夜の平和を守ります。
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時間は夜の10時をまわっていた。
胸が真っ平らに見えるようにサラシを巻いてきつく縛り、半ズボンとタンクトップに着替え、オレは自室を出て玄関へと向かった。
「あら、こんな時間にどこ行くの?」
休憩なのだろう、仕事部屋から母さんが出てきた。
頬にはトーンの切れはしをつけている。
「コンビニ。キャンディーが切れたから、散歩がてら買ってくる」
オレはそう言いながら玄関で愛用の靴を履いた。
「あまり遅くなっちゃダメよ。女の子がこんな時間に…」
「見た目女の子じゃねえから大丈夫」
肩越しに母さんにそう言って、オレは玄関の扉を開け、「いってきます」と告げてから外へと踏みだした。
学校に行く時みたいに、夜は屋根と塀の上を飛ぶのは控えている。
なぜなら、泥棒と勘違いされて通報されてしまうからだ。
だから夜の時は常人らしく歩道を歩く。
夜の石矢魔町は、どこか騒々しい。
人気がなくなったからといって好き勝手やっている不良がいるからだ。
つうか絶対うちの生徒もそれやってる。
住宅街のブロック塀を見れば、朝はなかったはずのグラフィティアートが描かれている。
ブロック塀の持ち主はいい迷惑だろう。
遠くでは暴走族のバイク音、できるだけドスを利かせる不良共の罵り合い。
この間はただの散歩のつもりが、因縁つけてくるからのしてやった。
今回はそんな時間つぶしはしねえぞ。
アメを買ったらさっさと家に帰って、もう1回風呂入って大人しく寝る。
ジョギング感覚で走っていると、近所のコンビニの明かりが見えてきた。
あそこで買い物を済ませて家に戻ろう。
コンビニの前には不良達が座り込んでいた。
いるよなぁ、こっちは買い物に来てるのに、自分の縄張りに入られたように睨んでくる奴ら。
奴らもその手の不良だろうか。
あれ、でもあの2人、どこかで見たことあるぞ。
「!」
めっちゃ知ってる2人組だ。
近づいてわかったオレは、そのままジョギングの兄ちゃんのフリをしてコンビニを素通りした。
そして、コンビニの光が遠くなり、オレはふと後ろに振り返る。
「因幡ちゃーん、こんばんはー」
「ジョギングか?」
「うわぁ!?」
2人はいつ近づいてきたのか、ちゃっかりオレのあとについてきていた。
オレは立ち止まり、夏目と城山と向かい合う。
「気配もなく近づいてくんじゃねえよっ!」
「逆切れた」
「そういう因幡ちゃんこそ、オレ達を素通りしていくなんて酷くない?」
もっともだ。
確かに無視したオレも悪い。
「…はぁ。おまえらと関わると、絶対予定狂うから…」
すぐに帰って、風呂に入って、寝る。
この三拍子で終わらせるつもりだったのに。
こいつらといると、くだらないだべりや遊びにふけてしまう。
オレはそう言わず、話を逸らす。
「それよか、神崎は? いないなんて珍しいな。コンビニで買い物中か?」
それには城山が答えてくれた。
「さっきまでいたんだが、用があると言って帰ってしまった」
「用? …ふーん」
こんな時間に用事なんてあるのか。
「因幡ちゃんは? ただのジョギング?」
「あ、そうそう。キャンディー買いに来たんだ」
オレはコンビニに戻ろうと2人の間を通過する。
「残念だけど、お気に入りのアメは売り切れてたよ」
その夏目の言葉に足を止め、勢いよく振り返った。
「うそっ! マジ!?」
「うんうん」
夏目、面白そうな顔をするな。
オレは次のコンビニを目指して大通りを歩いていた。
さすがに深夜は車の通行は少ない。
右には夏目、左には城山。
2人はオレのあとについてくる。
「…よぉ、学生は22時以降は補導されちまうぞ」
「人のことが言えるのか」
「ここらへん物騒だからね」
オレは横目で夏目の顔を軽く睨む。
“因幡ちゃんについていけばきっと面白いことがあるに違いない”。
そんな表情だ。
だんだんこいつの笑顔の裏の言葉が見えるようになってきた。
「夏目…、悪いがオレはアメを買ったらとっとと帰るぞ。おまわりさんに補導されたくねえからな」
「ただで帰れる予感がしないね」
「てめー、素で言ったな!?」
くわっと露骨に睨みつけた時だ。
「やめてよ!」
「いいじゃねえか。逃げんなよ。家まで送ってやるっつってんだ」
路地で見た目からか弱そうな高校生くらいの女が5人組の不良達に絡まれているのを見つけてしまった。
まずい、バッチリと女と目が合った。
どうしてこんなベタな展開に出くわしてしまうんだ。
「助けるの?」
夏目がニコニコしながら尋ねる。
オレは小馬鹿にするように笑ってやった。
「フ…。夏目、オレがなんで他人のために喧嘩しなきゃなんねーんだよ。言っとくけど、偽善するつもりはさらさらねえからな」
その3分後、気が付いたら不良5人組をフルボッコにして、女に何度も「ありがとうございます」と感謝されていた。
「因幡ちゃんも、神崎君に負けず劣らずツンデレだよね」
「おまえもあっちに積み上げるぞ、夏目。…なあ、もういいから早くうちに帰りなよ」
女は顔を上げて「はい」と笑顔を向け、オレ越しになにを見たのか驚いた顔をした。
「あ、姐さん」
「え?」
振り返ると、制服姿の邦枝が木刀を片手に立っていた。
オレ達を見て、あちらも驚いている。
「因幡…? 城山と夏目まで…」
「なんでアンタ達がこんなところにいんのよ」
邦枝に続いて大森と谷村も出てきた。
「レッドテイルこそ、こんな時間になにしてんだ」
オレの問いに大森が答える。
「そのコから、不良に追われてるってメールが千秋に送られたらしいから、それを聞きつけてね…」
このコもレッドテイルのメンバーだったのか。
「礼を言うわ」
「いいよ。オレ達はたまたま見かけただけだし」
礼は言われ慣れてないので照れくさい。
「どこ行くの?」と谷村が聞いてきたから、オレは正直に「コンビニ」と答えておいた。
「最近また物騒になってきたから、気をつけた方がいいわよ」
「ご忠告どうも…。けど、それはこっちのセリフだ。このまま夜回り続ける気か?」
邦枝の家はこの近辺じゃないはずだ。
たぶん、一員が不良に絡まれる前から木刀を片手に外にいたのだろう。
大森と谷村も同様に。
絡まれていたレッドテイルのメンバーを見送ったあと、行く道が同じだったのでオレ達はレッドテイル3人とコンビニまで同行することになった。
「へぇ、隣町の他校の奴らが、わざわざこっちで好き勝手やってんだ?」
邦枝の話を聞いてそう言ったのは夏目だ。
そういやさっきの不良達の制服、石矢魔じゃなかったな。
「石矢魔町で事件を起こせば、オレ達石矢魔高校が町の奴らや警察に睨まれる…。そう考えたのかのかもな」
「酷い押しつけだ」
オレに続いて城山が言う。
それで邦枝は1週間前からその他校の不良をとっちめて追っ払ってるってわけか。
まるで自警団だ。
なんて話してたら、次のコンビニが見えてきた。
レッドテイルとはここでお別れか。
「じゃあ、オレ達はここで」
「ええ」
別れも呆気ない。
邦枝達がコンビニの前を通過し、オレと夏目と城山はコンビニの中に入ろうとした。
そこで、見覚えのある人物を見つける。
「あれ? 男鹿と古市」
邦枝の戻りは早かった。
オレの隣に戻ってきてその姿を確認する。
「…邦枝?」
「あ、いや、ちょっと喉が渇いたからっ、コンビニでなにか買おうと戻ってきただけよ! あ、あれ、男鹿じゃない? 奇遇ねっ」
わざとらしいし、若干棒読みだ。
本当にわかりやすい奴だな。
大森は「姐さん…」と呆れ、谷村はその反応を見て「かわいい」と呟いた。
コンビニに入る前に先に古市がこちらに気付いた。
行動も邦枝と同等に早かった。
すぐにコンビニから出てきて「これはこれは、クイーンとレッドテイルの皆さん!」と満面の笑みを向ける。
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