★ラビット・エクストラ★
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あれはまだ私が一族を追放されたばかりの若かりし…、17、18の頃だろうか。
生物の生命力を吸収する悪魔として、大昔、他の悪魔からも忌み嫌われていた私の一族だったが、他の悪魔と共存するために一族の長がその特殊能力を使用することを禁止した。
別に吸わなくても死にはしないからだ。
人間でいうタバコのようなものか。
しかし、私は一度その味に夢中になってしまい、住処を抜け出しては捕食してしまった。
それに私は一族の中でも唯一次元転送が使用できる悪魔だったから、使えば使うほど喉も渇いた。
ある日、一族の者に食事中を見られてしまい、長は申された。
「罰として、町から出てってくれる?」
なんとも軽い…。
当時の私は絶句したものだ。
まだ青かった私は、見つかっても、つまみ食いを見られてしまったガキの仕置き程度だと思っていた。
それに、次元転送能力という特別な能力を持っていて、許されるかもしれないと甘い考えも持ち合わせていたので、調子に乗っていた。
荷物も持たされず追放された私は、しばらく魔界を彷徨った。
魔界中を渡り歩いて知ったのは、私達一族の存在を受け入れられているのはごくわずかであること。
他の町に立ち寄っても、正門で追い返されたり、石を投げられたり、散々だった。
差別反対。
肩身の狭い思いをさせられ、魔界の森へと追いやられた私は、遭難した挙句、奴隷商人2人に取り押さえられてしまった。
「さっさと放さねえとブッ殺すぞクソムシ共がぁっ!!」
え、誰って…。
私ですが。
若気の至りというものだろうか。
昔、けっこう尖っていた。
魔力を封じる縄で縛られてしまった私は、巨漢の奴隷商人に取り押さえられても体力が尽きるまで暴れたものだ。
「チッ。手こずらせやがって…!」
「まさかこんなところで、はぐれ悪魔と出会えるとはな…。しかもこいつ…」
私のアゴをつかんだ髭面の商人が、私の顔を覗き込んでニヤリと笑う。
「こいつ、アルプ族だ」
「売り物になるのか?」
「なるさ。容姿もいい。さっき、次元転送使って逃げようとしただろ。次元転送能力まで使えるなんざ好条件ばかりじゃねーか」
私が売られる前提で話が進んでいて、どれだけ私が喚こうが無視だ。
「誰がてめーらの商品になんざなるか!! これ解け!!」
「あーっ、うざってぇ!!」
「ぐっ」
頭をつかまれ、地面に叩きつけられたあと、髪をつかまれ、ぐいっと上に引っ張られる。
「てめーみてぇな嫌われ悪魔を売ってやろうとしてんだ。精々、オモチャにされて可愛がってもらえ。行く当てもねーんだしな」
下品に笑うそいつに、私は、
「ぶっ」
地面に叩きつけられた際に口の中に入った小石を、そいつの目に飛ばしてやった。
「うぐっ!!」
「こいつ…!!」
そこから先はリンチだ。
こっちが商品なのにも構わず、顔や体中を殴られ続けた。
さすがに死ぬかと思った。
これが禁忌を犯したものの末路か、と途中で諦め、空しさに襲われた。
「人んチの庭でなにやってんだ」
そこで、声がかけらた。
首だけを動かし、ぼやける視界に、パーカーのフードを目元まで被った男がこちらを見下ろしている。
商人達とはまったく関係ないのか、商人達は「なんだてめぇ」と声を荒げて睨んだ。
突然現れた男は私を見据え、私もその男と目を合わせた。赤く染まった目と。
「……そいつ、どうする気だ?」
男が指をさして尋ねると、髭面の商人は「ああ? オレ達の売り物だ。口出すんじゃねえよ」と返した。
「売り物?」
「オレ達は、奴隷商人だ。関わるとてめーも売り物にしちまうぞ」
巨漢の商人がそう言うと、男は「売り物…」と小さく呟いた。
「オラッ、行くぞ」
髭面の商人が私の髪をつかみ、そのまま引きずって行こうとした。
私に抵抗する力はもうない。
このまま気を失ってしまおうかと思った時、「おい」とまた男が声をかけた。
「そいつを寄越せ」
商人達は同時に足を止め、男に振り返った。
「…買うってのか?」
「言っとくが高ぇぞ。いくら出すつもりだ?」
突然の買い手に商人達は気味の悪い笑みを浮かべ、商談モードになる。
男は「はぁ?」と口を歪める。
「オレ様が払うわけないだろ」
「「ああ!!?」」
商人達がこめかみに青筋を浮かべるのと、男が冷たい息を吐いたのは、ほぼ同時だった。
冷たい風を肌で感じた瞬間、
「「ぎゃあああっ!!!」」
商人達は、その冷たい風に体を無数に切り付けられ、その場に倒れた。
傷は浅く、商人達は怯えた顔をして男を見上げる。
「卯月家の庭に勝手に入り込んだくせに…。そっちが金を置いてけよ」
「卯月」の名を聞いて、商人たちの顔がさっと蒼白になる。それから急いで立ち上がり、「失礼しましたぁ―――!!!」と尻尾を巻いて逃げていった。
取り残された私に、男はしゃがんで目を合わせ、こう言った。
「さっきの話、聞かせてもらった。アルプ一族のうえ、次元転送能力があるって…?」
「だから…、どうした…?」
「使えるな。その綺麗な赤髪も気に入った。…おまえ、オレ様の執事になれよ。あいつらはおまえをオレ様に寄越した。だから、今からてめーはオレ様のモンだ。拒否権はない。どーせ行くとこねーんだろ?」
「は…。正気か…」
口元に笑みを浮かべながらも真剣な男の目に、私がくつくつと喉を鳴らすと、男は「名前は?」と尋ねる。
「サージ・メシアン・マ・アルプ」
「どれで呼んでいいのかわかんねーな。まぁ…、一族からはぐれたんなら、もうその名前もいいだろ。オレ様が決めてやる」
「決めてやるって…」
「そうだな…。文字を4つ取って、「鮫島」だ。こういうカッコいい日本の名前で呼びたい」
名前と言うか苗字じゃないか、というつっこみは入れなかった。
「……好きにしろよ」
「ポチ」よりはマシか。
「好きにしてください、だろ? 今日からてめーはこのフユマ様の執事なんだから、敬語の勉強しろ」
そんな偉そうなことを言って、フユマ様は私の縄を切ってくれましたよね。
あれから早くも10年の時が経った。
私は今も傍で仕えているわけで。
「そういえばフユマ様、今年でお歳は…」
「刻まれてえのか? …その前に鮫島ぁ、ちょっと頼まれてくれるか?」
「はい?」
「聖石矢魔学園…。オレ様の顔は割れてるから侵入することはできねーが…、おまえなら可能だろ? 教師に変装して、監視の方頼めるか?」
「……役に立てるなら…」
私を使うといい。
10年の歳月が経過しても消えない、おまえの闇が消えるまでは。
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