ラビット西遊記
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日も沈み、二葉に案内されるまま因幡は足下の悪い道を進んだ。
途中で何度もため息をつく。
不本意な格好をさせられているからだ。
鈴付きの耳飾りはそのままだが、頭巾を外し、女性用のチャイナ服を着、化粧も施された因幡。
どこから見ても、大人しそうで美しい、村の娘だ。
一緒に歩く二葉も、時折じっと見つめている。
居た堪れない視線だ。
「……女だったのか」
「……まぁ…」
茂みに身を隠しながらついていくのは神崎と姫川だ。
「変わるもんだな…」
「ああ。解せねぇが」
失礼な発言だ。
ともかく、女の姿をした因幡を見れば、盗賊団の一員も油断するだろうと考えたのだ。
因幡が中を確認し、捕まるなり色仕掛けをするなりして人質を救出してから神崎と姫川もアジトに殴りこむという作戦だ。
因幡にとっては大変不本意な作戦である。
案内されたのは、村から数キロ離れた先にある、渓谷の間にあるほら穴だ。傍には小川が流れていた。
見張りがいるかと辺りを警戒するが、それらしい人影は見当たらない。
「見張りはいねぇみたいだな」
ひょこ、と岩場の陰から顔をのぞかせた神崎はキョロキョロと見回す。
その後ろから姫川の伸びた手が襟首をつかんで引き戻した。
「あんまりキョロキョロすんな。この暗がりだ。あまり遠くはこっちからも見えねえんだからな」
「へいへい…」
適当な返事を返した神崎は、因幡と二葉が洞穴に入ったのを見届け、手に持っている因幡の杵を見下ろす。
女の格好をしたのはいいが、太い竪杵は目立ち、相手も警戒しかねなのでやむを得なく神崎が預かることにしたのだ。
因幡の武器なのに、自分が持ってていいのかと躊躇いが生まれる。
その心情を察したのか、姫川は神崎の肩を叩いた。
「心配すんな。あいつの武器はソレだけじゃねーのは知ってんだろ?」
「………そうだな」
天界の頃からの付き合いだ。
その実力は、風の噂よりもあると知っている。
「…ところで、因幡とてめーの秘密って何?」
大きく動揺して体を震わせた。
横目で姫川がじっとこちらを見ている。
合わせないように逸らし、「さ、さぁ…」ととぼけた。
ヘタクソな口笛も吹く。
「…………兄弟同士、隠し事はなしにしよーぜ」
「昔のことだし気にするこっちゃねーよ」
「その昔のこと気にしてここまで来たんだろうが。何の弱み握られてんだ?」
「だから、おまえの気にすることじゃねぇって」
「気になんだよっ」
「顔近ぇよバカ!」
声を潜めながら揉めていた時だ。
ズンッ、と地面が揺れた。
「な…」
「なんだ…?」
地震かと思いきや、次の瞬間、崖の上から2人に向かっていくつもの落石が落ちてきた。
「「!!!」」
その頃、因幡は二葉とともに洞穴の奥へと向かっていた。
辺りが揺れ、一度立ち止まって振り返る。
「地震…?」
「もうすぐでつくぞ」
二葉は急かすように因幡の手を引いて先へ先へと進んだ。
「あ…」
因幡も歩調を合わせてついていく。
そして、ようやく猫の額ほどの空間にたどり着いた。
だが、周りには何もない。
さらに奥に続く穴があるだけだ。
「随分長いな…。親たちはどこに…。……」
そこで異変に気が付く。
手をぎゅっと握りしめた二葉の小さな手が震えているからだ。
うつむき、見上げようとしない。
「…二葉ちゃん…?」
「あ……」
二葉がうつむいたまま口を開いた瞬間、
「!!?」
真上から、鉄の檻が降ってきた。
「な…!?」
因幡は咄嗟に二葉を突き飛ばし、自分だけが囚われの身となってしまう。
「これは…!!」
柵に触れると、妖力を吸収する素材でできているのか力が抜ける。
「っ……」
「はっはっは…。いやぁ、ここまでご苦労だったな…」
奥から現れたのは、数十人の妖怪だ。
全員、頭が坊主である。
「帝毛盗賊団…」
「そうだ。オレ達が…」
「「「「「帝毛盗賊団!!」」」」」
「……………」
みなバラバラだが、腹が立つキメポーズをされてしまう。
冷めた目で見つめる因幡。
「反応が薄いな」
「チッ。それほど決まらなかったか…。もう1度!!」
「いや、しなくていいから」
柵の間から手を伸ばして断る。
(……それにしても、こいつら…、まるで初めからオレが来るのがわかってたみたいに……)
仕掛けられていた檻といい、不自然なくらい用意周到である。
怪訝な顔をしながら帝毛盗賊団を眺める因幡に、ひとりの盗賊がニヤニヤとしてその場に片膝をつき、うつむいたまま硬直している二葉の肩に手を置いた。
「よくやったな、チビ。お手柄だぞ」
「!?」
「……………」
その褒め言葉がどういう意味なのか、因幡は瞬時に理解した。
二葉は、因幡達が待ち伏せされていることを知りながらわざとこちらに誘い込んだのだ。
「二葉ちゃん…」
声をかけられた二葉は、ビクッ、と震えた。
「……ウサギを連れてきたら…、みんな…帰してくれるって…。……ごめん…。臼を盗んだのも…、二葉……」
「!!」
最初から仕掛けられていたことだった。
盗賊団の目的は、玉兎を手に入れる事。
帝毛盗賊団に脅された二葉は、因幡が使う抜け道から月宮殿の侵入に成功し、臼を盗んでみせたのだ。
ただ、村人を助けたいという純粋な想いに、抜け道は拒まなかった。
「……そういうことか…」
すべてを察した因幡は帝毛盗賊団を睨みつけた。
「じじいは…、ふだん、ウザいくらい構ってくるけど…。いなかったら…、なんでか知らないけど…、すごく…、さびしい……っ」
肩を震わせて静かに泣く二葉。
それからまた「ごめん…」と謝った。
「だまして…、ごめ……」
「謝らなくていい…。二葉ちゃんは、何も悪くねぇ」
その優しい言葉で、二葉ははっと顔を上げる。
そしてまた堰を切ったように泣き出した。
「―――こんな小さなコをこき使ったり泣かせたりして…、てめーらよく恥ずかしくねーよな?」
因幡の腸が煮えくり返るほどの怒りの矛先は、帝毛盗賊団に向けられた。
檻の中にいる因幡に帝毛盗賊団は余裕を見せる。
「使えるモンは使うのがオレ達の主義だ!」
「用があるのはてめぇだけだ」
「この臼で、あるものを作ってもらいてーんだわ」
「あ!! オレの臼!!」
盗賊が取り出したのは、玉兎の臼だった。
「拒否権はねーからな」
「わ!?」
「!!」
続いて、二葉の肩に手を置いた盗賊が、突然二葉を抱えてその首筋にナイフを当てた。
「てめーら…、どこまで…!」
ギリ、と奥歯を噛みしめる因幡に、盗賊たちは不気味に笑う。
「言っただろ。使えるモンはガキだろうが使う…」
「玉兎も手に入って、のこのこついてきたかの有名な金角銀角もぺしゃんこにしてやったぜ…!!」
「これが妖怪界に知れ渡れば、オレ達の名も天界下界に轟くってもんだ!!」
「今日は酒がうまくなる日だな!」
下品な笑いとともにそれを聞いた因幡の瞳が大きく見開き、耳を疑った。
(2人が…―――!?)
「それじゃあ連れてくぞ。本当のオレ達のアジトにな…」
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