石矢魔クラスに暗雲が立ち込めていた。

ここ最近、大きな揉め事も無く比較的平穏な日常を送っていたのだが、数日前、三人の人間によってそれが突然崩れ去ってしまった。

原因となった三人というのが、姫川と神崎、そして因幡だ。

日頃から、東邦神姫だ冷酷兎だと巷で恐れられているこの三人の機嫌が凶悪なまでに悪いのだ。

神崎はいつも以上に城山に対して理不尽な八つ当たりをし、いつもは笑ってその光景を見ている夏目が見るに見兼ねて間に入ると、それすらも気に食わないと当たりがキツくなり、何度机を蹴り飛ばした事か……。

イラつきに比例してヨーグルッチの本数も激増し、聖石矢魔の自販機は常に売り切れ状態に陥っている。

姫川も女からの誘いを、いつもなら断るにしても何かしら会話を交わすぐらいはするのに、悉くそれらを無視し、携帯を弄ってても「使えねぇ！」と手の中のそれを握り潰すわ叩き壊すわで、ここ数日の間ですでに五台駄目にしている。

今使っている携帯も果たしていつまでもつのか……。


そして因幡だが、異常なまでに静かだった。

いつもなら気持ちよさそうに塀の上や屋根の上を飛び跳ねているがそれも見られず、教室では姫川や神崎の元へ真っ先にやって来て騒ぎ出すのに、ここ数日は二人に近付こうともしない。

最初はあの二人の機嫌が悪いから近付きたくないのかと思われたが、そうではなかった。

因幡も二人と同様、機嫌がすこぶる悪いかったのである。

静かだが、醸し出す空気が半端なく物騒だった。

道を歩く犬や猫、更には電線に留まっている鳥までもが、因幡が近くを歩いていると一斉に逃げ出すのだ。

現時点で、石矢魔内での被害は最小限に抑えられていた。

何故なら、石矢魔の面々はこの三人が如何に厄介かを知っているからだ。

もし不用意に近付こうものなら、罵詈雑言の嵐に踵落とし、ねちっこい精神攻撃に電撃、回し蹴りか、もしくは飛び蹴りの餌食になるのは間違いない。

ちなみに、これは余談であるが、場の空気を全く読めないと定評があるMK5は、早い段階で三人に潰され現在入院中だ。


懸念されたのは聖石矢魔生との接触だった。

バレー対決以降、これといって揉め事は起きていないが万が一という事もある。

邦枝から生徒会長である出馬に対し、しばらく石矢魔クラス周辺には近付かないようにと早々に忠告しておいた。


とりあえず、これからどうなるのか……教室内では重苦しい溜め息がそこ彼処から零れていた。　


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