ラビット西遊記
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ぽく、ぽく、と足音を立て、ヤスの背中に乗った姫川と神崎は因幡達の姿を探した。
人影のひとつも見当たらず、苛立ちが募るばかりだ。
これ以上時間を食うわけにはいかない。明け方も近くなってきた。
今頃、因幡達は何をされているのか。
「道が間違ってましたとかだとシャレになんねーぞ」
「ニセアジトの洞穴が繋がってるとしたら、こっち側で間違いねーんだ」
反対方向という可能性は低い。
あとはそれらしい場所を探せばいいだけのこと。
「あいつら、よくオレ達が来るのわかってたよな…。見計らったように…」
「ああ…。たとえ道案内したガキがオレ達を裏切っても、因幡達のあとをついていってる時、辺りに気配はなかった。だったら…、どこでオレ達を窺っていたか…。…っと、どうした?」
突然、ヤスが立ち止まった。
頭を下げたので草でも食べるのか思ったが、違うようだ。
足下に落ちていた何かを拾った。
それを拾うと、チリン…、と音がした。
「「!!」」
因幡の耳飾りだ。
鈴つきなので揺らすと音が鳴る。
手を伸ばして受け取る姫川。
「それ、因幡の…」
「どうやら、読みは間違ってなかったようだな…」
「…なぁ」
肩を叩いた神崎は、指をさす。
この先にある山の一角に、古びた廃寺を見つけたようだ。
あの高さなら、村も見下ろせるだろう。
姫川は口端をつり上げる。
「可能性はあるな」
耳飾りを持ったままたずなを握り、ヤスを進ませた。
ヤスは「行きやしょうっ」と張り切るように歩き出す。
問題はどうやって因幡達を救出するかだ。
二葉もいないので、同じ作戦は使えない。
警戒されずに侵入するにはどうすれば。
「…!」
ふと気配を感じ、ヤスを木陰に移動させる。
「なんだ?」
「しっ…」
神崎の口を手で塞いで黙らせた。
それから間もなく、茂みから帝毛盗賊団の盗賊2人が現れた。
メモを片手に何かを探している様子だ。
「あ―――、まだ暗ぇってのに面倒なこと押し付けられちまったぜ」
「文句言うなって。不老不死のためだ。言われた通りの植物とか集めればいいだけだろ。お、この草とかそーじゃねーか?」
「バカ。よく見ろ。色が違うだろ。オレはコウモリを探してくるぜ。トカゲのしっぽはさっき手に入ったし…。このままオレが全部集めちまうかもなっ」
「あ、最初にトカゲ見つけたのはオレだろーがっ」
「けどそのトカゲを捕まえたのは…―――」
その様子をこっそりと窺う神崎と姫川。
「「……………」」
2人は目を合わせ、同じことを考えたのか、ニヤリ…、と悪巧みの笑みを浮かべた。
*****
因幡は集められた植物や生き物の一部などを、臼と、適当に渡されたすり棒でペースト状にしていた。
臼がデカいのでやりにくい。
「さっさと作れよ」
「うっせーな! こんなぼうっきれで早く出来ると思うな!」
偉そうに待っているだけの盗賊たちに横から口を出されたくはない。
恨み言を内心でブツブツと呟きながら仙薬を作っていく。
(こいつら檻から出たら覚えてろマジで。すり潰して川に捨てて魚のエサにしてやる。そのままクソとなって流れてさらに微生物のエサになっちまえばいいんだ。はぁ。むかつく。やりにくい。腹減った)
殺気が駄々漏れなのか、檻の近くにいる盗賊たちが少し離れた。
「ほら、コウモリの唾液とトカゲの尻尾だ」
それでも追加される材料。
因幡は露骨に舌を打った。
二葉は先程から人質のままだ。
「おなかすいた…」と呑気に言うくらいには状況に慣れてきたらしい。
ある意味たくましいと思う。
「た、大変だぞオイ!!」
しばらくして、盗賊のひとりが血相を変えて大広間に駆け込んできた。
何事かとその場にいる者達がざわめく。
「む、村人が全員逃げやがった…!!」
「ああ!?」
「バカな。他の連中はどうしたんだよ!?」
「それが…っっ」
村人の近くにいた盗賊たちは、全員、ロープでぐるぐる巻きにされて気絶していたそうな。
中には、黒焦げになった者や、脳天にコブを作った者など。
それを聞き、はっとして手を止める因幡。
「侵入者だと…!?」
「相手は!?」
「わかんねーよ!! 誰も見かけてねえって…」
ゴッ!!
鈍い音とともに、二葉を抱えていた盗賊が倒れた。
全員の視線がそちらに集中する。
「てめーらの目は節穴かよ」
「味方の顔くらい覚えろって」
「神崎…!! 姫川…!!」
神崎と姫川は、道中で遭遇した盗賊たちを襲い、身ぐるみを剥がして変装したのだった。
侵入は成功。
門から堂々と入り、村人を救出してから大広間へと現れたのだった。
2人が本当に生きていたことよりも、因幡は2人の頭部を凝視している。
「ハゲた!!!??」
髪の毛がなく、ツルツルの頭になっていた。
いくら自分のためとはいえ、ここまでするか、と泣きそうになる。
けれども心配はご無用。
「「ヅラだ」」
かぽ、とヅラを外す神崎と姫川。
「よくおさまったな、姫川」
外され、無理やり押し込んだリーゼントが、びよんっ、とびっくり箱のように飛び出した。
「金角と銀角!!?」
「バカな…!! あの時確かに…!!」
「化物どもが…!!」
「出あえ出あえ―――っっ!!!」
今までどこに隠れていたのかと疑うほどの大人数が大広間に集まってくる。
完全に囲まれ、背中合わせになる2人。
それでも口元の笑みは消えなかった。
「ザコが。何匹集まろうがウォームアップにもなりやしねぇ」
「オレ達は今最高に機嫌が悪いんだ。…そうだろ? 因幡」
「ああ。下界におりてきてこんなにむかっ腹立ったのは久しぶりだ」
檻の中だというのに、因幡は薄笑みを浮かべている。
「黙れ!!」
「いくら大妖怪のてめーらだろうが、この人数相手に…っ」
言いかけている途中で、神崎は持っていた杵を因幡目掛け投げつけた。
因幡は柵の間から手を伸ばし、見事キャッチする。
ドガァッッ!!!
そして、妖力を吸い取るはずの檻が粉々に破壊された。
帝毛盗賊団全員がその光景に目を剥く。
檻から出てきた因幡は埃を払い、一度目を閉じた。
すると、因幡の体から目に見えるほどの妖気が漂い、髪が真っ白に染まり、ウサギの耳が生える。
「おまえら全員、月に代わってお仕置きだ!!」
再び開かれたその瞳は、赤色に染まっていた。
(言うと思った)と姫川。
(言うと思った)と神崎。
(カッッケェーッッ!!)と二葉。
「……………ッ」
決め台詞に羞恥を覚えた因幡は、こほん、とわざとらしい咳払いする。
「ブッ転がしてやるよ!!!」
(ああ、このセリフが落ち着く)
心の中でホッとした因幡は杵を構え、天井近くまで大きくジャンプした。
下には武器を手にした帝毛盗賊団が待ち受ける。
「迎えうてぇ!!」
「武器はただの杵だ!!」
「餅つきは他を当たりなっ!!」
それを聞いて、カチン、と神経を逆なでされた因幡は、宙で杵を一振りした。
すると、杵は鬼の金棒のように尖り、凶器と化す。
「「「「「ちょっと待ってええええええっっ!!!」」」」」
ドガンッッ!!!
杵が振り下ろされると同時に、廃寺は跡形もなく崩れ落ちた。
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