プレゼント:反抗期ですか!?
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
作戦会議の翌日から夏目達は早速行動を開始、結果から言えば姫川と神崎に関してはとりあえず目的は達成できた。
まあ情報を入手する過程で、花澤が夏目の言葉をそっくりそのまま受け取り、神崎を発見した途端に他の面々が止める間もなく、全力で真正面から体当たりをブチかまし神崎に白目剥かしたとか、一見笑顔で会話している夏目と姫川の目が実は全然笑ってなくて、どちらかが言葉を発する度に周囲の温度が確実に下がっていき、ついにはブリザードが吹き荒れ運悪く近くにいた生徒達を凍らせてしまったりと、多少(?)騒ぎにはなった。
邦枝達はそれに関して一言と思ったが、「何か問題でも?」と花澤は無邪気に、夏目は明らか腹に一物抱えた笑顔で首を傾げる姿を見て注意する気が失せた。
とにもかくにも後は男鹿と古市が因幡の情報を持ってくるのを待つばかり、だったのだが。
「すいません……」
お互いの情報を交換する為、昼休みに再度屋上に集まった女子班と夏目が目にしたのは、ボロボロになった古市とそんな彼をしかめっ面で抱えてやって来た男鹿の姿だった。
「えっと……とりあえず何でそんな事になったか教えてくれる?」
「はい……」
古市は男鹿に頼んで地面に座らせてもらうと、一度深呼吸をしてから申し訳なさそうな顔で夏目達に話し始めた。
二人も他の面々同様、翌日からターゲットに接触を図っていたがのだが、因幡は古市が声を掛けても一瞥しただけですぐに立ち去ってしまった。
めげずに二回、三回と同じ様に声を掛けるが悉く失敗。
仕舞いには振り返りも立ち止まりもしなくなった。
すんなりいくとは思ってなかったがここまでとは思ってもみなかった。
さてこれはどうしたものか、と追いかけながら考えを巡らせる古市の横からいきなり腕が伸び因幡の服を掴みグッと引き寄せた。
「テメェ、呼んでんだから返事ぐらいしろよ!!」
その腕は因幡の態度に腹を立てた男鹿のものだった。
あまりやる気のない様子だったが、さすがに我慢ができなかったのだろう。
「男鹿、落ち着け!!」
「あ?」
下手すれば乱闘騒ぎになりそうな空気を何とか止めようと古市が男鹿の腕にしがみつく。
その行動に男鹿が一瞬気を取られた時だった。
「げはあっっ!?」
古市の顔面にそれは見事な回し蹴りが見舞われた。
本来ならば男鹿を捉えていた蹴りだったのだが、本能的に危機を察知し寸前で避けた事で被害が古市に回ってきたのだ。
「あ……わ、わりぃ」
「お……が……、先輩、は……?」
「え、あ……いねぇ」
壁に吹っ飛ばされながらも何とか意識を保っていた古市が男鹿に確認するも時既に遅く、周囲に因幡の姿はどこにもなかった。
「……で、情報は得られなかったと」
「はい……」
「次会ったら絶対土下座させてやる」
「男鹿ちゃん、目的代わってるから。にしても、因幡ちゃんってば何があったのかな~」
「アイツをどうにかすれば一気に問題解決に近付くってのに……」
「どういう事ですか?」
「それがねぇ……」
女子班が聞き出した神崎が不機嫌な理由というのが、因幡を食事に誘ったが睨まれた上にシカトされた、というものだった。
それを聞いて驚いたのは夏目だ。
何故なら自分が聞き出した姫川が不機嫌な理由がほぼ同じだったからだ。
ちなみに姫川は食事ではなく、ゲームをしに来ないかと誘っていた。
「あの二人、自分が誰かを誘って断られるって事が今までほとんど無かったと思うんだよね」
「それで腹立てて八つ当たり、ですか?」
「まあそれも多少あるだろうけど、今回はそれだけじゃなくて、因幡ちゃん絡んでるでしょ。何だかんだ言ってあの二人、因幡ちゃんを相当可愛がってるし、でもって因幡ちゃんも二人には懐いてる。この間まで黙ってても近寄って来た可愛い後輩に突然睨まれてシカトなんてされたら……ねぇ?」
要は、柄にもなくあの二人はショックを受けたのだ。
心に相当でかい傷を負ったのだ。
ただ誘いを断られただけでなく、何だかんだ言いながらも可愛がっていた後輩にかなり冷たい態度を取られ、二人の心の内はそれはもうパニックに陥っただろう。
それが怒りなのか悲しみなのかどう表現していいかわからず、誰かに聞こうにも自分がそんな状態であるのを知られるのはプライドが許さず、生じたモヤモヤを晴らす手段がわからずまた更にモヤモヤが増していき、その結果とりあえず周囲に八つ当たりという何ともいただけない展開になってしまった。
「凹むのは別に全然いいんですけど、八つ当たりされるこっちはたまったモンじゃないです」
「まあねー。今はまだ被害は最小限だけど、いつ爆発するかわかんないしなぁ」
城山が心身共にボロボロで、携帯電話が握り潰され又は叩き壊され、罪も無い動物や昆虫が居場所を奪われてはいるが、これでもまだ最小限である。
最小限でコレなのに、もし仮に三人が一斉にブチ切れたとしたら……至極面倒な事になるのは間違いない。
まず間違いなく一番最初に教室は破壊し尽くされるだろうな、とその場面がリアルに想像できてしまい面々の表情は曇る。
「とにかく、次の作戦考えましょ!後は因幡をどうにかすればいいだけだし」
「そ、そうですね!」
「じゃあ次はウチらが行きますか!」
「古市君でアレでしょ?多分誰が行っても駄目だろうね」
さすがに女子相手に暴力はないだろうが、確実に無視されるのは目に見えている。
ここに来て行き詰ってしまいどうしたものかと頭を抱える面々の中、古市がゆっくりと手を挙げ口を開く。
「あの、ちょっと思ったんですけど……視点を中から外に移してみるってのはどうでしょう」
「中から外?」
視線が一斉に古市へと集まる。
「はい。今まで三人が不機嫌になったタイミングから原因は校内だって思い込んでました。姫川先輩と神崎先輩の場合はそうでしたけど、因幡先輩が不機嫌なのはあの二人とは別の原因ですよね。もしかして学校に来るまでに外で何かしらあって、その時は何て事なかったけど後から思い出してみたら『あ、何か腹立ってきた』とか……あり得ませんか?」
そもそも姫川と神崎が不機嫌になったのは因幡が不機嫌であった事から生じたものだ。
そうなると、因幡が不機嫌になったのは二人よりも前という事になる。
当初考えられていた昼休みよりも前となると授業の合間にある休み時間だが、昼休みと違って短いのと午前中は何も問題は生じなかったと夏目他数名の証言があった。
それらを全て踏まえた上で、古市は原因が外にあるのではないかと言ったのだ。
「なるほど、言われてみれば確かに可能性はあるわね」
「キモ市意外とやるっスねー」
「褒める時ぐらいキモ市止めてもらえると嬉しいんだけど……まあそういう訳で次の作戦なんですけど、学校の外にいるのを観察してみたらどうかと」
「つまり尾行するって事ね」
「そうです。夏目先輩、いいですか?」
「全然OK。早速今日の放課後から開始しよう」
「わかった。で、今回のグループ分けどうするの?」
「男子と女子で分ける。大人数だと目立つし一人だと何かあった時に対処しにくいからね」
ついでに今日の放課後は男子が、明日は女子が担当というように、交互でやって行く事も決めた。
「じゃあ古市君、放課後校門に集合って事で。男鹿ちゃんも一緒に……ってあれ?」
「ははは、やだなぁ夏目先輩、男鹿とベル坊なら姫川先輩と神崎先輩の不機嫌な理由が因幡先輩だったってあたりから……寝てます」
「「「「「……」」」」」
どこか悟り切った顔をする古市に面々は掛ける言葉も無く、いつもは辛辣な言葉を投げ掛ける大森や花澤も無言で肩をポンと叩き古市を励ましていた。
その日の放課後、夏目と男鹿と古市は校門で落ち合い因幡の尾行を開始した。
昼休みに集まった時、早々に居眠りをかました男鹿にはいつも通り古市が噛み砕いて説明し、とりあえず現状だけは把握させた。
尾行という地味な作業に男鹿は不満そうな顔をしていたが、ここまで来たら最後までやるぞと古市が強引に連れてきた。
そして今、三人は因幡から数メートル距離をとって物陰に隠れながら様子を伺っている。
「……普通に歩いてる」
「……普通に歩いてるな」
因幡は男鹿と古市が言うように至って普通に歩道を歩いていた。
一般的に見れば何の問題もないが、これが因幡であるなら話は別である。
「やっぱ変。いつもは塀の上とか屋根の上飛び回って危ないから止めろって神崎君に怒られるぐらいなのに」
普段の因幡であれば夏目の言う通り、高いところを好んで移動する。
最初は驚かされたが今ではそれが普通になっている。
神崎だけは度々注意をしているが、それに対して因幡は「だーいじょーぶだって」といつも笑って返していた。
「もしかして喧嘩して足痛めてイラついてるとか」
「ないない。この辺で因幡ちゃんに傷負わせる奴なんて限られてるし、最近喧嘩したって話は聞かない」
「じゃあ違いますね……あ、コンビニ入りそうですよ」
因幡の足が止まったのを見て三人は慌てて近くの電柱の裏に身を隠す。
中に入るのかと思われたが、因幡はコンビニの前に立ち止まりそのまま動こうとしない。
「あれ?」
「入んねぇな」
「あ、そういえば」
夏目はここである事に気付いた。
因幡の口にいつも咥えているはずのアレがないのだ。
「最近キャンディ舐めてるとこ見てないな」
「てことは買いに来たんですかね」
「でも動かねぇぞ?」
しばらく様子を伺っていたが、因幡は何度かコンビニに入ろうとする動きを見せるも結局入らず、十分程してまた歩き出した。
「何だったんだ?」
「さあ……?」
その後も因幡はコンビニの前を通る度に立ち止まり、散々迷った挙げ句入らず立ち去るという行動を何度も繰り返した。
この不可解な行動に三人はこれが不機嫌である原因に繋がっているのではないかと考える。
「コンビニで何かあったのかな」
「買ったもんが不味かったとか」
「いつも買ってるキャンディに今んとこハズレはないって言ってたけど」
「もしかしてお金無くて買えないとか」
「それで禁断症状が出てイライラしまくってるとか」
「お金ない時は俺等に奢れとか金貸してくれとか言ってくるよ。それが無いって事はお金持ってんだろうけど……あ、また中に入らず行っちゃった。男鹿ちゃんが言うように無かったら確かに機嫌は悪くなるけどここまでひどくはないよ。精々姫ちゃんや神崎君に悪戯するぐらい」
「えーっと……参考までにどんな悪戯か、聞いても……?」
「んー、姫ちゃんには後ろから近付いてリーゼントを縦に真っ二つに裂いたり、神崎君には飲もうとしてたヨーグルッチを青汁に変えたり、みたいな。いやぁ、あの時は二人とも良い顔してたよー。思い出しただけでも笑っちゃう」
とても楽しそうに話す夏目を見て、古市は
「あ、この人、一緒になってやったな」と悟った。ついでにやらかす二人を止められず慌てふためく城山の姿も頭に浮かぶ。
元々苦労性な部分を持ち合わせている城山はもちろんの事、人知れず姫川と神崎も大変な目にあってたんだな……と古市は同情せずにはいられなかった。
「何か面白ぇ事してんなー、アンタ等」
「でっしょー。よかったら男鹿ちゃんも今度一緒にやる?」
「男鹿煽るな!夏目先輩も誘わんでください!城山先輩の胃を殺す気ですか!?」
古市も常日頃男鹿から色々と苦労させられている身故、城山の気持ちはよく分かる。
夏目に因幡、そこに男鹿まで加わった日には城山の、主に胃が悲鳴を上げるのは必定だ。
「ほらほら、しっかり尾行して下さいよ!何の為に放課後潰しているかわかってます?」
「ゴメーン」
「わかってるっつーの」
「あああ!因幡先輩あんな先に行ってる!!」
二人を何とか本来やるべき事に引き戻せたのは良かったが、因幡の姿は既に小さくかなり距離が開いてしまったのがわかる。
三人が慌てて追いかけると因幡はある店の前で立ち止まり中をじっと見ていた。
「ゲーセン?」
「入るのかな」
「ここいつも神崎君達と来るところだ、って噂をすれば……」
店の自動扉が開く音がする。
けたたましい音楽が漏れ出すのと同時に中から出てきたのは神崎であった。
その表情はいつも以上に険しく、どう見てもゲームを楽しんでたとは思えない。
「……」
「……」
神崎が一歩店を出た時、目の前にいた因幡の存在に気付いた。
いつもならここで「おう」だの「よう」だのと簡単な挨拶が交わされるのだが、今日は双方共に無言のままただじっと相手を睨みつけている。
「ちょっ、これヤバいんじゃないですか!?」
これぞ正に一触即発な空気に、古市が慌てて夏目を振り返り助けを求めようとしたが、その夏目は睨み合う二人を通り越しその先を見ていた。
「夏目、先輩?」
「これはまたいいタイミングで」
「おい古市、姫川まで来たぞ」
「はあ!?」
男鹿の言葉に古市はまさかと前を向く。
するとそこには自分達とは反対側の道から姫川が歩いて来るのが見えた。
いつもは車で登下校している姫川が何故に徒歩で、しかもピンポイントでこの場所に来るという偶然の重なりに古市は驚愕した。
「……」
「……」
「……」
姫川が二人の存在に気付き立ち止まる。
途端、表情が神崎同様に険しいものに変化し、そして無言のまま三人の睨み合いが開始されたのである。
「あの、俺、超恐いんですけど。何とも言えない三人の雰囲気がめっちゃ恐いんですけど」
「何でだよ、すっげ楽しそうじゃん」
「男鹿もベル坊もワクワクしない!!」
「わー、あの三人がガチでやり合ったらどうなるんだろ」
「夏目先輩も目キラキラさせながら見てる場合じゃないでしょう!?」
因幡の様子を探る為に尾行をしていたはずなのに、いつの間にかこんなおどろおどろしい状況になり、下手したら巻き込まれかねないこの距離で、自分の助けとなるはずの二人はむしろ喜んで巻き込まれたい風な現状に古市は項垂れる。
「あああああ駄目だ、これ絶対巻き込まれるよ、でもって俺だけ怪我するパターンだよ、俺だけ損なパターンだ……」
「おい!!」
張りつめた空気が辺りを支配していたが、突然入り込んできた怒鳴り声にそれがぶつんと途切れた。
睨み合っていた三人と隠れている三人が同時にその声がした方へと視線を向けると、そこにはバットだの鉄パイプだのとありとあらゆる凶器を手にした不良達がゾロゾロと集まってきていた。
「東邦神姫の姫川と神崎、そっちは冷酷兎の因幡だな」
「ちょっと俺等と遊んで行きませんかー」
ニヤニヤと質の悪い笑みを浮かべ三人を取り囲んでいく。
その人数はざっと見積もって三十、いやそれ以上だろうか。
「何黙ってんだよ。あー、もしかしてビビっちゃった?」
「さすがの石矢魔もこれには太刀打ちできねーかぁ?」
不良達の目的が何なのか、理由は至ってシンプルだ。
数に物を言わせて石矢魔でも有名な三人を潰し名を上げようというのだ。
少数では何も出来ないくせに、数が増えると途端に態度が大きくなるというのは些か情けない話ではあるが。
「あーあ……」
「馬鹿だねー」
「アイツ等だけずりぃ!」
混ざりたそうにしている男鹿はともかくとして、古市と夏目はこれから起こるであろう出来事を想像して名も知らぬ不良達を憐れんだ。
あの三人をよく知っているなら断言できる。
数の多さに怖じ気着くような、あれだけ言われてただ黙っているような可愛げを持ち合わせている人間ではないと。
更に言えば、あの三人は今すこぶる機嫌が悪い……そこから導き出される不良達の行く末は考えるまでもない。
先程、場違いな台詞を言っているように見えた男鹿だが、分かっているのだ。自分に出る幕が無い事を。
だから『アイツ等だけずるい』と言ったのだ。
「死ねゴラァッッ!!」
「うらぁっっ!!」
何の反応もない三人に痺れを切らせた数人が凶器を振りかざし襲いかかる。
が、それらは届く事なくカランとあっけない音と共に地面へと転がり、そのすぐ後には凶器を振りかざしていた不良達も地面へと倒れた。
「あー……ウッゼェ」
「ゴチャゴチャうるっせーんだよ」
「……」
姫川と神崎の地を這う様な声に不良達はビクリと体を震わせる。
因幡は相変わらず無言のままだが、その視線には殺気が満ちており不良達を固まらせるには十分だった。
一瞬の出来事に不良達は何が起きたのかすぐには理解できなかったが、姫川が手にしているスタンバトンと神崎と因幡が片足を浮かしているのを見てようやく理解出来た。
「誰に断って俺の視界に入ってきてんだ?」
「カスの分際で人間様の言葉喋ってんじゃねーよ」
ゴリっと嫌な音がする。
固まっている不良達が目でその音を追うと、今しがた倒された内の一人の頭に姫川の足が乗っていた。
そしてその足には徐々に力が入れられているようで、踏まれている方は苦悶の表情を浮かべている。
「で……誰がビビってるって?」
「ぐぁっ……!?」
「ああ、太刀打ちできないとも言ってたっけ?」
「や、め……!」
「悪ぃな、さすがの俺でもカスの言葉は理解できねぇわ」
姫川の足が不良の顔にめり込んだ。鈍い音と悲痛な叫び声が周囲に響き渡る。
それが固まっていた不良達の意識を覚まさせた。
「や……やるぞ!!一気にかかればこっちのもんだっっ!!」
「この人数相手に勝てると思ってんじゃねーぞっっ!!」
「うらあああああ!!」
湧いて出たであろう恐怖を無理矢理に奥へと押し込み不良達が一斉に押し寄せて来る。
しかし、三人はそれに動じる様子も無く繰り出される攻撃を避け次々と相手を沈めていく。
その姿たるや正に鬼、いや悪魔と言ってもいい。
只でさえ強いのに、今は機嫌も悪いときている。
所詮数にだけ頼っている輩が勝てるはずも無い、はずだった。
「くっ……!?」
因幡の様子がおかしい。
確かに不良達を倒していってはいるが、蹴りにいつものキレがない。
というか全体的に動きがぎこちないのだ。
それ故、一撃で倒せず更には相手の攻撃もいくつか受けてしまっていた。
「因幡先輩、何か変ですよ!?」
「あんな連中の攻撃受けるなんて因幡ちゃんらしくない」
気付いたのは古市と夏目だけではなく、不良達も因幡の異変に気付いていた。
そしてそれを見逃すはずも無く、標的を姫川と神崎から因幡へと変更し集中させる。
「うあっっ!?」
ドッと押し寄せた不良達に一瞬の隙を突かれ、因幡は顔面に一発食らってしまった。
地面に倒れた因幡にチャンスとばかりに不良達が群がる。
「因幡ちゃん!!」
「クソがっっ!!」
さすがにコレはマズいと判断した夏目と男鹿が出て行こうとしたその時、因幡に群がっていた不良達が一気に吹っ飛んだ。
何事かと目を丸くした二人が見たのは、先程以上に鬼或いは悪魔の様な形相で因幡の前に立ち塞がる姫川と神崎の姿であった。
「随分と舐めた真似してくれてんじゃねぇか……」
「こっちをスル―していけるとでも思ってんじゃねぇだろうなぁ……」
「「「「「ひいいいいいっっ!?」」」」」
スタンバトンを、そして履いていた靴を真っ赤に染め上げ、血走った目でねめつけ、ニタリと口元が裂けたかの様な笑みを浮かべる二人に、植え付けられた恐怖が倍、いやそれ以上になって不良達の全身を駆け巡る。
「「死にさらせえええええっっ!!」」
「「「「「ぎゃあああああっっ!?」」」」」
悲鳴と同時に、この場は地獄と化した。
逃げ惑う不良達を片っ端から捕まえては殴り飛ばし、蹴り倒し、踏み潰し、ブン投げる。
情けなど微塵も掛ける事なく嬉々として血祭りに挙げていく二人の姿が更に恐怖を煽り新たな悲鳴が上がる。
一方、出るタイミングを完璧に逃してしまった男鹿と夏目、隠れたままの古市は目の前で繰り広げられる地獄絵図をただじっと眺めていた。
「え、えげつない……」
「アイツ等、本当に馬鹿だよねー。よりにもよって因幡ちゃんに手を出すなんてさ。ザマァって感じ?」
引きつった表情で呟いた古市に、夏目は次々に倒れて行く不良達を見て鼻で笑いながら答える。
「え?」
「ほら、前にも言ったけど因幡ちゃんはあの二人の『お気に入り』なんだって」
「でも最近は……」
「確かに変な感じだったけど、それであの二人が因幡ちゃんを切るとかそんな話はなかったでしょ。むしろ二人の方が動揺してたし。その証拠に因幡ちゃんが倒れた時、すぐに駆けつけてただろ。あれ絶対因幡ちゃんがおかしいのに気付いてて様子見てたよ」
あの二人も素直じゃないよね、と夏目は笑う。
駆けつけても因幡には声を掛けず、そのかわりと言わんばかりに傷つけた相手を徹底的に痛めつけるとか、全くもってあの二人らしいやり方だと。
「まあ、この一週間で溜まった鬱憤を晴らしてるってのも少しはあるんだろうけどさ」
「いい話のままで終わらせましょうよ……」
「なー、やっぱ俺行っていいか?」
「行くなっての!……とりあえず待ちますか?」
「そうだねぇ。尾行どころじゃなくなったし、騒ぎが収まるまで待とうか」
「えーつまんねぇー!」
もちろん、男鹿の訴えは却下された。
.