リクエスト:守りますから暴れないでください。
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忍者のように陰ながら神崎を外敵から守ること、1週間が経過し、現在、因幡は朝の教室で机に伏せていた。
「来たばかりだろうが。疲れてんじゃねえよ」
姫川はシャーペンで前の席に座る因幡の背中をつついた。
因幡は「あ゛ー?」と唸り、肩越しに振り返り、その目つきを見た姫川はぎょっとする。
「目つきがかつてないほど悪いぞ」
神崎と一緒にいる時はできるだけ不良達を近寄らせないように睨みを利かせ、神崎と神崎を狙う不良が鉢合わせしたときは、背後から眼力で不良達を追い払い続けた結果だ。
眼球が疲労するのも無理はない。
「うるせぇ。目つき悪いのはもとから」
そう言って眉間をつまんで軽くマッサージしてから、夏目からもらった目薬をさした。
知らず知らずに守られている本人は、退屈しているのか、頬杖をついて宙を見つめたまま茫然としている。
「つか、あいつどんだけ敵に恨み買われてんだよ。敵も敵で卑怯な奴らばっかで悲しいぜ、オレは」
「自分のことは棚上げか」
「完治まで残すところあと1週間くらいだ。神崎にバレないように、忍のようにひっそりと守ってやるってばよ」
「意気込みはいいが、油断するなよ。おまえも、異名付きの不良なんだからな」
「オレみたいな健康体がザコにやられるわけねーだろ」
あっはっは、と笑う因幡を、神崎は自分の席から眺めていた。
「…あいつよぉ、オレの知らねえところでいらねーことしねーよな?」
ふと、傍らに立つ夏目と城山に尋ねたが、事情を知っている2人は「さぁ…;」とそっぽを向いて声を揃える。
「……………」
神崎はそんな2人を怪訝な目で見つめた。
そして、早く治そう、と新たなヨーグルッチを取り出して飲み始める。
その放課後、いつも通り神崎組と因幡は一緒に下校していた。
「…?」
因幡はいつもとは違う雰囲気に気付く。
道端や路地には何人か柄の悪そうな連中がちらほらいるのだが、こちらに気付いても襲ってくる気配は見せなかった。
不気味なほど、静かだ。
それには、神崎、城山、夏目も気付いている様子だ。
駅へと向かう橋を渡り切ろうとしたところで、先頭を歩いていた神崎は足を止め、因幡達もそれに続いて止めた。
目の前に、各々制服の違う3人の男たちが立ち塞がっているからだ。
今まで神崎を襲おうと撃退してきた不良とは身に纏っている雰囲気が違う。
因幡は睨みを利かせてみるが、怯みもしない。
(…番長クラスかな…)
「東邦神姫の神崎一だな」と青色の学ランの男。
「オレ達を忘れたとは言わせねえぞ」と茶色のブレザーで黄色のネクタイをした男。
「てめーが手負いだって聞いて、具合を見に来てやったぜ」と赤色のジャージの男。
「…………………………………………………………」
「神崎君、忘れたならそう言ってやりなよ」
頑張って自分の記憶をたどっている神崎に、察した夏目が声をかけると、しばらくして神崎は「へっ」と一笑する。
「ちゃぁんと覚えてるぜ…。信号機」
「「「信号機!!?」」」
「絶対覚えてねーぞこいつ! 適当に言いやがって!!」
「てめーと対峙した時はひとりずつだったし!!」
「確かに青・黄・赤だけどな!! オレ達!!」
ちなみに、青村、黄田、赤井とわかりやすい名前だ。
「それでおまえら何しにきたわけ」
つっこみはどうでもいいようだ。
「見てわかんねえか!? てめーにやられたオレらが手を組んで、手負いのてめーをリンチにしてやろうってんだよ!!」
「今のてめーは足もケガしてるから、お得意の踵落としもできねーだろーがな!!」
「土下座して橋から落ちたら許してやってもいいけどな!!」
「…オレ、最近ケンカできなくて溜まってんだぜ?」
顔を青ざめるどころか、口端をつり上げて不敵な笑みを浮かべる神崎に、3人は思わずたじろいでしまった。
「く、口だけってのはわかってんだぞ!!」
「そうだそうだ!! 他の奴らから聞いてんだぞ!!」
「てめー、自分がケガしてるからって、冷酷兎に守られ」
ゴガンッ!!
「「赤井――――っ!!」」
問答無用のドロップキックを食らった赤井は地面を削るように転がったあと、ピクリとも動かなくなった。
「何も言えねえように血ヘド吐かせてやろーか?」
余計なことを言うな、と間接的に凄む。
「因幡」
「怒るなよ神崎、オレは何もおまえのジャマをしようってわけじゃ…」
しかし、最初は勢いだけとして残る2人をどう処理しようか考えていた時だ。
ゴッ!!
「っ!?」
後頭部に強烈な衝撃が走った。
「因幡!!」
「な…ん…」
足下に落ちたのは、自分の血が付着した掌サイズの石だ。
不意打ちを食らってよろけた因幡はその場で片膝をつき、地面には、ぽたぽたと頭から流れ出た血が落ちた。
神崎達が石が飛んできた方向に振り返ると、後ろには数を数えるのも面倒になるほどの不良達が集まっていた。
こちらに来る際に見かけた不良も混ざっている。
右岸と左岸を封じたこの時を狙っていたのだろう。
ここを切り抜けるには、どちらかを倒して通過するか、橋から飛び降りるしかない。
「どうりで…、大人しいと思ってた…」
後頭部を押さえつけながら、因幡は青村と黄田を見上げ、睨みつける。
「はははは!! 神崎ばかりに気をとられて自分が狙われてるとは思ってなかっただろ!! 因幡桃矢!!」
「てめーも畳んじまえばダブルで美味しいってことだ!!」
ブツン…
何かが切れた音が聞こえた。
同時に、
「へ?」
黄田はすぐ目前の光景に目を疑った。
神崎が大きく飛び、
ゴシャッ!!
黄田の頭上に強力な踵落としが落とされ、黄田の顔面はコンクリートの地面にめり込んだ。
青村は目を剥いて仰天し、神崎は目の前の青村の顔面を右手でつかんでミシミシと鳴らす。
「あがが…っ」
「ウチのモンになにしてくれてんだ? ああ? リンゴみたいに潰されてぇか? それとも、桃みたいにどんぶらこしてぇかぁ!?」
神崎は大きく振りかぶり、自分より身長があまり変わらない青村の体を橋の下へと軽々とぶん投げた。
青村は「あああああ」と絶叫し、大きな水しぶきを上げる。
それを見た青村が連れてきた不良達は顔を青ざめ、ざわめいた。
「神崎…」
「あーあ、神崎君のブチ切れスイッチ押しちゃった…」
夏目は、お気の毒、と言いたげに笑った。
「最初に石投げたのは、どいつだ?」
殺気立つ神崎の問いに、恐怖のあまり不良達は自分の隣の者を指さした。
「うそつけおまえだろ!!」
「見てないなんて言えるかバカ!!」
「オレじゃねえよ!!」
「お、オレでもねーし…」
「つか、青村さんが不意打ちかけろって言ったから…」
押し付け合う不良達だったが、死神のようにゆっくりと近づいてくる神崎にはっと振り向く。
「全員、仲良くブッ飛ばしてやるから喧嘩すんじゃねーよ」
ゾッと戦慄を覚えた不良達は「逃げろ逃げろ」と声を掛け合い、その場から逃げようとしたが、一番奥にいた者達が悲鳴を上げた。
「最初に喧嘩を売ってきたのは、おまえらだぜ?」
いつの間にいたのか、不良達の逃げる先にはスタンバトンを構えた姫川が立っていた。
自分たちが追いつめられるとは思っていなかったのだろう。
まさに、前門の虎後門の狼。
「「腹くくれ」」
「「「「「ぎゃあああああああ!!!」」」」」
そこから先は地獄絵図だ。
2人の手によって、不良達は次々と橋から落とされてしまう。
不良達が減ってくるとあとは神崎一人でも十分だ。
余程溜まっていたのだろう。
不良の一人の首に腕をかけて締めあげたまま、爽快に殴りや蹴りでブッ飛ばしている。
「うらぁあああ神崎フラメンコぉぉおおお!!!」
ドカ、バキ、グシャ、と容赦が微塵もない。
「楽しそうだねー」と夏目。
「ねんざは大丈夫なのか…」と城山。
「…なんか、オレ、余計なことしてたかな…」と因幡。
「いいんじゃねえの? おまえに世話になったぶん、きっちり倍で返してるわけだし…」と姫川。
邪魔をすれば絶交する、と自分で言ったことも忘れているかのようだった。
不良達をすべて一掃した神崎は、興奮気味に息を弾ませながら「どうだぁっ」と因幡達にドヤ顔を見せる。
「おまえらに頼らなくてもオレ様は最強なんだよ―――っ!!」
「かっこよかったよ神崎君」と夏目。
「いいブッ飛ばしっぷりでした、神崎さん!!」と城山。
「かっこよかった」と因幡。
「かわいい」と姫川。
「最後どういうことだ!!!」
それは翌日、早乙女に知らされることになる。
*****
「神崎は、ねんざが悪化して2・3日休むそうだ。「次来るときは全快してくる」と伝言も預かっている」
因幡達と別れて家に到着した途端、糸が切れたかのように激痛のあまり動けなくなってしまったとか。
「な?」
あいつムリしてたんだぜ、と見破っていた姫川はケータイをいじりながら言ってのける。
「そういうところが「かわいい」っつったわけ、オレは」
「よく考えたら、最初から家で大人しくしていれば…」
卑怯な不良に絡まれなくて済んだかもしれないのに。
(((((つうか、2・3日だけでいいんだ?)))))
ほとんどのクラスメイトは、神崎の人間離れした丈夫さに再び戦慄した。
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