ただの日記には書ききれません。
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冬休み、大晦日。
年末の大掃除をするのは、オレの家も同じだ。
頭には三角巾を巻き、エプロンをかけ、マスクも装備した。
掃除機、ほうき、はたき、雑巾などのゴミを一掃する準備も万端だ。
最初に行くのは、母さんの仕事部屋だ。
自分の部屋ぐらい自分でやってくれ、と言いたいところだが、いつもオレ達のために頑張ってくれている母さんに無茶はさせられない。
というか、元々掃除が下手な人だから手は出させない。
姉貴と春樹に2階を任せ、オレは先にこちらを片付けることにした。
予想はしていたが、やはり散らかっている。
トーンのカスとか、ベタの染みとか、くしゃくしゃに丸められた紙とか。
週に一度は掃除しているが、改めて見るとまだ汚い。
修羅場とかはもっとヒドイ。
他人には見せられないほどに。
ミシ…
どこかから軋む音が聞こえた。
不吉な音だ。
振り返り、少し膨らんでいるように見える物置を見る。
あそこは先週整頓したばかりだし、ああなっているのはとても奇妙だ。
嫌な予感を覚えながらも物置のドアに近づく。
限界を訴えるようにミシミシと軋む音を鳴らしている。
ここにあるのは、母さんの資料ばかりだ。
箱詰めにしたはずだが。
念のためにヘルメットを被ってから開けようかと考えた時だ。
ザ―――ッッ!!
ゴンッ!!
タイミング悪くドアが壊れ、中に詰められていた大量のやおい本がオレ目掛け雪崩れてきた。
床に頭打った。
薄い本でも数があれば危険だ。
そのあと、駆けつけてきた姉貴と春樹に救出され、オレは頭のコブに絆創膏を貼ってから母さんを呼びつけた。
本来の母さんの席である椅子にオレが座り、「やれ」とも言ってないのに、母さんは申し訳なさそうな顔で正座している。
「冬コミではしゃいだのはわかるが、買い過ぎ。人生短いけど、やおい雪崩に遭うとは思わなかった」
「ごめんなさい」
無造作に積み上げたのは、物置から雪崩れてきた、今年の母さんの戦利品。
そういえば最後に掃除した後日コミケでしたね。
『資料集め』と本人は言ってるが、気持ち9割は自分の趣味だ。
封が開けられてすらいない本もある。
「この際だ。物置を整理しよう」
提案を出すと、母さんは素直に頷いてくれた。
「まずは随分前に買った本、もう読まなくなった本を…」
「捨てるのはなしでお願い。萌えるけどゴミにしないであげて」
真顔で何言ってんだ。
我が子のように言う母に露骨に呆れ顔が浮かぶ。
「倉庫でも買っちゃう?」
「却下。見晴らしのいい庭なんだから余計なもの建てない」
「ロフト作っちゃう?」
「いつか天井が抜ける」
雨漏りならぬやおい漏り。
被害はやっぱりオレが浴びる気がした。
「…いっそのこと、埋めるのは?」
「埋めちゃうの!?」
「気は進まないけど、捨てるのと、売るよりかはいいんじゃねえの?」
自分の傍に置きたいのなら。
つか、この注意って本来は親が子にするような事なのに。
「埋めるのは嫌…なんですけど…」
ぼそぼそと言う母。
オレがきつく睨みつけると、さっと目を逸らされた。
「どこかで保管して…いただければ……」
そろそろ聞こえなくなってきた。
「オレの部屋はムリだぞ。他に置くとこはないし。姫川の家みたいに無駄に部屋があるわけじゃ」
あ。
*****
「―――ということで、余ってる部屋ひとつお貸し願えませんか?」
やおい本の入ったダンボールを手に、インターフォン越しにお願いしてみる。
姫川からは、オレの顔がダンボールで隠れて見えないはずだ。
後ろには春樹と姉貴も同じ状態でいる。
「私からもお願いします、姫川さん」
姉貴もお願いしてくれたおかげで、ドアを開けてはくれたが文句はつらつら言われた。
「おまえなぁ、普通クラスメイトにこういうの頼むか?」
「姫川先生は特別ですから」
「屋上から落とすぞ」
「年越し蕎麦とみかん持ってきてやったから」
「てめーはオレを安く見てねえか?」
なんだかんだと言いながらも、まったく使っていない空き部屋同然の部屋を貸してくれた。
ダンボールをそこに置いて早速保管部屋に使わせてもらう。
「よし。鍵は母さんに渡してと…」
これで仕事部屋がすっきりするはずだ。
「ありがとな。また春に貸してもらうことになるかもだけど」
「なんで春?」
春コミだから。
そうは言わず誤魔化すように笑った。
「あ、神崎さん!!」
先に廊下に出た春樹が嬉しそうに声を上げた。
「おー、おまえらどうした?」
夏目と城山も一緒だ。
「そこのぼっちリーゼントが寂しいだろうって事で遊びに来てやったんだろうが。大画面で年末テレビも見たいしな」と神崎。
「みかん持ってきたぞ」と城山。
「こっちに因幡ちゃんもいるって、ママさんから聞いたよ」と夏目。
「だからなんでうちの母親と連絡取り合ってんだおめーは」
「おまえらなぁ…」
好き勝手される姫川は、脱力してそれ以上言葉が出てこないみたいだ。
「じゃあ私達は先に帰るわね」
「え~、オレも神崎さんと年越す―――。姉貴―――」
訴える春樹を姉貴はずるずると引きずっていった。
意外にも、姫川の家にもコタツがあった。
「蓮井がセッティングしてくれた」
我が家のコタツより大きい。
10人以上足がつっこめそうだ。
コタツの上にはみかんを転がし、大画面で年末のテレビを見る。
カウントダウンはすぐそこだ。
隣の城山が寝かけているので揺すって起こす夏目、姫川は慣れてない手つきでみかんを剥き、神崎はヨーグルッチを飲みながらみかんを口に放りこみ、オレは眠気に耐えながらみかんを剥いた。
そろそろ除夜の鐘が鳴る頃だろうか。
鐘の数だけ母さんの煩悩が消えてくれればいいのだが。
今しがたメールが届いた。
『コタツの姫神をお願いします』
「2人ともー、こっち向いて?」
「「ん?」」
写真を撮って添付して送信。
「…浄化はムリだろうな」
「なんの話だ?」
神崎に聞かれ、コタツの机に頬をつけながら「べつにー」と言った。
まぁ、オレも人の事は言えねえか。
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