男を返してください。
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神崎達を振りきり、因幡は非常にご機嫌だった。
若干スキップ気味に道を歩いている。
(おっとこっのかっらだ~♪)
ジャンプをしなくても高い木の枝に手が届く。
このまま学校に行って完全な男の体を見せつけるのもよかったが、また元に戻るのならやめておいたほうがいいと考えた。
自分の中でサボりも確定し、商店街の方に足を向けた。
一方、神崎達は大通りを走りながら因幡の行方を追っていた。
「やっぱり学校に行ったのかな…」
「本当に今日一日と考えているなら、それはないだろう」
因幡が馬鹿ではないことは姫川も知っている。
「…おいもう疲れたのか?」
神崎が立ち止まると他の3人も立ち止まり、姫川は前屈みになって息を弾ませた。
その顔には疲れが露骨に出ている。
「胸も重いし、体力がいつもより半分な気がする…。女って大変なんだな」
「…とりあえず、ボタン全部留めとけ」
神崎は姫川に近づき、ボタンを留めてあげる。
「苦しいだろ」
「ただでさえノーブラなんだ。気になって仕方ねーんだよっ」
走る度に揺れてるし、姫川は気付かなかったが、男の通行人は誰もがこちらを振りかえっている。
「おまえって意外とムッツリだな。この状態で「キャー、痴漢ー」って叫んでやろうか?」
「置いてくぞ、てめーらの問題ごと」
間違いなく警察を呼ばれてしまうだろう。
「とにかく早く見つけ出さねぇと…、あいつトラブルメーカーなとこあるから、今頃どっかの不良校とモメごと起こしてるかも…」
姫川の言う通りだ。
ちょうど因幡は、商店街に着く前に隣町から来た不良の方々と喧嘩をおっぱじめていた。
「なにしやがんだてめぇ!!」
「なにって…、てめーらがいきなり人の小遣いせびろうとしたんだろが…。やること小っちゃ」
因幡は躊躇なく3人ほどボコッただけだ。
そしたら、仲間が集まってきて囲まれてしまい、今の状況に至った。
「おいおいオレ達を誰だと思ってんだ?」
「どちらさまですか?」
「天下の不良校…、その名も…」
ゴッ!
「ぐはぁっ!」
名乗る前にその顔面に蹴りを入れた。
「天下の不良校は石矢魔って決まってんだよボケ共が」
「このヤロウ…、「どちらさまですか?」って聞いておきながら理不尽だ…」
「鬼だ…」
「悪魔だ…」
因幡はコブシを鳴らし、試しに左脇にいた不良を殴り飛ばす。
ゴキン!
「はがっ!!」
一発でノックアウト。
普段なら蹴りを入れて一発で倒すのだが、今回は男の体なのでコブシの威力も跳ねあがっていることを知る。
殴ったコブシもさほど痛くない。
「くくく…っ、強い…」
(男のオレは、強い!!)
力を手に入れると調子に乗ってはしゃぐのは、誰でもあること。
主人公も然り。
時々自分も見失うことも。
因幡が典型的な例だ。
「危ねぇ目してるぞこのヤロ…ひでぶぅ!!」
「強すぎぐふぅっ!!」
「ちょ、待づぶっ!!」
喋り出した者を次々と殴り倒していく。
「全員ブッ転がしまーす」
喧嘩を終えたあと、商店街にやってきた因幡はベンチに座り、先程パン屋で買ったメロンパンを食べていた。
「ねぇ、あのコ、カッコよくない?」
「ねー」
中学生くらいの女子たちのそんな会話を聞きながら、メロンパンを咀嚼する。
(ガタイも良くなったせいか、フェロモンのせいか、オレって男だとモテるんだな…)
「モテ期到来ってか?」
「呑気な奴だな」
「!」
顔を上げると、買い物帰りのヒルダが立っていた。
ビニール袋からはネギが飛びだしている。
因幡はもう昼時かと気付いた。
「……随分と見た目が変わったな」
因幡はフフンと鼻で笑う。
「これが本来のオレだ」
「ウソをつくな。経緯はわからんが、裂け目を通ってしまったんだろう。私も感じ取った…」
「裂け目?」
「たまにあるのだ。異次元の裂け目が。ある日突然どこかに開くことがある。通った人間の体に悪い影響を及ぼすことも…」
歩道橋の空間がそうだったのだろうか。
どうりで嫌な空気を感じ取ったわけだ。
因幡と姫川の性別が入れ替わってしまったのも、偶然そこにあった避け目を通り抜けてしまったからだ。
「早く元に戻らなければ、次に同じ場所に裂け目が出現するのは何十年先になることやら…」
さっと因幡の顔が青くなる。
自分はこの状態は願ったり叶ったりだが、姫川はそれを望まないだろう。
一生竜子ちゃんで過ごしていかなければならない。
そして一生恨まれ続けることになるだろう。
神崎達も商店街に到着し、因幡の姿を捜していた。
姫川も人を捕まえて聞き込みをしていたが、
「えー? 赤メッシュの男? 見てないな…。それより時間あったら遊びに行かない?」
話にならない。
またか、と姫川はげんなりした顔になる。
「姫川!」
「ああほら、彼氏が呼んでるから」
そう言って逃げるように神崎のもとへ走る。
「また捕まってたのか」
「もうやっぱリーゼントにしていい?」
リーゼントなら確かに男も寄りつかないだろうが、女子でリーゼントは違和感ありまくりだ。
神崎も奨めなかった。
「てめーが男にナンパされてると、ナンパしてる男がかわいそうになる…」
「オレもかわいそうだと思えよ」
姫川はそう言って神崎の腕に自分の腕を絡ませた。
そのうえ胸を当ててくるので神崎は慌ててそれを払う。
「ええい、くっつくな!」
「離れてるとまた声かけられちまうだろ」
「おい、そこのバカップル」
声をかけたのは、因幡だった。
「あ、因幡ちゃん。おかえり」
「ただいま」
呑気に返す因幡の頭に、神崎は拳骨を食らわせた。
ゴン!
「痛いっ!」
「その姿のままウロチョロしやがって! 姫川とオレが大変だったんだぞ! わかってんのか!」
「ご…っ、ごめんなさい…」
まるで厳格な父親と悪さをやらかした子どものようだ。
「あ、そうだ、ちょっと大変なことが…」
ちょっとどころではない。
ヒルダから聞いたことをそのまま話した因幡は、あとで全員からそうツッコまれた。
憤慨した姫川は思わずスタンバトンを構えたが、夏目になだめられ、神崎達と共に歩道橋へと戻った。
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