リクエスト:お兄ちゃんだって怒ります。
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ぽかぽか陽気な昼休み、オレと神崎組と姫川は屋上で弁当を食べることを昼休み前に約束し、オレと夏目は互いに弁当の入った袋を持ち、雑談を交わしながら屋上へと続く階段を上がっていた。
「そういえば、神崎と姫川は?」
「購買で買ってから行くってさ」
「あいつらいいとこの坊っちゃんコンビだろうが。弁当作ってもらえねーのかよ」
ほとんど購買のパンとかだ。
「だからじゃん。神崎君とか、運動会でもないのにお重箱持たされたことあったし…」
「あ―――…、そういえばあったなぁ…」
前に見たことあったわ。
その時は冗談かと思ったし、当の本人は残さず黙々と食べてたことを思いだす。
あの、「なにも聞くな」というオーラも。
「姫ちゃんは昔、神崎君が思いっきり注意したから」
「あいつはどんな重箱持ってきたんだ?」
フランス料理が敷き詰められた重箱を想像したが、夏目は苦笑して首を横に振った。
「ううん。昼休みになると、執事とコックが来て…」
「ああ…、なるほど…、目に浮かぶ」
そう言ってる間に屋上に到着し、ドアをくぐり、先に到着しているはずの城山を探す。
「あ」
夏目は、ペントハウスに背をもたせかけて座り、眠っている城山を見つけた。
この陽気とゆっくりとした時間に負けたのだろう。
首を、かくん、かくん、と上下に揺らしている。
「城ちゃんが寝てる…」
「こんな気持ちよさそうに寝られると、起こすのが申し訳なくなるな」
それに、普段は不良かと問い詰めたくなるような真面目人間で、授業中に居眠りしているところさえ見たことがない。
ちょっと貴重だ。
「2人が来るまで寝かせてあげようか」
そう言って夏目はその場に腰をおろして胡坐をかき、オレもその隣に座って自分の隣に弁当箱を置いた。
待っている間どうしようかと考えていると、不意に暖かい風が屋上に吹き、オレ達の髪をなびかせる。
その時、ふとオレは城山の揺れるおさげに目をつけた。
「…因幡ちゃん?」
「しぃー」
オレは人差し指を自分の口元に当て、四つん這いの状態で城山にゆっくりと近づき、城山の髪に結ばれた左の黄色のリボンをつかんで引っ張ってみた。
それは、しゅる…、と簡単に解け、城山の左側のおさげがほどける。
「おー…」
予想はしていたが、元々なのか、癖がついてしまったのか、ウェーブのかかったセミロングだ。
印象は変わるが、やはりそう簡単に姫川効果は起きない。
目を開けたら大きな瞳をしているのだろうか。
「怒られるよ」
「すぐ返すって。…夏目夏目」
オレはリボンを持ったまま立ち上がり、座っている夏目の後ろに回り込んでその髪に触った。
「?」
神崎と姫川が来るか、城山が起きるまで、オレは夏目の髪で遊ぶことにした。
ちょうどヒマしてたし。
ポニーテールにしてみると、予想通りというか、似合う。
「これがリボン男子…」
「似合うー?」
次はおさげを作ってみた。
これもまたムカつくくらい似合っている。
「ていうか因幡ちゃん、おさげ作れるんだ? ぅぐっ」
いらないことを言うから髪の束を後ろに引っ張ってやった。
コキンッ、と首の骨が鳴ったが気にしない。
「なに…やってんだ…?」
その声に振り向くと、目を覚ました城山が驚いた顔でこちらを見ていた。
「あ、城ちゃん」
「!!」
城山は夏目の髪を結んだリボンを見てから、自分の左側を触ってリボンがないことに気付く。
オレは「悪ぃ、ちょっと遊んでた」と、悪戯を見つかった子どものように笑い、大人しく返そうと夏目の髪からリボンを解いたが、城山の予想以上の反応を見せた。
「オレのリボン…!!」
「うわっ!」
いきなり大きな巨体がこちらに突進し、手を伸ばしたからだ。
オレは驚いて反射的に後ろに飛びのいて避けてしまう。
「返せ因幡!!」
再びイノシシのような勢いで突進してくる城山に、オレはリボンを頭上に上げたまま屋上を囲う柵まで追いつめられる。
「わかったわかった!! 返すから落ち着け! コエーよっ!」
その時、屋上に強風が吹き抜けた。
「っ! あ!」
リボンを指先でつまんでいたのがいけなかった。
リボンは風にさらわれ、柵の向こうへと飛んで行ってしまう。
「まず…っ!!」
オレは柵に飛び乗り、ジャンプして空中でつかもうとした。
勢いは足りなかったが、ぎりぎり向かい側の校舎に飛び移れる距離だ。
だが、不意に背中の服をつかまれ、柵の内側に放られて背中を打ち付けてしまう。
「痛たっ!」
つかんで放ったのは、城山だ。
おっかない顔でオレのことを見下ろし、オレが「なにすんだ!」と睨むと、それ以上の声で怒鳴りつける。
「バカヤロウ!!! なんてことをするんだ!!!」
思わずビクッとしてしまい、あの夏目も目を大きく見開いて驚いていた。
空を飛んでいたカラスもびっくりしたあまり、落下していくのも見える。
「ま、まあまあ、城ちゃん…。オレも止めなかったのが悪いし…」
夏目はゆっくりとした足取りで城山に近づいて声をかけたが、城山はキッと夏目を睨むと、何も言わずに屋上から出て行った。
それから、ドアですれ違うように神崎と姫川が屋上に顔を出す。
「城山の奴、どうしたんだ?」
「し…、知らねーよ…」
はっとしたオレは、神崎にそう答えてから立ち上がった。
胸の中に湧き上がるのは、焦りだ。
もしかしてあのリボン、城山にとって大事なリボンなのだろうか。
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