リクエスト:持ち物検査を始めます。
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最初に男鹿の学生カバンが開けられた。
見事に、なにも入ってない。
引き出しには教科書がぎっしりと詰まっている。
「置き勉してんじゃねえ」
「ぐ」
出席簿で頭を叩かれる。
他の私物といえば、自分の弁当、ベル坊の粉ミルクや哺乳瓶、ガラガラが入った袋くらいだ。
思わず和んでしまう。
ポケットには、ケータイと、110円。
財布自体はない。
思わず同情してしまう。
「憐れむ目でオレを見んなっ!!」
次に広げられたのは、レッドテイルのカバンだ。
邦枝達の強い希望で、女教師がチェックする。
「鎖…、木刀…、エアガン…、針つきの髪飾り…」
化粧品なんてついでのように出てくる凶器に教師の顔が青くなる。
「―――というか、誰のカバンなの? こんなにアメをたくさん…」
一人でこんなに食べるのかというくらい、キャンディーばかり出てくるカバンがあった。
神崎と姫川は横にいる因幡を見るが、因幡は首を横に振る。
「あー、それウチっス」
花澤が手を挙げた。
「ゲームも没収」
「あ…」
ゲーム機とソフトを取りあげられ、寂しげな顔をする谷村。
「邦枝は真面目だな…」
「ちょっ、勝手に見ないでくださいっ!」
早乙女もカバンの中を見始め、邦枝が慌ててカバンを奪い返して女教師に手渡す。
「次ー、クソッタレ共、先生は強く言わねえけど、フツーに銃刀法違反だからな? 特にそこの緑髪兄弟」
呆気なく没収箱に入れられてしまう、チェーンソーとナイフ。
「「へーい」」
反省の色もなく手を挙げる真田兄弟。
「トラ、おまえは教科書持ってこい」
「はぁ…」
東条の学生カバンには、●ウンワークの束が入っていた。
まさにバイトの鬼。
「……………」
「なんだよ」
神崎のカバンを黙ったまま見る早乙女に、神崎は「文句あんのかよ」と睨みつける。
「予想はしてたが…」
ヨーグルッチが敷き詰められていた。
机の中からも出てくる。
本人のポケットからもどんどん出てくる。
「これが朝分、授業分、10分休み分…」
「四次元のポケット…?」
嫌々手伝う因幡も唖然としていた。
机に積み上げられるヨーグルッチの山に、誰もが言葉を失った。
早乙女もつっこむのを辞退するほどだ。
続いて手をつけたのが、姫川の学生カバンだ。
教科書、ケータイ、財布、スタンバトン。
「……あ? なんか…、銀行強盗でもしてきたんじゃないかってくらい札束がつまってるとか思ってた」
予想外の姫川の持ち物に逆に驚いてしまう。
「最近のオレはケータイとカード払いだ」
カードはブラックカード。
「無闇に金を見せびらかすこと、しなくなったもんな」
因幡が薄笑みを浮かべながら言うと、姫川は「どーゆー意味だよ」と軽く睨みつけた。
「おまえらなぁ、そこの2人を見習え!」
邦枝と城山は、ちゃんと通常の学生らしい持ち物だ。
没収するものがひとつもない。
「あーあ、ゲームとられちゃった…」
夏目もセーフかと思いきや、誤ってゲームを持ってきていた。
「おまえは持ってきすぎ…。肩凝らねえのか」
「問題はないはずだ」
陣野は授業以外の参考書などを持ってきていた。
東条がバイトの鬼なら、こちらは勉強の鬼だ。
「東条さんもおまえも、真面目すぎ」
相沢は呆れていた。
「あとはそこの2人か」
早乙女は、まだ調べていない因幡と古市を見る。
指摘された2人はあからさまにやましいことがあるように、ギクッと肩を震わせた。
目を合わせようともしない。
「わかりやすい反応だな。まずは因幡だ。全部出してみろ」
「……全部かよ…」
因幡が女だと知っている早乙女は、躊躇っている因幡を見てはっとした顔をする。
「………まさか、女の用品が…」
バンッ!!
因幡は容赦なく学生カバンでその横っ面を殴りつけた。
「女の用品?」と尋ねる神崎。
「聞かない方がいいよ」と笑顔で答える夏目。
因幡の学生カバンが開けられる。
中から出て来たのは、教科書、数十本のキャンディー…。
「おまえもアメばっかだな」
「好物なんだよ」
「ウチら、キャンディーズっス!」
花澤と因幡は手を打ちあう。
因幡はその場のノリといった感じだ。
「キャンディーズ…」
今の世代は知らないんじゃないか、と言いたげな微妙な顔だ。
「んで…、スタンガンに…」
「あ、それこの間壊したから捨てといて」
「自分で分別しろっ!! …で、なんか硬いと思ったら、カバンの中に鉄板仕込んでんのか?」
「一度カバンの表面を切って仕込んだ」
「カバン自体が鈍器だな…」
迷った挙句、一応没収箱に因幡の学生カバンを入れる。
「―――で、最後のヤツなんだが…」
視線が一斉に古市に集まる。
「……やっぱり一人一人別々の教室でやりません?」
「あとはてめーだけなんだ。観念して全員の前で中身出してみろ」
早乙女が催促すると、古市は「…わかりました」と諦めたように自分のカバンを取ろうとした。
だが、机の横にかけたはずの自分の学生カバンがない。
「…あれ? オレのカバン…」
落としたのではないかと机の下も見たが、やはりない。
「おい、隠してんじゃねえぞ」
男鹿が言うと、古市は「隠してねえよ!」と苛立ち混じりに言い返す。
「あ」
そこで邦枝が古市のカバンを見つけた。
なぜか、教卓の上にあった。
異様に丸く膨れている。
そして、カバンの底からは、2本の黒い足が生えていた。
注目している全員が我が目を疑った。
古市のカバンは視線に気付いたのか、急に教卓から飛び下り、教室から出て廊下を駆ける。
「今の…なに?」と大森。
「古市…、おまえカバンなんて飼ってたのか?」と男鹿。
「ごく一般的なカバンだっ!! 待てえええええっっ!! オレのカバン―――ッ!!!」と教室を飛び出す古市。
ただの持ち物検査が、持ち物追跡になった。
石矢魔の生徒が追っているのは古市のカバン。
「そっちに行ったぞ!!」
「うおっ! 速ぇっ!!」
「なんだあのカバン!!」
他の校舎の廊下を走る。
聖の生徒も何事かと、廊下側の窓から顔を出した。
カバンがひとりでに走っているので、当然ながら一目見た生徒は目を丸くしている。
「ったく、なんで古市のカバンを私達が…」と大森。
「なに入れて来たんだよっ」と飛鳥。
「それは…」
古市は恥ずかしそうにもじもじとする。
「もじもじすんな!!」
苛立った大森が怒鳴る。
「グッナーイ」
カバンが走っていく方向から下川が現れた。
「カモーン」と両腕を広げてカバンを捕まえようとする。
ドフッ!!
「っ!!!」
突進するカバンは避けることも引き返すこともせず、下川に強烈なボディーブローを食らわせた。
後ろにブッ飛ばされた下川は、その先に現れたMK5にぶつかり、6人はボーリングのピンのように吹き飛んだ。カ
バンはその屍を踏みつけて逃げ続ける。
「パネェ強いっスよ、古市カバン!!」と花澤。
「私に任せ……」
手持ち武器の鎖を取り出そうとした大森だったが、いつも入ってる懐に鎖はない。
「あ、しまった…。先公共に没収されたんだったわ…!」
先程の持ち物検査を思い出して顔をしかめる。
他の石矢魔生徒も捕まえようとするが、謎の古市カバンに返り討ちにあってしまう。
カバンが通った跡にはやられた石矢魔生徒が転がっている。
今、1階の廊下を爆走していた。
「わかりやすい目印だな…」
古市とレッドテイルとともに追っていた姫川は、足下に転がっている石矢魔生徒達を見下ろしながら呟く。
「しかもめっちゃ速い…っ!!」
古市も両腕を交互に振って懸命に追っている。
「このままだと外に…! それはマズい…っ!!」
なにがマズいのか、ひとり焦る古市を怪訝に思いながらも、姫川は「それなら心配ねえ」と声をかけた。
昇降口に向かって一直線のカバン。
そこに、通過しようとした男子トイレから、金属バットを持った神崎が現れ、バッターのように構える。
「オラァッ!!」
カバンがこちらに来たのを見計らい、バットを振ってカバンに当てた。
飛ばされたカバンは廊下側の開け放たれた窓から中庭へと飛び出る。
「行ったぞ因幡!!」
神崎が窓から声をかけると、中庭でスタンバイしていた因幡はこちらにくるカバンを目で追い、右脚を浮かせた。
「オーライオーライ!!」
そのまま右脚に勢いをつけ、カバンを真上に蹴りあげる。
「男鹿ァッ!!」
因幡が真上に声をかけると、屋上の柵に立つ男鹿はコブシを構えた。
カバンが反撃しようと男鹿目掛け襲いかかってくる。
「ゼブル…ブラストォッ!!!」
バチィッ!!
空中に小規模の稲光が光り、カバンに電撃が直撃した。
「オレのカバン!!!」
中庭から見上げる古市が叫んだとき、カバンが空中で飛散し、その中から、元気なブラックベル坊が呪いの雄たけびとともに飛びだした。
「…ん?」
思わず片足をつかんでキャッチする男鹿。
「あ?」
3階から見守っていた早乙女も首を傾げた。
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