ただの日記には書ききれません。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
暑い日々が続く中、石矢魔教室でミントのキャンディーを食べながら、因幡は烈怒帝留の会話に耳を傾ける。
「やっぱ夏休みはプールっスよ、プール! でっかいウォータースライダーとかオニ長いしパネェ気持ちいいっスよ!!」と花澤。
「プールねぇ…。確かにこう毎日暑いと冷たい水で涼みたくもなるわ」と大森。
「水着買わないと…」と谷村。
「たまにははめを外すのも悪くないわね。明日休みだしちょうどいいかも」と邦枝。
近くで古市がそわそわしているが無視だ。
因幡は机の上で足を組んで天井を見上げる。
(プール…、ウォータースライダー…、流れる…、冷たい…)
セミの声が遠くで聞こえた。
*****
次の日、因幡は、神崎、夏目、城山、姫川を家に招いた。
家の庭には、ペットボトルを切って組み合わせて制作された何かが設置されてある。
「―――ということで、流しそうめんしようかと…」
「作りましたー」
因幡と春樹が「じゃーん」と自作流しそうめんを見せつける。
一晩かけて制作した。
「「なんでそうなる!!?」」
神崎と姫川のつっこみももっともだ。
自分もプールに行くという流れではないのか。
「水着回を期待したか!? 残念だったな!! オレは自分事なら色気より食い気なんで!!」
「私は水着回、期待しちゃった」
「母さんって本当に正直者ね」
縁側に座り、うちわで自分を扇ぎながらコハルが寂しげに呟く。
その近くでは、桜がガーデニングにホースで水をやっていた。
「まあいいじゃん。そうめんも好きだよ、オレ」
「流しそうめんなんて初めてだ」
夏目と城山は乗り気である。
「流しヨーグルッチにしてやる。きっと一味違うぞ」
「一味どころじゃ済まないから。夏目、おさえつけて」
「了解」
まさに流れるような動きでヨーグルッチを取り出した神崎を、夏目と因幡が阻止する。
新品のホースを使い、そうめんを流すための水を流す。
「桃姉、準備OK」
つかみ損ねたそうめんを受けるための桶も用意してある。
「よーし」
「よく作れたな、こんなの」
姫川は器用に作られたそれを見て感心する。
「竹じゃなくてペットボトルで悪いな。でもちゃーんと綺麗に洗って使ってるぜ」
庭に出されたテーブルには、めんつゆと、千切りにしたきゅうりやハムなどの具、わさびとしょうがも準備済みだ。
「神崎、おまえわさびとしょうがどっち派? オレわさび」
「しょうが」
「…普通はわさびだろ」
「あんな刺激物のどこがいいんだ。生姜くらいがちょうどいいんだよ」
「おこちゃまな舌にはわかんねーか」
「あ゛?」
どうでもいい争いが起きる前に春樹は声をかける。
「それじゃあ皆さーん、流しますよー」
脚立を使い、ザルに入れたそうめんをつかんで流した。
夏目、因幡、城山と流れてきたそうめんを箸でつかんでつゆにつけて啜る。
だが、最後の麺は神崎がごっそりとってしまった。
「おい!! オレの分残しとけよ!!」
ちゅるる、と啜った神崎は意地の悪い笑みを浮かべ、箸の先で姫川を指す。
「早いもん勝ちだ。…いい麺使ってるな」
「ガキかこの野郎」
姫川は箸が折れる寸前まで握りしめた。
「まだあるので」
春樹は次の麺を流す。
どんなことをしても衝突してしまうのか、神崎と姫川は箸をぶつけ合いながらそうめんを取ろうとする。
「争うな暑苦しい!」
「あらあら」
傍観しているコハルは困ったように笑っている。
「春樹、もう少し多めに流せよ」
「それじゃあ」
因幡に言われた春樹は、ザルに追加したそうめんを先程よりも多めにつかんで流した。
神崎と姫川はそれを奪い合うように取る。
「…おい」
「あ?」
「わさび…ちょっとよこせ」
途中で味が気になった神崎が姫川の器を箸で指して要求する。
(他人が自分と違うもん食べてると気になるのか)
「……ん」
姫川はそうめんをちゅるちゅると啜りながら器を差し出す。
姫川が食べきる前に神崎は箸を突っ込んで麺を取りだして啜りだした。
(むぅ。美味い…)
「「!」」
そこで違和感を覚えた。
引っ張られるような感覚だ。
ちゅるちゅるちゅるちゅるチュッ…
「「「「「あ」」」」」
神崎は姫川が食べている最中のそうめんの端を口にしてしまい、引っ張られるがまま2人の唇同士がぶつかる。
コハルは無言で吐血して倒れた。
「音もなく倒れた!!」
「おふくろー!!」
駆け寄った桜は「あらあら大変」とコハルを膝枕し、氷水が入った袋を額に当てる。
「熱中症ね」
「出血多量だよ!!!」
「ねっチューしょう…」
コハルは血を吐いたまま至福の顔で寝言のように呟いた。
城山もいつの間にか倒れている。
「こっちも倒れてた!!」
発見した春樹。
「これが伝説の麺チュー」
因幡は固唾をのんだ。
「何ソレ初めて聞いたよ」
城山を膝枕しながらつっこむ夏目。
神崎と姫川は背中を向け合い、しばらく互いの顔が見れずにいる。
「あ…、ありかもな、わさび…」
「…だろ?」
「なかったことにするくらいならせめて面と向かって喋れ。こっちが恥ずかしい」
縁側につるされた風鈴が、チリーン、と涼しげな音を立てた。
.