不思議の国の。
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その日、因幡は寝坊してしまい、電車に乗り遅れないようにと朝食を抜いて走っていた。
「やべー、遅刻ー!」
駅が見えてきた時だ。
「?」
タキシード姿で、白いウサギ耳をつけた古市が大きな時計を握りしめ、因幡の横を駆け抜けた。
「遅刻だー!!」
走りながらその背中を見つめる因幡はふと疑問を口にした。
「……配役的に、オレが白ウサギだと思わないか? むしろ、古市がアリス役にぴったりだと思うけど…」
夢主なので。
「あ、そう…?」
(どこ行くんだろう…?)
古市ウサギは駅内に入り、因幡はそれを追いかける。
駅の階段をのぼるかと思いきや、非常口の扉からまた外へと出て行ってしまう。
「電車に乗らねえのか、あいつ…」
怪訝に思いながらも、因幡はその扉を開けた。
「は?」
地に足がつかなかった。
それもそのはず。
扉の向こうは真っ暗闇のうえ、床がなかった。
重力に従い、因幡はそのまま真っ逆さまに落下してしまう。
「ええええええ!!!?」
扉に手を伸ばしたが、勝手に閉まり、闇の中を落ちて行く。
穴は深く、終着点が見えない。
「いつまで落ちるんだあああああっ!!! へぶっ!?」
ようやく到着。
因幡はうつ伏せに倒れた。
顔を打っただけで済んだ。
「済まねえよっ!! オレってバケモノ!!?」
そこは、人一人がやっと住めるくらいの部屋だった。
「なにこの部屋、狭っ」
女の子の部屋のようだ。
壁紙はカワイらしいピンクで、床はトランプのマーク柄のカーペット、部屋の棚には人形や本や小物が並び、部屋の真ん中には白い小さなテーブル、部屋の片隅には小さなベッドが置かれてある。
天井は先程因幡が落ちてきた穴がぽっかりと空いていた。
頂上は光さえ見えない。
「のぼりは面倒だな…」
どこかに出入口らしきものはないのかと見回せば、冗談のように小さなドアが壁にあった。
因幡はそのドアの前にしゃがみ、試しにノブを引いてみるが鍵がかけられているのか開かない。
たとえ開いたとしてもネズミほどの大きさのため、どちらにしろ通ることはできない。
「…壁ごと壊すか」
因幡が爪先を、とんとん、と軽く叩いた時だ。
「そんな横暴なアリスはいねーよ!!」
「!」
どこからか鋭いつっこみが聞こえた。
誰かが隠れる場所もない部屋だ。
因幡は振り返り、人形が並べられた後ろの棚を見つめる。
「…あ」
2体の人形が動き出した。
騎士の人形だ。
相沢と陣野に似ている。
「どーも。門番ズでーす」
相沢人形がへらへらとした顔で挨拶する。
「久々の客人だな。そのドアを開けて通りたいのか?」
陣野の問いに因幡は頷く。
「ああ…。まあ、今から壊すからいいけど…」
「よくねーよっ。オレ達一応門番任されてるわけだし、勝手なことされちゃ困るんスけど」
門番のクセに通していいのか、因幡は疑問に思ったが口にしなかった。
因幡の視線がふと2人の首元に留まる。
2人の首には銀の首輪が光り、2人を繋ぐように鎖が垂れさがっていた。
鎖の長さは目測で2m。
よく見ると、首輪の中心には水晶のバラの花があった。
「……その首輪どうした?」
「色々と事情があってな」
因幡の問いに陣野が答え、自分の首輪を撫でた。
「おまえらはどっちがタチか悩みどころなんだよな」
「なんの話だ? …ともかく、そのドアを通りたければ小さくなるしかない」
「わかってんだよ。それしかねーよ。けど、簡単に言うなっ」
わかりきったことを言われ、因幡のこめかみに小さな青筋が浮き上がる。
そこで相沢が口を出した。
「テーブルに2つの小瓶があるだろ?」
「小瓶?」
テーブルを見ると、さっきはなかったはずの小瓶が2つそこにあった。
小瓶には“私を飲んで”と小さな貼り紙が貼られてある。
「それ、2つとも小さくなる薬だから」
「小さく…」
どちらも色が違う。
ひとつはタバスコを思わせるような赤色。
もうひとつは間違いなく毒だと思わせるような緑色。
どちらも見た目が悪い。
選んだのは赤色。
コルクを抜いて因幡は一気に飲み干した。
すると、徐々に体は縮んでいく。
「おお、小さく…ダブ…」
手のひらを見ると、カワイらしい、もみじのおててがあった。
「ダ―――ッ!!(「小さく」の意味が違ーうっ!!)」
つっこむ赤ん坊。
陣野に戻してもらった因幡は青の薬を飲み、今度こそ体を小さくさせた。
棚から下りてきた陣野と相沢が扉の前に立つ。
「おっと、その前に鍵を開けねーとな」
「その鍵は?」
陣野が指をさした先を目で追うと、テーブルの上に鍵が置いてあるのが見えた。
テーブルは高く、また大きくなって取らなければならない。
「まどろっこしいわぁ!!」
因幡は躊躇なくドアを蹴破った。
「結局壊したっ!!」
粉々に粉砕したドアを抜け、因幡は目の前に広がる森林を見渡した。
「森…」
元の場所に戻れると思いきや、見慣れた風景はどこにも存在しない。
「まったく、誰が直すと思ってるんだ」
肩越しに振り返ると、陣野と相沢は工具を手に、ドアを直し始めた。
「なあ、駅に戻りたいんだけど、どう行けばいいんだ?」
「ひたすら真っ直ぐ行ったらいいんじゃないのー?」
ドアを壊された恨みなのか適当に返され、因幡はムッと顔をしかめたが、言われた通り先を進むことにした。
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