リクエスト:母をたずねて。
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「…あら?」
気がついたコハルは薄暗い部屋のベッドに寝かされ、右手首には点滴が打たれていた。
部屋を見て、ここが病院の個人病室であることに気付く。
倒れたあと、姫川が救急車を呼んで運ばれてきたのだ。
「神崎君? 姫川君?」
呼んでみるが、近くにいないのか2人の返事がない。
その時、そっとベッド脇に近づく人影があった。
「ひぃっ」
悪魔…いや、娘が立っていた。
腕を組んだまま、影のある笑顔で見下ろしている。
「桃ちゃん…」
コハルの顔に大量の冷や汗が浮かぶ。
「出血多量でブッ倒れたって聞いてとんできたんだー。母さん大丈夫ー?(棒読み)」
「…ええ。ちょっと…、目眩があるk」
「よかったー(棒読み)」
「ご…、御心配をおかけs」
「ああ。シメ切が間に合わないんじゃないかと心配だった」
先程の笑顔はどこに行ったのか、因幡の目付きが鋭くなった。
コハルはベッドのシーツを頭まで被ろうとしたが、因幡はシーツをつかんでそのまま後ろに投げ捨てた。
「寝てもらっちゃあ困るんだよ。これから徹夜してもらう。アシさん達はもうスタンバッてるぜ」
くい、と親指を後ろに向けた先には、アシスタントの方々が作業用の道具を手に構えていた。
さっとコハルの顔が蒼白になる。
「…じゅ…、準備いいわね」
「当然だ。先回りしてたからな。もう気が済んだろ。娘のダチ、ネタ集めに使ったんだ。その頭ん中のネタ、フルに使ってシメ切に間に合わせろ! できなかったら、もう2度とあの2人を家に呼ばないし、ネタも持ってきてやんないから!」
「…はい」
「終わったら2人に全力で謝れっ!」
「うぅっ、はい…」
どちらが親なのか。
手だけ動かせるようにコハルをベッドに縛り付けた因幡は「あとよろしくお願いします」とアシスタント達に任せ、病室を出た。
ロビーでは、神崎と姫川が座って待っていた。
「気の毒なことをしたな…」と姫川。
「なにもムリヤリ描かせることねーんじゃねーか?」と神崎。
「いやぁ、普段はあんなに怒らねぇんだけどさ…。母さんも仕事で大変だし、自由時間与えても悪くないなって思ってたけど…。さすがに今回は携帯とサイフ取られるし? 追ってるの気付いてるくせに逃げるし? 資料用の服ならまだしも人の服も勝手に持ち出すし? 挙句に一番お気に入りの服をびしょ濡れにされたら? ……オカンだろうが限度があるだろ」
最後の部分に引っかかりを感じた神崎は、服をびしょ濡れにした犯人の名前を口にしようとしたが、姫川は右手でその口を覆って阻止する。
翌日、シメ切も間に合い、病院に来てくれた編集者に原稿を渡すことができた。
掲載された時はかなりの好評とファンを得たとか。
ちなみに、これは後日談なのだが、姫川と神崎が町を歩いているだけで、
「ねぇ、あの2人、似てない?」
「似てる似てる!」
一部の通行人の女子が立ち止まってはなにやらヒソヒソと話す。
「? オレ達って似てるのか?」
「かなり対照的なのにな」
コハルは2人が自分の作品を見ないのをいいことに、プライバシーを無視して2人の外見、設定、性格、さらには近い名前などを使用してストーリーを描いていた。
ちなみに因幡は、いつか訴えられるぞ、と思いつつ黙認している。
そんなこととはつゆ知らず、神崎と姫川の足は、因幡家へと進めていた。
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