リクエスト:女性ですが女装しました。
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朝の石矢魔特設クラス。
「お願いします!! 因幡先輩!!」
「しつけーよっ!!」
登校してきた姫川は教室のドアを開けるなり、その光景を目にしてしまった。
窓際に立つ因幡に土下座する古市。
クラスメイトはそれを遠巻きに眺めている。
それは因幡の机に腰掛けている神崎も一緒だ。
傍らに立つ夏目と城山とともにそれを眺めている。
「朝からなんの騒ぎだ?」
「あ、姫ちゃん」
因幡の席は姫川の前なので、姫川はカバンを自分の席に置いてからその光景を眺めながら神崎達に経緯を尋ねる。
「なんかよー、古市が、因幡の妹紹介してくれってよ」
「妹? あいつに妹なんて…」
因幡には姉と弟しか兄弟がいないはずだ。
「いただろ。学園祭の時にチアガールやってくれた…」
「あー…、女装した方の…」
性別は女性なので女装というのは誤りがあるが、普段の男装をしている因幡の方が今ではすっかり馴染みとなってしまった。
自分が女であるとバレたくない因幡だったが、仕方なく女としてみんなの前に現れた時は、存在しない因幡の妹―――桃(ただし名前は本名)と名乗っている。
因幡が女性と知っているのは、石矢魔クラスの中で、神崎、姫川、城山、夏目の4人だけなので、食い下がる古市に断り続ける因幡の心情もわかる。
「古市がえらく気に入っちまったらしくてな…。連絡先を聞こうと必死なわけだ」
神崎が指さして言うと、姫川は「とっくにアドレスに入ってるのにな」と呟く。
古市のケータイのアドレスには、因幡の連絡先が入っていた。
「妹さんって、中学生なんですか? それともオレと同じ年? もしかして双子の妹!!?」
「いい加減にしろよキモ市!! 因幡桃のことに関してはノーコメントだ!! ブッ転がすぞ!!」
どんなにがなっても古市はへこたれず、「せめてなにか情報を…!」と因幡の腰にしがみつき、転がされる。
「どうしてそこまで言いたくないんですか…」
古市がうつ伏せに倒れたままそう言って、不意にはっと顔を上げる。
「そういえば、因幡先輩、妹さんと一緒にいませんでしたよね…」
「!」
同一人物なのだから肩を並べて登場できるわけがなかった。
鋭いところをつっこまれ、因幡は返しに困る。
「まさか…、仲が悪いんですか!?」
この時神崎は座っていた机から横に落ちかけ、城山に支えてもらった。
一瞬がくっと体を傾かせた因幡だったが、すぐに「ま…、まあな」と歯切れ悪く答える。
「わかります!! オレの妹も、思春期なのかオレのこと「キモい」とかよく言うし…っ!!」
「その妹じゃなくても、てめーがキモいのはわかってるって」
「家族なのに…!!」
「家族に恥じない生き方をしろよ」
同志を見つけて抱きついてこようとする古市の顔面を右手で押さえつける。
「けどマジでオニ可愛かったっスよねー、因幡先輩の妹。顔もなんとなく因幡先輩にパネェ似てましたし」
聞こえた花澤の声に再びギクッとしてしまう。
古市があまりにしつこいので背中を踏みつけて押さえつけながら「血が繋がってんだから似てるのは当然だろ」と返した。
「まぁ、似てたけど…。性格は全然違うみたいね」
大森が嫌味まじりに言ったが、因幡にとってはありがたい言葉だった。
これ以上、女装した自分と同一で見られるのはマズい。
「妹の方が丁寧だったなー」
飛鳥も加わり、因幡は苦笑しながら「うちの妹は真面目だからな」と誤魔化して話を終わりにしようとしたが、次に花澤がとんでもないことを言い出した。
「でも、中身はともかく、外見は女装させてみたらオニそっくりになるっスよ、きっと!」
「!!!」
((完全な因幡桃(本人)だろうが…))
姫川と神崎は同時に思った。
「な…、なに言ってんだコラ。…ちょっと待て、興味津々に見てんじゃねーよ」
烈怒帝留の視線が好奇心に変貌した。
因幡の頬を冷ややかな汗が伝い、このピンチをどう乗り切るか方法を考える。
言い出しっぺの花澤、飛鳥は窓際に立ち、梅宮、谷村はドアの前に立ち塞がっている。
大森だけがやる気なさそうに自分の席から頬杖をついて眺めているだけだ。
退路は断たれ、因幡は教室の真ん中に立ち、額に汗を浮かべていた。
「観念するっスよ、因幡先輩!」
「無駄にやる気だしてんじゃねえよ!!」
男子ならば迷わず蹴散らして脱走を試みるのだが、相手は女子だ。
か弱いと言える面子ではないが、攻撃しようとしているのではないためやりにくい。
烈怒帝留の目的は因幡を女装させること。
もしそうなってしまえば、自分が因幡桃という女性だとバレてしまう。
そうなれば石矢魔クラスメイトの反応はどうなるだろう。
今まで騙していたことが発覚し、軽蔑されることを恐れている。
「悪いが、女装だけはごめんだ」
「絶対カワイイっスよ!!」
「似合わないことへの不安は一切ねえよ!! 化粧道具を構えるなっ!!」
花澤の両手には化粧道具が持たれ、飛鳥はドライヤーとブラシを持っていた。
谷村を見れば、どこにあったのか女子の制服を持っている。
「オレ(男)がスカート履くことに関しての嫌悪はねーのかてめーら!! おまえらだってそんな気色悪ぃの見たくねえだろっ!!」
問いかけられた石矢魔生徒は考える。
(((((似合いそうだ…)))))
「あれ!? オレの味方ゼロ!!?」
一抹の寂しさを覚えたが、すぐに事情を知る味方達を見る。
「姫川、てめーには協調性がねーのかよ。別行動取ってんじゃねー」
「てめーらがピンチの時にいつでも背後狙えるような位置に移動してんじゃねえか」
オンラインゲームに夢中だった。
「おい!! 助けろよ!!」
因幡は駆け寄って助けを求めたが、2人がゲーム画面から顔を上げる前に、花澤が「今っスー!!」と隙を突かれて飛びかかられる。
「うわっ!! ちょっ!!」
あっという間にお縄になってしまった。
これもどこにあったのか、ロープで縛られて隣の空き教室へと連れていかれてしまう。
「助けて―――っ!!」
廊下に因幡の虚しい叫び声がこだまする。
ゲーム画面から顔を上げた神崎と姫川は目を合わせてから、因幡が引きずり出されたドアを見た。
「今度ばかりはあいつもヤバくねーか?」
「止めなくていいんですか?」
「止める理由を説明してみろよ、城山」
「女の好奇心って気が済むまで止まらないからねー」
そして数十分後、花澤達に無理やり女装させられた因幡が教室に入ってきた。
「ほらほら、みんなに見せるっスよ。パネェびっくりするっス!」
「やめろ、引っ張んなっ。これちょっとしたいじめだぞ! いいのかよ、オレが明日学校来なくなったら家まで謝りに来てくれんのか!? ちょ、やめ…、やめろって言ってんだろーがァァッ!!」
「そぉいっ」
「わっ!」
キレるも虚しく、花澤に背中を強く押され、教室の中へと足を踏み入れる。
そして全員が愕然とした。
石矢魔の女子の制服を着、オールバック髪は下ろされ、顔は…
(((((濃―――――っっっ!!!!)))))
厚化粧が施されていた。
ばさばさと音を立てそうな付けまつげ、真っ赤に塗りたくられた唇、水色のアイシャドウ、パンダを思わせるアイライン、紅潮しすぎな頬など。
同一人物のはずなのに、厚化粧のせいで別人と化している。
「ビエエエエエエエエッッ!!!」
「ぎゃああああああっ!!!」
ベル坊が電撃を放ちながら泣き出すほどだ。
うとうとしていた男鹿にとってはいい目覚ましである。
「うぶ…っ」
飛鳥にクレンジングをつけたコットンで少しだけ化粧を落とされ、先程よりマシな見栄えになってきた。
化粧よりもすっぴんの方がバレるかもしれないので、因幡は「もういいから」とストップをかける。
「まだ滲んでますよ?」
「あとで自分で全部落とす」
続けようとした飛鳥を手で制すと、花澤がじろじろと眺めてきた。
それを緊張しながら見つめ返す。
「妹さんより美人に見える気がするっス」
「化粧してるからだろ。おまえら女子って毎回こんな面倒なコト朝早くからやってるわけ?」
「当然っス」
花澤は威張るように腕を組んだ。
「大変だな、女って」
(((((つっこみたい…)))))
事情を知ってる4人組はそんな因幡を見つめながら同時に思った。
「あと、妹さんはもっとボインでした」
一度チアガールになった因幡の胸を躊躇いもなくつかんだことのある花澤が言うなり、目の前の因幡の胸に触れた。
「「「「「!!!」」」」」
因幡もそうだが、見ていた神崎達も焦った表情を見せる。
花澤も違和感を感じたのか、一時停止した。
「…っ、因幡先輩…、胸筋パネェ―――ッ!!!」
「お、おう…」
この時因幡はちょっとお馬鹿な花澤の存在に感謝した。
「おい、着替えとかどーしたんだよ」
姫川が小声で因幡の背中に問うと、因幡も声を潜めて返した。
「さすがに着替えの時は一人にさせてもらった…。下、タンクトップだし、アレ(サラシ)は見られてない」
それを聞いてこちらまでホッと胸をなで下ろす。
「こんなオニ細い体してるのにーっ」
花澤ははしゃぎながら因幡の胸を押し続けている。
「いつまで触ってんだよっ。オレより神崎達の方がすごいんだからな。男の胸筋という名の雄っぱいが!!」
それを聞いた花澤はすぐに、ぐるり、と神崎の方向に振り向く。
好奇心がこちらに向けられ、なにをされるか察した神崎は「触らせねーぞ!!」と怒鳴った。
しかし、別の方向から伸びた手が神崎の胸をつかむ。
「うだぁ!!」
「おー、ホントだ」
姫川だ。
「てめー、なにしてくれんだコラァッッ!!」
「神崎先輩!! ちょっとだけ!! ちょっとだけでいいんス!!」
さらに興味を持ち始めた花澤。
「コツは、下から揉み上げることだ!!」
「うス!!」
因幡はかざした手を握りしめて教えると、花澤は敬礼のポーズをとった。
「因幡!! パー子!!」
神崎から怒りの鉄拳を受け、2人をその場で正座させた。
「え―――と…、なんで雄っぱいの話になってんの!!?」
ツッコミを入れる古市。
かくして、因幡の秘密は守られたそうな。
「ちょっと!! 桃ちゃんは結局…」
「今度は古市に女装させてみようぜ」
「それも面白そうっスね!!」
「ちょっと―――っ!!!」
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