リクエスト:お兄ちゃんだって怒ります。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
次の日、オレと夏目は神崎と姫川に相談することにした。
2人は姫川の席で、同じ椅子で背中合わせに座りながらゲームをしている。
「イチャついてるとこ悪いけどよぉ」
「イチャついてねーけどなんだ?」
昨日、昼休みにずっと教室にいた邦枝達から聞くと、屋上を飛び出したあと城山は片側のおさげだけ外れたまま、一度教室に戻って自分のカバンをとってから「早退する」と言って急いで教室から出て行ったらしい。
下校も、今日の登校も一緒じゃなかったが、ちゃんと神崎にだけは電話で「お先に帰ります」、「オレに構わず行ってください」と連絡を入れたというじゃねえか。
「オレ、そんなの聞いてない…」と連絡をくれなかった夏目は苦笑いしながらもショックを受けていた。
今日、HRが終わったあとに、土埃でシャツを汚した城山が教室に現れた。
右側だけ、リボンで結ばれたおさげのままだ。
どんよりとした空気を身に纏い、席に座った。
授業が始まる前にオレと夏目は、廊下に出て焦りを口にする。
「あれってもしかして怒ってる?」
「いや怒ってるだろアレは…」
いつものどこかホッとするような癒しオーラはどこにもない。
髪もアンバランスで、変な迫力があった。
クラスメイトも城山の珍妙な髪型にざわついていた。
そこで勇気があることに、花澤が「髪、どうしたんスか?」と興味津々に尋ねる。
教室の半開きのドアから夏目と一緒に聞き耳を立てていると、
「リボンをなくしてな…」
「他にリボン持ってないんスか?」
「ああ…。代わりは…、ないんだ…」
切なげに宙を見つめて答える城山に、思いっきりオレの良心が痛んだ。
花澤が離れたあと、オレと夏目は城山の席に近づいた。
「城山…」
おそるおそる声をかけると、城山はこちらに顔を向けた。
「その…、昨日は…、悪かったな…」
「……いや…、こっちこそ、いきなりつかんで放り投げて悪かった。…背中は大丈夫か?」
「ああ。ケガはしてねーけど…」
思ったより落ち着いた反応に安堵して、気をまわしたのがいけなかった。
「城山、あのリボン、オレ達も一緒に捜してやるよ」
「そうそう。オレ達のせいで飛ばされたわけだし…」
「余計なことはするな!!」
「「!!」」
なにが気に障ったのか、城山は突然怒鳴った。
教室内は静かになり、クラスメイトの目がこっちに集中する。
「…あれはオレだけで探す。おまえ達が気にすることはない」
いいな、と念を押すよな目を向けられた。
オレと夏目は今、姫川の机に顔を伏せてどうすればいいのかと相談中だった。
「それで城山が、激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームだって?」
「またそんな“つぶやき”で知って覚えたような言葉…」
神崎に続き、姫川が呆れたように言った。
ゲームの画面を見つめたままだ。
人が真剣に悩み相談してるのに、こっち向けコラ。
「だからあいつ、片側しかリボンがなかったのか」
「もしかしてあのリボン、そんなに大事なもの? オレ達とつるんでる頃からつけてるし…」
夏目は初めて会った時のことを思い出しながら口にする。
「あ―――…、そういや、オレも聞いたことねーな…。…けど、オレらがつるんでる時からあるんだ。最初はつけた理由がくだらなくても、ずっとつけてたら愛着も湧くんじゃねえか?」
「そうか? 古くなったら捨てるけどな」
せっかく、ああ確かに、と納得したところなのに姫川の冷たい一言だ。
神崎は眉間に皺を寄せ、おしくらまんじゅうのように姫川の背中を自分の背中で押す。
「ボンボンの感覚ってそんなもんなんだろうなっ。人からもらったもんも粗末に扱ってポイしそうだしっ」
「押すなよっ。…まあ、オレの場合はくれた奴にもよるけどな…。神崎からプレゼントとかもらったら、長持ちさせる自信あるわ。すげぇ貴重な気がするし」
「………ば…、バカかっ。てめーにくれてやるもんなんざねーよっ」
「最近はたまにヨーグルッチくれるじゃねえか」
「オレだって、気紛れっつーもんがあんだよ…、ボケが」
「フッ…」
「笑うなよ! 今から対戦モードにしろよ姫川っ、ボッコボコにしてやるっ!」
「おーい、2人の世界から帰ってこーい」
この背中合わせのリア充共が。
バカップル夫婦のようなシーンを見せつけられたあと、姫川は助言をくれた。
「仲直りしたいなら、直接城山と協力して探す必要はねえ。城山に見つからずにリボンを見つけて返せばいい。「偶然見つけた」とか言ったら向こうだって返す言葉もねーだろ」
さすが姫川だ。
そのあとちゃんと謝れば、何事もなかったかのようにまた城山と接することができる。
「じゃあ、放課後探そうか。帰宅を装って」
「だなっ」
夏目の言葉に頷き、ちょうど次の授業の鐘もなった。
夏目は自分の席に戻り、オレもすぐ傍の自分の席に着席しようとした時だ。
「それにしても、あの城山も、それぐらいで簡単にキレたりするのか…」
気になることを言った神崎。
オレは、もし、と考える。
もし、リボンを取ったのがオレじゃなくて神崎だったら、城山は尊敬している神崎にも怒鳴りつけたりしたのだろうか。
昨日の出来事で、オレと神崎を置き換えてみたが、城山が神崎に怒鳴り散らしているシーンが思い浮かんでも違和感だらけだ。
オレだから怒ったのだろうか。
まあ確かに、オレは神崎みたいに城山をアゴで使うような立場でもないしな。
それでも腑に落ちない。
放課後、オレと夏目は校舎裏で落ち合って城山のリボン探しを始めた。
オレ達がいた屋上がある校舎の近くから探すことにする。
たぶん、城山もこの辺りを探しただろうけど。
最初は茂みを探したり、木の枝に引っかかってないか登ってみたり、グランドを使用している運動部に聞き込みしたり、燃やされたんじゃないかと思って焼却炉を調べたり。
「もしかして、学校の外に飛んで行ってない?」
「うーん…、もうちょっと探してみようぜ」
聖の校内は広いし、見落としてるところがあったら困るし。
今度はグランドを一通り探すことにした。
オレはグランドの右半分、夏目は左半分を注意深く見ながら、運動部の邪魔にならないようにグランドを半周する。
「そっちは?」
「ううん」
首を横に振る夏目に、オレは肩を落として髪を撫で付けた。
「……………」
やっぱり、校外に飛んで行ってしまったのだろうか。
そうなると、途方もない。
「はぁ…」
夕日もだんだん沈んできたし、オレンジ色の空を飛ぶカラスも「カァカァ」と鳴きながらオレ達の頭上を通過していく。
無意識にそれを目で追っていると、「ん?」と目を留めるものがあった。
グランドを囲う高いフェンス。
そのてっぺんに、それを見つけた。
「あ…、あああ、あったぁあああ!!!」
「え!?;」
オレは目を離さず、興奮して夏目の袖を引っ張りながらそれを指さし、夏目はその方向に顔を向けて目を凝らした。
フェンスの一番上の網の部分に、確かに、黄色のリボンが引っかかっている。
「ホントだ!! 城ちゃんのリボン!!」
オレと夏目はフェンスに駆け寄り、それを見上げた。
風が吹くたびにはためいている。
あれに引っかかってなかったら、校外に飛んでいたことだろう。
「因幡ちゃん!」
「オッケー。ちょっと取ってくる!」
フェンスの高さはざっと7、8mくらい。
ジャンプじゃ取るのは無理か。
オレはその金網フェンスに近づき、網目に手と足をかけてのぼり始める。
半分以上までいったところで、下がちょっとざわついてきた。
気になって見下ろすと、ソフト女子野球部の女子達が集まってこちらを心配そうに見上げている。
野次馬かと思えば、夏目になにかを伝えているのが見えた。
聞いた夏目はこちらに向かって聞こえるような声で呼びかける。
「因幡ちゃーん! このフェンス、長いこと整備されてないからサビだらけで危ないってさ!」
そう言われ、自分の手元を見てみると、金網が茶色く錆びていることに気付いた。
「一度、降りてきなよ!」
「あともうちょっとで届くからー!」
リボンはもう目の前だ。
オレは諦めず、上を目指して手と足をすすめた。
「もう…ちょっと…!」
手を伸ばし、リボンの端をつかんだ。
しかし、少し強めに引っ張っても取れない。
引っかかってるっていうか、絡みついてるって言ったほうがいいか。
「チッ…」
舌を打ったオレは右手だけで取ろうとする。
左手も使いたいが、足だけでフェンスにつかまってるほど器用でもない。
「く…っ」
イライラしながら慎重に解いていると、ギシ…ッ、と嫌な音が聞こえ、
「!! わっ!!」
右足をかけていた網目が切れ、バランスを崩して真っ逆さまに落下してしまう。
「因幡ちゃん!!」
見上げていた運動部の女子達も思わず悲鳴を上げた。
「っ!!」
地面に到達する前に、オレは逆さまの状態で反射的に左手を伸ばして金網をつかんで自身の落下を止めたが、フェンスに体の前面を、ガシャンッ、と打ち付けて痛い思いをした。
「うわ、痛そう」
見上げていた夏目が呟く。
一瞬ひやっとしたけど、オレは顔のじんわりとした痛みを覚えながら夏目のもとへと戻る。
「ついてねぇ…」
「顔、フェンスの痕ついてる」
顔を擦るオレに、夏目が「大丈夫?」とのぞきこむ。
その時、オレと夏目は左手の人差し指の腹が切れて流血していることに気付いた。
金網をつかんだ時に切ったな。
「あーあ、ケガしてるじゃん」
「それよか……」
左手を握りしめてそれを隠し、オレは持っているリボンを夏目に見せた。
「あ…」
さっきバランス崩した時、思いっきり引っ張ったせいで千切れてしまった。
見上げると、千切れたリボンの半分がフェンスのてっぺんに絡みついたままだ。
オレと夏目は、「どうしよう」と目を合わせる。
「残りの半分取ってきて、縫うのはどうだ?」
「さっきのことがあって行かせられるわけないでしょ。危ないから今度はオレが行く」
フェンスをのぼろうとする夏目だったが、オレはシャツの裾をつかんでそれを止めた。
「次は気を付けるから! 夏目も危ないって! おまえオレより重いだろ!」
金網が切れる可能性が高い。
「夏目!! 因幡!!」
背後からかけられたその声に、オレと夏目はギクッとして振り返る。
そこには、騒ぎを聞いて駆けつけてきたのか、息を切らした城山がいた。
「城や…」
はっとして慌ててリボンを背中に隠したが、城山はこれまたおっかない顔でこちらに近づいてきてオレと夏目の頭を軽く殴った。
「うっ」
「痛たっ」
コブができるほどじゃなかったが、頭を擦る。
「オレは「探すな」とあれほど…!」
「いや…、偶然リボンが引っかかってるの見つけて…」
オレは言い訳しようとしたが、すぐに「ウソをつくなっ」と叱られた。
「下駄箱から距離もあるし、帰る道と反対方向だろ」
その通りです。
返す言葉もなく、しゅん、と肩を落としていると、突然、左手首をつかまれた。
「!」
オレの人差し指の傷を確認すると、城山は黙ってもう片方のリボンを外し、オレの人差し指に巻き始めた。
「城山…!?」
血で汚れる、と思って手を引っ込めようとしたが、「動くな」と一言で制され、大人しく巻かれる。
「あとでちゃんと絆創膏貼ってやる」
「……な…、なんで…?」
大事なリボンじゃなかったのかよ。
オレの言いたいことを察したのか、きゅ、と人差し指にリボンを結んだ城山は、オレと夏目を見据えて答える。
「……神崎さんから、おまえ達のことを聞いた。オレのリボンを探してくれてると…。あそこにリボンが引っかかっているのはオレも知っていたし、このフェンスが危ないってことも聞いていた。だから、放課後、どうにかして取ろうと考えていたんだ」
「だったら、オレを頼れよ。オレならおまえより身軽だし、そもそも、リボンはオレのせいで…」
そう言いかけたところで、こつん、とコブシで額を軽く突かれた。
「頼んだら、こうやって無茶するだろう? リボンを取ろうと屋上の柵を越えた時もそうだ。ずっと使い続けていた大切なリボンだが、おまえ達になにかある方がオレにとってはすごく困る。髪を結ぶ替えはいくらでもあるが、おまえ達の替えはどこにもないんだぞ。もう少し自分を大事にしてくれ」
そう言われてオレは気付く。屋上で城山がオレに怒鳴った理由を。
『バカヤロウ!!! なんてことをするんだ!!!』
あれは、オレがリボンを取ろうとして、危険を冒したことを怒ったんだ。
オレが毎回、高いところから飛んでるの見てるくせに。
見慣れれても、心配してくれたのか。
「城山…、心配させて…悪かった…。リボンも…」
目を合わせて謝り、千切れたリボンを見せると、城山はオレの頭を撫でた。
「気にするな。リボンは諦める。…オレも妙な気を遣わせてしまったな。…夏目も、悪かった」
今日初めて見た、城山の笑み。
「城ちゃーん!!」
「城山ぁあ!!」
オレと夏目はたまらず城山に抱きついた。
城山は突然のことに「なんだ突然どうした;」と動揺したが、オレ達をはがそうとはしない。
城山越しを見ると、こちらにやってくる神崎と姫川を見つけた。
オレと目が合うと、小さく手を上げ、「問題解決したみたいだな」と神崎の口が動く。
城山の理解者である神崎が機転を利かせてくれたおかげだ。
.