ギャンブラーの一夜。
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夏目はブラックジャックに挑戦していた。
プレイヤーとディーラーの対決だ。
ルールは、21を超えないように手持ちのカードの点数の合計を21に近づけ、その点数がディーラーを上回ること。
手の中のカードの点数は、カード2~10ではその数字通りの値であり、また、絵札であるキング、クイーン、ジャックは10と数え、エースは、手持ちのカードの合計が21を超えない範囲で11と数え、超える場合は1として数える。
ディーラーは夏目の表情を窺い、カードを配る。
「ヒット」
テーブルを叩いてもう1枚カードをもらい、「スタンド」と手のひらを下に向けて水平に振って止めてからカードをめくる。
ジャック、エース。
ちょうど21。
「ついてるね」
これまでバースト(21越え)もなし。
そろそろやめ時を覚え、キリのいいところで上がり、夏目は手に入れたチップを両手に、他の客を観察しながらみんなはどのゲームを楽しんでいるか見に行く。
姫川はチャック・ア・ラックに挑戦していた。
ルールは、3個のダイスを振り、賭けた目が1個以上出現すれば勝ちとなる。
姫川は躊躇わず5の数字にすべてのチップをかける。
普段のような小細工は一切なしだ。
「全部5の目」
鳥かご状の器具であるケージの中でダイスが振られる。
出た目はすべて5。
見ていた客は「おおっ」と驚きの声を上げた。
「すごい! エニートリプルだ!!」
「あの兄ちゃん何モンだ!!?」
手にする額は賭け金の30倍。
カジノ側のディーラーも焦った表情を見せている。
「やるねー、姫ちゃん。あっという間にお金持ちだ」
姫川の強運に拍手を送らずにはいられない。
「元から大金持ちだけどな」
フン、と鼻で笑って返したあと、「先に換金してくるか。邪魔だし」と換金しに行こうとするが、夏目は肩をつかんで止める。
「あっちも凄いことになってるよ」
指さした方向には、畳が敷かれた場所が設けられてあり、神崎はそこにいた。
「さあ、張った張った!」
2個のサイコロが入れられたツボが振られ、床に押し当てられ、ツボ振りは「張った張った」と煽る。
丁は偶数。
半は奇数。
所詮確率は2分の1。
参戦している客は丁か半か決め、コマ(チップ)を張った。
「丁か半か!?」
サイコロを振るところから押し当てるところまで真剣な面持ちで見守っていた神崎は鼻で笑い、コマをすべて張る。
「ピンゾロの丁」
ツボが開けられると、ゾロ目の1-ピンゾロの丁が出た。
これにはツボ振りも驚いている。
「悪いなぁ」
唖然とする客や恨みがましく睨むに見届けられ、神崎は賭けられたコマをすべてもらっていく。
「さすが神崎君、お似合いな勝負で勝っちゃった」
キリを上げたところで夏目が声をかけた。
最初に見かけていた姫川は「最初ボロ負けだったクセに」と口を尖らせる。
「観察中だったんだよ。クセとか。おかげでこの通りだ。てめーみたいに運ばっか頼ってんじゃねーんだよ。運使い切って貧民になっても知らねーぞ」
「心配しなくても、オレの運は底なしだ。それに、オレの方がチップの数上だし」
「いやいやよく数えてみろ。オレの方がだいぶ重いぞ」
「木札だからだろ」
2人は自分のチップを自慢げに見せ合っている。
数はどっちもどっちだ。
「2人とも、ギャンブルでも和と洋にうまく分かれるよねぇ」
夏目の呟きを聞いてない2人。
キャンキャンと喚いていると、ルーレットに挑戦していた城山が戻ってきた。
「あ、城ちゃんおかえり」
「……ああ…」
顔も声も暗い。
チップもない。
3人はすぐに察した。
ボロ負けしたのだと。
「ま…、負けちゃった?」
「最初は勝ち進んでいたんだ。10連勝。自信持って全賭けしたらこのザマだ」
10連勝。
確かにその状態で全部取り上げられれば精神的ダメージもデカい。
「ああいう奴がカジノに絞りとられやすいんだろうな…」
神崎は憐れむ目で城山を見つめる。
「あ…、そういえば因幡が…」
城山は途中で見かけた因幡の姿を思い出し、神崎、夏目、姫川をそこへ案内する。
「ワンペア」
「ツーペア」
因幡はポーカーに挑戦していた。
7、7、8、5、4。
スートはバラバラ。
相手はQ、Q、9、9、6、A。
こちらもスートはバラバラ。
見た限り、あんばいはよくない。
持って行かれるチップの山を見つめ、舌打ちする。
(2勝9敗…。まだまだ微妙だな…)
相手は20代前半の男だ。
ガムを噛みながらゲームをしている。
表情は余裕げなのが因幡の癇に障った。
チラリと横を見ると、壁際に寄りかかってこちらを窺う神崎達がいた。
「……………」
(いいところに…)
因幡は右手を背中にやり、サインを送る。
それに気付いた夏目と神崎は行動に出た。
勝負。
5枚のカードを手にし、役の強さを見る。
ポーカーは心理戦だ。
賭け金を出したからといって強いカードとは限らない。
そんなハッタリを使って相手を誘い、逆転を狙ってくるケースもある。
カードを見る。
6、6、6、3、A。
スートはバラバラ。
「スリー・オブ・ア・カインド」
「ストレート」
相手のカードは、8、7、6、5、4。
スートはバラバラ。
(クソッ!)
またチップが持って行かれる。
手の内を読まれている気がした。
そうでなければ、一歩先を行く勝ち方はされない。
強すぎるカードを出し続ければフロア内を歩き回っている店員に睨まれる。
2回の勝ちも、すべて相手が損失の少ないチップを出している時だけ。
カードになにか細工でもあるのか。
因幡は試しにひっくり返してみるが、角が削れているどこか傷一つないトランプだ。
ならば天井に反射する鏡のようなものが。
そう思って天井を見回しても見つからない。
「終わりか? 声かけといてそりゃねーだろ姉ちゃん」
相手は挑発的な笑みを浮かべる。
「姉ちゃん」。
因幡は蹴りかかりたい衝動を抑えた。
こちらを傍観している姫川と城山も「どうどう」と遠くでなだめている。
(おい、そいつなにかズルしてんだろ)
因幡は夏目と神崎にアイコンタクトを送ったが、2人も「どうどう」となだめていた。
おいこいつ転がしていいか、と解釈したらしい。
(違ぇよ! ズルしてないか聞いてんだよ!)
因幡はくわっとさらに顔をしかめ、人差し指の先を目の前の男に指した。
男はそのジェスチャーに気付いていない様子だ。
先に理解できた夏目は、ジェスチャーで返す。
(どの角度から見てもわからない。プロのイカサマだとすると、目で確認するのも難しいからね)
(やめとけ。それは八つ当たりっつーんだよ)
神崎はまだ「どうどう、落ち着け」していた。
(やっぱりイカサマか)
因幡はちゃんと夏目のジェスチャーが伝わらず、勝手に確信していた。
「お金、もうないんじゃねーの?」
「なくなったら、このドレス質屋にでも売って金つくってくる」
遠くで姫川が「オレが貸したって忘れてる?」と呟く。
「うわ。めげねー(笑)」
男はゲラゲラと下品な笑い声を立てたが、因幡は睨むだけで足は出さなかった。
(夏目と神崎でもわからないとなると……―――!!)
視線を上にあげ、夏目達を見た因幡ははっとした。
思いついたからには実践と、予定より少し早いが行動を始めることにした。
2人は5枚の手札を手にする。
因幡はチップをすべて賭け、男も同じ数のチップを賭ける。
先に男が手札を明かした。
6、6、6、2、2。
スートはバラバラ。
「フルハウス」
勝利を確信したような笑み。
だが、因幡は手札を置き、手を滑らせてキレイな扇形に並べた。
K、Q、J、10、9。
スートはすべてスペード。
「ストレートフラッシュ」
「!!?」
男は明らかに目を見開かせて露骨に驚いた。
「もーらい」
因幡は男のチップに手を伸ばしたが、男はその手首をつかむ。
「ふざけるなよ。てめー、ズルしやがったな!?」
先程の余裕の表情は積まれたチップと一緒に崩れてしまったようだ。
客全員の注目の的となる。
因幡はその手を振り払い、「はあ?」と挑発的な笑みを浮かべる。
「とぼけんじゃねーよ! 誰か! こいつを調べ…」
ドンッ、と因幡は右足を台の上に置いた。
その衝撃でチップが跳ねる。
「そんなことしたら、オレもアンタのこと調べちゃうけど?」
「なにを…」
「てめーこそとぼけんじゃねーよ。…姫川、どっかの馬鹿がここでイカサマしてるかもしれねーからそれを調べてほしいって頼まれたんだよな?」
「おまえ…、内密にっつっただろ」
姫川は呆れながら因幡に近づき、「そうだ」と諦めて白状する。
それを聞いていた客達がざわめきだした。
「…イカサマ野郎は複数犯だ。神崎達がそいつの後ろにいてピンときた」
「あ? ……あー…なるほどな…。特定人物もいなかったわけだ」
依頼した人間も単独だと思っていたのだろう。
複数で考えるとなると、単純なイカサマだ。
因幡の考えが読めた姫川は言葉を続ける。
「相手の背後からカードを盗み見て、身振り手振りで教えてたわけか。そうすればカードの制限もできる。…てことは、単純に考えて因幡のカードが見える位置にいた奴らがグルってことだな」
因幡の背後のテーブルで会話していた2人組の男達がビクッと震えた。
因幡は男に手を伸ばし、ネクタイをつかんで顔を引き寄せる。
「叩けばもっと出てくるかもな…。ほこり」
「く…っ!」
男はコブシを振るったが、因幡はネクタイを放してそれをかわした。
男はそのまま逃げようと背を向けるが、散々バカにされた因幡がそれを許すはずはない。
ドレスの裾を破って台を踏み台に飛び、逃げる背中に蹴りを食らわせた。
ハイヒールを履いているためとっても痛い。
「ぐえっ」
その衝撃でドレスの裾が大きくめくれる。
「おお」と期待した客達だったが、
「はい残念」
ベッと舌を出す因幡はスパッツを履いていた。
客はあからさまに肩を落とす。
「こっちも逃げようとした奴ら捕まえたぞ」
いつの間にか神崎も裏口から逃げだそうとした男の仲間を3人ほどねじ伏せていた。
「店員さーん、出口閉めちゃってー」
夏目も取り押さえながら店員に呼びかける。
因幡は注目を浴びる中、男の上着を脱がし、ぱたぱたと払った。
すると、大量のトランプが落ちる。
「あーあー、こんなに隠してたのかー」
夏目はそう言いながら呟き、声を潜ませて因幡に問う。
「隠してたトランプ、混ぜたでしょ?」
ネクタイをつかんで引き寄せた時にこっそりと男の胸ポケットに押し込んだのを見られていた。
「ズルはズル。バレたらあとあと面倒だろ?」
因幡はニヤニヤとしながら返した。
男達は店員達に取り押さえられた。
姫川は「あとは連中に任せる」と言って携帯で依頼人に連絡する。
「それにしても、姫川もよくそんな依頼受ける気になったな…」
連絡が終わったあと、神崎が姫川にそう言った。
通話を切った姫川は「そんな知ってる仲でもねーのに、この間発売予定日前のゲーム送ってきてくれたからな。そいつの父親がここの経営者」と返し、携帯を閉じて言葉を継ぐ。
「…まあ、犯人は見つかっても見つからなくてもどっちでもよかったんだけど。たまには、金持ちの遊びってのをてめーらに味わせてみようと思ってな…。学校でトランプするより楽しかっただろ?」
依頼されたあとに学校でトランプをやっている神崎達を見かけ、協力させようと考えたのだ。
意味ありげな笑みを浮かべる姫川に呆れつつ、神崎も笑みを返した。
「要はぼっちが嫌だったんだろ。誘い方がヘッタクソなんだよ。素直にそう言えば神崎さんだって遊んでやらんこともなかったのによぉ」
「ツンデレのてめーがそれを言うか」
「ツンデレだと!?」
再び言い争いを始める2人。
「まあ、確かにアウトローで楽しいぜ、ここは。次はルーレットでもやってみるかな…」
因幡はいい加減履き疲れてきたハイヒールを脱ぎ、ルーレットへと向かう。
「おう、頑張って200万稼げよ」
そんな姫川の言葉に立ち止まり、振り返って首を傾げる。
「…ん?」
200万。
覚えがない金額だ。
「そのドレス、200万だからな。言ったろ、貸したって」
姫川の視線は裾の破かれたドレスに移っていた。
因幡は焦って姫川のもとに走り寄る。
「ちょ、ちょっと待て! 依頼はクリアしたんだし…っ」
「それは皿の話だろ」
「だから待てって! 大体、別にこれは姫川が着るわけじゃ…!」
「急ぎだったからな。借りものを貸した」
姫川は冷静に説明したあと因幡に背を向け、「よし、次はクラップスやろうぜ、神崎ー」と神崎を誘った。
「オレのサイコロの強さナメんなよ、姫川」
神崎もノリノリだ。
「残りのチップ少ないんだけど!? 姫川ぁ―――っ」
「…ちょっとだけなら貸してあげられるよ?」
「遠慮するな」
「城ちゃんは持ち金0じゃん」
因幡の目には、夏目と城山が天使に見えた。
その頃、クラップスを始めた2人はここでも絶好調だった。
2つのダイスを振って合わせて7を出せばこちらの勝ちだ。
「ところで、あの皿、やっぱりおまえが仕組んだのか?」
「ん? ああ。親父が昔パチモンつかまされてよー。いらねーからくれた。使うなり割るなり好きにしていいってよ。なにもしなくても落ちる仕組みなってたのに…、うまい流れになったよなー」
ゲームを取りに行くフリして監視カメラで見ていたらしい。
「おまえ、そんな性格してっから…、オレら以外にダチいねーんだろが;」
「ああ、少なくともダチだと思われてんだ、オレ」
一瞬嬉しそうに笑う姫川はダイスを振り、合わせて7の目を出した。
この強運は、カジノが終わるまで続いた。
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