焼きを咀嚼しながら、小学生のように喚きたてる2人から少し距離を置く。
「ガキ…」
舌を火傷してしまい、姫川は「かき氷を食うぞ」と言い出した。
因幡達はすぐ近くにあったかき氷の店に立ち寄り、それぞれ違う味のかき氷を注文する。
因幡はブルーハワイ、姫川はイチゴ、神崎はメロン、夏目はレモン、城山はみぞれだ。
「見事にバラバラだな…」
プラスチックのスプーンで自分のかき氷をすくい、因幡は呟いた。
積まれた氷の山の上に、青い蜜。
明かりに照らすとキラキラと光った。
見た目を楽しみながら、全員が横一列に並んで各々のかき氷をほぼ同時に口に運ぶ。
「「「「「……くぅ~~…っ」」」」」
脳に鋭く冷たい刺激が、キーン、と伝わり、目をギュッとつぶった。
それからも一口一口と食べていくうちに体内から熱が引いていく。
夕方で涼しいこともあり、食べ終えたころには寒いくらいだ。
「神崎、舌出してみろ」
姫川にそう言われ、「?」を頭に浮かべながらも神崎は舌を出してみる。
舌の表皮が緑色だ。
「うわ、緑色」
因幡は面白がって見る。
「因幡は青色だ」
城山にそう言われ、因幡は「あ」と言って舌を出す。
しっかりと青色に着色された舌を見た夏目は「あ、ホントだ」と笑い、「オレもだよ」と黄色の舌を見せる。
「そういう姫川も舌出してみろよ」
神崎がそう言うと、姫川は余裕の表情でベッと舌を出した。
舌の色に変わりはない。
「あれ?」
「イチゴなんだから色がつかないのは当たり前だろ」
「イチゴなんて女子かてめーはっ」
面白くないので言い返す。
「それを偏見っつーんだよ」
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