ただの日記には書ききれません。
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ある日の昼時、石矢魔特設クラスにある自分の席に座り、包みにくるまれた弁当を広げようとした城山はドアからこちらを窺う視線が気になっていた。
先程チクチクと爪楊枝の先で首元をつつかれているようだ。
視線をそちらにやると、夏目と因幡が隠れる気もないくらいドアから顔を出して城山を監視していた。
朝からずっとだ。
一緒に並んでいる時も、神崎と会話をかわしているのに視線だけは城山に向けられていた。
特に隠すのが下手な因幡はわかりやすい。
神崎が姫川とふらりと出て行ったので弁当を一人で食べようとしたが、これでは落ち着いて昼飯も食べられない。
「…一緒に食うか?」
城山が顔を向けて声をかけると、因幡と夏目は互いの顔を見合わせ、城山の席に近づいた。
「あっれー、今日は城山弁当か?」
やや棒読み気味に因幡がわざとらしく声をかけてきた。
「今日“も”だ」
「城ちゃん、今日は何作ってきたの?」
前屈みになって弁当に視線を集める2人。
魂胆が見えず、城山は怪訝な表情を浮かべたまま弁当の包みを広げる。
男用の黒の弁当箱で、2段重ねだ。
上から1段目がおかず。
2段目がのりに包まれたおにぎり4つだ。
「おまえ達は…」
今日は弁当なのか、と聞こうとした瞬間、夏目は1段目、因幡は2段目をつかんでいきなり教室から走り去った。
「あ!!」
弁当を盗まれたことを理解するなり、城山は慌てて廊下を飛び出し、2人を追いかける。
「コラ!! おまえら!!」
しかも、走りながらその弁当を食べているではないか。
「たまごやき~♪」
「夏目っ、オレもオレもっ」
走りながら、夏目はたまごやきをつまんで因幡の口に放り込んだ。
「ウィンナー、茹で野菜、ハンバーグ、からあげ…って冷凍品が1コもないよっ」
「こっちは、右から梅干し、鮭、こんぶ、こっちは…」
一口ずつ食べながら中身を確認していると、全力で走ってきた城山がすぐ背後まで近づき、両腕を広げてつかまえようとした。
「辛子明太子だ―――っ!!」
「うおっ」
つかまる前に因幡はジャンプして避け、曲がり角を曲がり、階段の手すりに腰掛けそのまま滑り降りる。
同じく夏目も階段を数段飛ばして駆け下りた。
城山はそれでもめげずに追いかけてくる。
「おまえ達っ、危ないから食べながら走るなぁぁああっ!!」
言ってることはオカンで、因幡はガクッとバランスを崩しかける。
1階に降りてきた2人は、そこにある空き教室に逃げ込み、ドアを閉めた。
城山も曲がり角の辺りでそれを見、窓から逃げられないように勢いよくドアを開けてその教室に踏み込んだ。
「因幡!! 夏目!!」
パァンッ!
同時に、破裂音と共にカラフルな色テープが降りかかった。
「城ちゃん」
「たんじょーびおめでとう!!」
目の前にはクラッカーを構えた因幡と夏目。
その後ろには席に座った神崎と姫川がいた。
「…は?」
「今日おまえ誕生日だろ」
神崎に言われ、城山は今日の日付を思い出す。
1月23日―――自分の誕生日だ。
「あ、忘れてたな」と姫川。
「だったらいいサプライズになったんじゃねーの?」と神崎。
「サプライズ大成功!」
因幡は、夏目、神崎、姫川と順番にハイタッチしていく。
「神崎さん…、おまえ達…」
「まあ、なんだ…、贈り物っつーか、食べモンだが…、たまにはオレ達からって因幡が提案して…」
城山が茫然としていると、席から立ち上がった神崎は机上に置いていた大きな包みを持って城山に歩み寄り、照れ臭そうに後頭部を掻きながらそれを突きつけた。
「食え」
渡された城山は包みをほどき、中身が漆塗りの重箱だと確認する。
因幡と夏目が弁当を盗んだ理由は、腹に何も入れさせないことと、ここに連れてくることが目的だったのだ。
「……何と言っていいか…っ。ありがとうございます…!!」
まさか神崎からも祝われるとは夢にも思わなかったのだろう。
城山の目から滝のような涙があふれ出る。
「18になっても暑苦しい野郎だな」
そう言いながら、神崎は苦笑した。
「ちなみに、1段目はオレ、2段目は因幡ちゃん、3段目は姫ちゃん、4段目は神崎君が作ったものが入ってるから」
繋げた机の上に早速並べてみた。
1段目を開けてみる。
エビチリ、シューマイ、チンジャオロース、春巻き、酢豚が入っていた。
「城ちゃんの弁当の中身は把握してるから、たまには中華と思って」と夏目。
「美味そうだ」と城山。
「つうか、おまえ料理できたのか」と神崎。
「人並みにね☆」と夏目。
次は因幡が作った2段目だ。
開けてから、数秒して閉める。
「……なんだよ」
作った当人以外、4人は目を疑った。
一度目をこすってからもう一度開けてみる。
錦糸卵、ノリ、かまぼこなどをふんだんに使って作られた、神崎の顔がそこにあった。
「「「「キャラ弁!!?」」」」
意外そうに因幡とキャラ弁を交互に見る。
因幡は耳まで真っ赤にした顔を逸らしていた。
「だって母さんがその方がいいって…」
「因幡!! すまん!! もったいなくて食えん…!!」
城山は真剣に困惑していた。
「食えよ!?」
「つかなんでオレの顔?」
3段目は姫川。
開けてみるなり、因幡達は「あ―――」と納得の声を漏らす。
中身は、世界三大珍味が詰まっていた。
「おまえは期待を裏切らねえよなぁ」と神崎。
「っていうか、コレ、絶対蓮井さんに作らせただろ」と因幡。
「姫ちゃん、意外性を見せないと」と夏目。
「この黒いイクラはなんだ?」と城山。
「キャビアだ!! おまえら世界三大珍味を前に言いたい放題か!!」と姫川。
最後に神崎の作った4段目。
開けるなり、異臭が漂った。
「うわ、なんか甘ったるい!!」
「なにこれ、もしかしてヨーグルッチ入れた!?」
「見た目は普通の弁当なのに…!!」
因幡、夏目、姫川はたまらず鼻をつまみ、換気のため窓を開ける。
失礼な反応に神崎はこめかみに青筋を浮かべた。
「おまえらなぁ…っ」
「いただきます!!」
しかし城山は躊躇わず、両手を合わせて順番に食べ始める。
もちろん神崎が作った弁当もだ。
嫌な顔ひとつしない。
「城山…っ、おまえ、平気なのか?」
心配になって因幡が尋ねるが、城山は咀嚼しながら「全部美味いぞ! 今まで食べたどの料理よりもな!」と率直な感想を言った。
「…そんなに?」
気になった因幡は城山にもすすめられて神崎が作ったたまごやきに箸をつける。
匂いに「うっ」となったが、ほんのりとした甘さがあり、不味くはない。
「…美味い」
「マジか!?」
信じられず、姫川もそこにあったミートボールを一口食べ、続いて夏目もコロッケを食べる。
あっさりしてるので次に次にと口に運ぶことができた。
「神崎さん、とても美味しいです!!」
「そうかそうか」
あのクリスマスの戦いを経て、神崎の料理も進歩したのだろうか。
そんなわけがない。
ある意味進化して時限爆弾となっただけだ。
数時間後、城山、因幡、姫川、夏目が食べた順に倒れ、病院へと運ばれた。
作った当人も食べたのに、神崎だけはなぜか無事だった。
「なんで平気なの、神崎君」と夏目。
「あいつの血はヨーグルッチでできてるからだ」と姫川。
「オレ、もう一滴もヨーグルッチは取り込まねえぞ…」と因幡。
「わが人生に一片の悔いなし」と城山。
病室のベッドで仲良く並んで安静にしている4人。
そこへ、デザートにと用意していたケーキを片手に、神崎が向かっていた。
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