不安を胸に抱いてます。
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因幡はサラシを巻いていない胸を隠すように、カバンを胸に抱いたまま、澄み渡る青空を見上げていた。
視界の空にスズメがよぎる。
(今日の占い見てないけど、ワーストだったのか?)
目の前には、行く手を阻む他校の不良達が固まっていた。
大人数で得物を手に持っている。
嫌がらせも含まれているのだろうが、『冷酷兎』で知られる因幡の首をとろうとしている連中なのは理解できた。
顔は忘れたが、返り討ちにあった不良達も少なくない。
いつ仕掛けてもおかしくはない雰囲気だ。
「おまえら学校サボってんじゃねえよ」
「説教すんな! てめーもサボりだろーが!」
「てめーらと違ってオレはマジで体調というか、身体の調子が悪いから早退してるんデスー」
棒読み気味で言い返す。
「そいつはオレ達にとっちゃ好都合ってもんだ」
「だろーな」
余計な事言ったか、と内心で舌を打った。
「今日こそはてめーの首とってやる!」
「「今日こそは」って、初対面じゃないっけ?」
「昨日あんだけボッコボコにしといて!!」
「覚えてほしけりゃ瞬殺されてんじゃねーよ」
逆切れした挙句泣かれてしまい、面倒臭そうな顔をする。
「クソ!! やれ!! やっちまえ!!」
袖で涙を拭きながら、一番先頭にいる不良が声を荒げると、一斉に得物を振りかぶって踊りかかってきた。
「! おい、待て!」
カバンを胸に押し付けて性別を隠しているので、いつもより戦いにくい。
因幡の制止も耳に届かず、不良達が迫ってきた。
因幡は金属バットや角材を避け続ける。
「歩行者の迷惑になるからっ、ひとりずつ…、うわっと! ひとりずつ来いよっ!」
すばしっこい動きに、不良達は早くも疲れた表情を浮かべた。
「こいつ、この人数にちょこまかと…!」
「こっちは15人もいんだぞ! 何やって…」
ドカッ!!
言いかけている途中で、因幡は横に並んでいる不良2人の顔面を踏みつけて台代わりにし、住宅の塀の上へ飛び移った。
数人が倒れた2人を見下ろし、残りの数人が因幡を見上げる。
「13人になったな。じゃ。今日はお休みさせてもらうんで」
手を上げ、住宅の屋根を飛び移りながら逃走を試みた。
「待ちやがれー!!」
「逃げんなーっ!!」
「こっちは待ち伏せまでしてたんだぞー!!」
(知るか)
相手の勝手だ。
押し付けられても迷惑なだけである。
後ろからバタバタと騒々しい足音が聞こえるが、だんだん遠ざかっていくのを耳で聞き取った。
「ったくスゲーやりにくい。平らに潰れてくれねーかな。取り外し可能でもいい」
出来ればホラーだ。
ありえないことを呟き、人が簡単に通れない場所から場所へと飛び移りながら駅を目指す。
*****
「帰った!?」
サラシを握りしめたまま、日向は石矢魔クラスを訪れていた。
早乙女はキョトンとした顔をしている。
「会わなかったのか?」
「通学路は通ってきたつもりなんですが…。気紛れな娘なので途中で道変更した可能性も…」
珍しいことではない。
(ノーブラで外出歩くなんて…。胸元にヤロウ共の視線が集中するかと思うと…)
親バカとして気が気でない。
想像するだけで殺気が発せられた。
クラスのほとんどが殺気を感じ取り、ビクッと震える。
「あれ?」
首を傾げたのは姫川だ。
「どーした?」
姫川の反応に神崎が尋ねると、振り返ってスマホの画面を見せつけた。
画面には地図と、誰かの現在地が示されてある。
「一応気にしてどこにいるのか見たんだけどよ、あいつ、駅とは全然違う方向に走ってるぜ」
何かから逃げているように、GPSが知らせる因幡はあちこちに移動していた。
「なにか…」
「あったのかもしれん」
それを見た夏目と城山も顔を見合わせて嫌な予感を覚えた。
「なに!?」
もちろん黙ってる日向ではない。
「どのへんだ!?」
「一応駅より少し遠いあたり。つか、顔近い」
スマホを覗き込もうとする日向に思わず仰け反る姫川。
「待ってろーっ」
場所も把握しきれていないクセに日向は廊下を飛び出し、因幡を探しに行ってしまう。
目を合わせた神崎と姫川も席を立つ。
「オレも具合悪いんで早退しまーす」
「オレもー」
「オレもー♪」
夏目もついてくる。
「おまえらオレの授業から逃げれると思ってんじゃ…」
「しろかべ、あとは任せた」
「わかりました、神崎さん!」
神崎達が教室を出たあと、すぐさま城山がドアの前に立って壁となり、早乙女の行く手を阻んだ。
「おい!! 留年しても知らねえぞクソッタレ!!」
早乙女の忠告を背中で聞き流しながら、神崎達は日向を追いかけた。
「しろかべ、ってなんだそれ。せめて漢字にして『城壁』だろ。妖怪か」
「オレのネーミングセンスにケチつけんなっ」
「あ、おとーさーん、オレ達もいきまーすっ」
「誰が「おとーさん」だっ!!」
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