ラビット西遊記
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その祭りのような騒ぎは、天界まで轟いた。
朝陽が昇る頃にはすべてが終わり、そこに残ったのは崩れた廃寺、縛り上げられて積み上げられた帝毛盗賊団だけだ。
金角、銀角、玉兎は、太白星君こと夏目、李靖将軍こと城山、そして太陰星君ことコハルの前で地べたに座らされて説法を受けていた。
神崎と姫川は胡坐をかいて座っているが、満足するまでひと暴れして元の姿に戻った因幡は行儀よく正座だ。
コハルを目の前にして大量の冷や汗を浮かべていた。
「天界の者が、廃れているとはいえ寺を壊すなんて何事?」
コハルは微笑んでいるが、その笑みが恐ろしい。
目を逸らす因幡はたどたどしく言う。
「あ…、悪党のアジトにされるなら…、いっそ…壊してやった方がいいと思って…」
(嘘だな)
(まったく考えてなかったはずだ)
神崎に続き、姫川も口にせず思う。
「神崎君も姫ちゃんもやってくれたよね…。始末書書かされるのオレ達なんだよ?」
「いくらなんでも無茶しすぎです」
積み上げられた盗賊たちを見上げ、夏目は嘆息をついた。
「村人は助けたんだ。それくらいいいだろが。こっちは体張ってんだ」
「まさか、臼探しで人助けするなんてな…」
廃寺の出入口を見ると、村長と感動の再会を果たしている二葉の姿があった。
「二葉ちゃ―――んっっ!!」
「じじい―――っ!!」
ドゴッ!!
「おうふっ!!」
容赦ないドロップキックをお見舞いしているが、あれも愛情の裏返しなのだ。
それもわかっているうえで村長も「二葉ちゃーんっ」とめげずに抱きつこうとし、何度も愛情を受けとめている。
(長生きするぞ、村長)
それだけ丈夫ならば、と姫川は思う。
「…確かに、人の命を救ったからこれ以上咎めないけど…、ほどほどにね。心配かけさせないで。急に休暇届出すから何事かと思ったら…」
「面目ありません」
また説法が長引きそうなので因幡は首を垂れる。
「なぁ、因幡。本当に不老不死の薬なんて作れるのか?」
すぐ横にいる神崎に問われ、答えた。
「…作れないことはねぇが、下界じゃ十分な材料が手に入らない」
だがそれを言えば、人質の命はなかっただろう。
「じゃあおまえ何作ってたんだ」
「何って…」
視線を臼に移す。
そこには、ペースト状にした薬が出来上がっていた。
それを指ですくいとり、神崎の額の傷口に塗り付ける。
「痛…っ。…? 痛くねぇ…」
「ただの傷薬だ。下界のよりは効く。姫川も塗ってやるからこっちこい」
「自分で塗るって。小っ恥ずかしい」
「ああ、じゃあ神崎に塗ってもらえ。な?」
「なんでそうなる!!?」
はい、と薬を渡す因幡に戸惑う神崎。
「本当はハゲ共に仕返しするために、剃っても剃ってもすぐに生えて伸び続ける超強力な育毛剤を作ってやろうかと思ったが、おまえら、ケガしてねえかと思って…。おまえらだったら、薬が出来上がる前に助けに来そうだったからよ」
ニッ、と照れ臭そうに笑う因幡に、神崎と姫川は顔を見合わせ、小さく笑った。
神崎は因幡の頭を乱暴に撫でる。
「ったくおめーは、そう言えばオレ達が甘やかすと思いやがって」
「いたたっ。ガシガシなでるなぁっ。子ども扱いすんなぁっ」
すると、神崎は急に因幡の耳元で囁いた。
「つか、おまえ、臼探してやったんだから2度とあのことで脅してくんじゃねーぞ」
「わかったわかった。オレだって感謝してんだ」
因幡も声を潜めて返す。
内緒のやりとりに姫川の顔がまた不機嫌になった。
「神崎君と姫川君も相変わらずね」
下界で神崎達と会うのは初めてのコハル。
2人が天界にいた頃は、因幡を通してよく会っていたことを思い出す。
「姫川君も、最近風邪とか熱とか大丈夫?」
「風邪? オレ、ガキの頃高熱出して以来、引いてないけど」
「風邪」という単語に神崎と因幡が反応した。
「あぁ、やっぱり。玉兎ちゃんの薬ってよく効くわぁ。免疫もつくし。そういえば神崎君と玉兎ちゃんが初めて会った時…」
「あの、そろそろいいですか太陰星くモガ」
「続けてください」
因幡が止めようとしたので、姫川が背後から首に腕をかけて口を塞いで黙らせる。
*****
それは大昔、まだ因幡達の姿が幼児だった頃。
月宮殿の門を激しく叩く音が聞こえ、何事かと開けたのは修行中の身だった因幡だ。
「だーれ?」
そこに立っていたのは、涙で顔を濡らした神崎だった。
「ここにくれば、治してくれるって…っ。ひっく…。兄ちゃんを助けてくれよ…っ」
また泣き出したので、因幡はその頭を撫でる。
「治してあげるから、泣かないで。いーこ、いーこ」
それから臼と杵と薬箱を持ち出し、金角と銀角の家へと向かった。
そこにいたのは、ベッドで横になり、高熱に苦しんでいる姫川だった。
神崎は「いしゃ、つれてきたっ」と姫川に駆け寄り、タオルで汗を拭いてあげる。
「兄ちゃんっ、しっかり。死ぬんじゃねーぞっ」
「珍しい…。天界病の一種かな…」
天界で風邪を引いたり、病気に侵されるのはごく稀なのだ。
なので天界には医者も少なく、神崎達の家からだと月宮殿のほうが近い。
兄弟2人で暮らしているので、神崎は姫川を置いてあまり遠くまで足を運べなかったのだ。
因幡は姫川の具合を診てから、薬を作り始め、1時間もしないうちに完成させた。
「できた」
解熱剤は出来上がった。
神崎は早速姫川に飲ませようとするが手首をつかんで止める。
「口移しでのませて」
「え!?」
「舌によくなじませるの。…って本で読んだ」
「それで兄ちゃん治るのか?」
「うん」
こくん、と頷く。
受け取った神崎は、意を決して苦い薬を口に含ませ、姫川の口に…。
*****
「そこまでえええええっっ!!!」
姫川を振り切って神崎が遮った。
「いいところなのに…。あ、思い出したらヨダレが…」
「それは血だ…」
思い出し吐血をしているコハルにつっこむ因幡。
「ファーストキスの上にベロチューって…」
苦笑して呟く夏目の隣では、城山が石のように硬直していた。
「ベロチュー言うなぁ!! 治療だぁ!!」
「いやオレも悪かったよ…。普通に飲ませるだけでよかったんだけど…、太陰星君が余計な書き足ししたから」
「確かに読み間違えたこいつも悪い。だが、アンタも何してんだ!!!」
「願望よ。ちょっと願望を付け足しちゃっただけなの」
言い訳にならず、反省の色はまったくない。
むしろ親指を立てて「グッジョブ」している。
そして先程から無言の姫川。
地面にうずくまって羞恥に耐えていた。
リーゼントも真っ赤に見える。
「そう言えば…、昔、「にいちゃん」呼びだったな…」
「そっちかよ!!!」
その後、二葉達、怒武川村に感謝の言葉をかけられながら別れを告げ、玉兎、金角、銀角、ヤスは、天界にいた頃の懐かしい昔ばなしで花を咲かせながら平頂山蓮花洞に帰っていったそうな。
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