ラビット西遊記
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金角、銀角、玉兎の一行は、現在、重い足取りで砂漠を歩いていた。
雲一つない青天、灼熱の太陽、吹き抜ける乾いた風。
妖怪とはいえ、その体力をじわじわと奪うのは十分な状況だ。
「こっちで合ってるのかよ。間違ってたら承知しねーぞ」
「……間違いねえよ…。対の杵が…、こっちだって…言ってんだ…」
神崎の言葉に答える因幡は、両頭の竪杵を取り出し、上にかざしてみせた。
すると、杵はコンパスのようにひとりでに方向を転換し、臼がある方向を指し示す。
「下界に落としたってことか? 天界で盗まれたクセに」
「……もしくは誰かが盗んだか…。杵だけは部屋に持ちかえったから、盗まれずに済んだのかもな」
自室で杵を磨いてから眠りについたことを思い出した。
「じゃあ、犯人は妖怪か?」
「いや…、月宮殿にやすやすと入れる妖怪はそうはいねぇ…。天界の奴か…、人間か…」
「人間?」
それこそ天界に足を踏み入れることができないのではないか。
姫川の疑問を察した因幡は、「あー…」とまたもや言いづらそうな顔をする。
「……いちいち妖力使って下界に降りるのも億劫だから…、その…、出入りできるような巣穴を作っちまったんだよ…。月宮殿と…、下界を行き来できるような…」
「おま…っ!! ルール違反も大概にしとけよ!! マジで月から叩き落とされるぞ!!」
「自業自得じゃねえか。太陰星君も部下の管理がなってねぇ」
責める2人に因幡は「あ゛―――っ」と両耳を両手で塞いだ。
「これでも一応わっかりにくいところに作ったつもりだったんだよ! 天界にも下界にも見つからねえところによぉ!!」
「下界のどこ?」
よく聞き取れる耳は塞いでも音が入り込んでくる。
ジト目で尋ねる神崎に小さく答えた。
「おまえらのアジトの近くに生えてる月桂樹。のぼった途中にある」
「で、おまえは天界のどこから入ってきてんだ?」
今度は姫川が質問を投げてきた。
「……仕事場の机の引き出し。オレしか使ってねぇ机だし…」
「「ドラ○もんかっっっ!!」」
下界どころか未来に繋がっていそうである。
「そこからなら、ラクに臼とか盗めるわけだ。けど、他にも金目になりそーなのあるだろ」
「ああ。それはオレも思った。…それに抜け道は、普通の妖怪じゃ通り抜けている途中で消滅しちまうし、人間は、穢れのない人間しか通れない。そんな人間が盗みを働くとは…」
真上の空を見上げながら因幡は考える。
「……つーかよ…」
「「いい加減てめーで歩け!!!」」
「え―――…」
砂漠地帯に入ってしばらくしたあと、早くも力尽きた因幡は、荷物を載せた馬に乗っていた。
言い出しっぺのくせにこのまま一人だけ楽をさせまいと神崎と姫川は怒鳴る。
馬を買う金を出したのは因幡だが、一頭だけだ。
今後のためにとそれ以上の金は出さなかった。
野営用のテントや寝具、水と食料を持たされている馬も、「これ以上持たさんでください」といった顔をしている。
「下界慣れしねーっつっただろ。普段は月暮らしだし。だからおまえらに頼んだんだよ…。ほら、おまえらそれでも名のある兄弟魔王じゃん? ザコ妖怪に絡まれる心配はなさそうだし」
「てめぇそれが本音かっ!!」と姫川。
「今すぐ降りろ!! てめーにそこで休む資格はねぇっっ!!」と神崎。
2人がかりで因幡をつかんで引きずり下ろす。
ばさ、と音を立てて砂の上に落ちる因幡。
太陽でよく焼かれた砂は火傷するくらい熱い。
「熱っっ!!」
たまらず飛び起きて神崎と姫川を睨む。
「火傷したらどーすんだコラァ!!」
「そんだけ叫ぶ体力あるならきりきり歩けオラァ!!」
「こっちはパシりじゃねーんだクラァ!!」
砂漠一帯に轟くほど怒鳴り合う3人。
そして腹の虫も鳴り響いた。
「……腹減った…」
「…………とりあえずメシだな」
「そうだな…」
同時に頷き、因幡は馬に載せた荷物から食料を出そうとする。
「……あれ? ……あ――――っっ!!!」
突然大声を上げ、神崎と姫川はなんだなんだと走り寄った。
「どうした!?」
「これ…!!」
顔を真っ青にした因幡が見せたのは、食料と水筒が入っていた袋だ。
底に大きな穴が空いていた。
「「あ゛――――っっ!!!」」
同じく2人も大声を上げた。
中身はカラッポ。
だいぶ前から空いていたのだろう。
振り返っても食料や水筒が落ちているわけではなかった。
「最悪だ…」と因幡。
「これたぶんずっと前から空いてたぞ」と姫川。
「店側からもらった袋だよな。クソ…」と神崎。
適当な袋を渡されたようだ。
絶望感にしばし呆然とする3人。
それでも空腹の虫は容赦なく訴えてくる。
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