奴らがウチに来ました。
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せっかくの学生の休日である土曜日なのだから、家でのんびりと春樹とゲームするなり、ジャンプ読むなり、昼寝するなりで過ごそうかと思ってた矢先、家のインターフォンが鳴った。
オレはその時、2階の自室で私服に着替えていた。
姉貴と父さんは出かけてるし、母さんは仕事部屋でネーム中だし、必然的にダイニングでテレビを見ている春樹が来客に対応する。
1階から「はーい」と春樹の声とドアを開ける音が聞こえた。
宅配便かセールスかと思ったが、しばらくして春樹がオレを呼んだ。
「桃姉ー、友達来てるぜー」
「友達?」
オレの友達で真っ先に思い浮かぶのは神崎組と姫川くらいだ。
だが、ケータイを開いてもこちらに来る連絡もなければ、対応した春樹のテンションからしてその4人でもなさそうだ。
クラスメイトの誰かと思いながらオレは上着のチャックを上まで上げてから自室を出て階段を下り、玄関に顔を出した。
「「「「どーも」」」」
春樹が半分開けたドアから、知ってるけどけっして友達でもない連中の顔が見え、オレはドアの取っ手をつかみ、迷うことなく引いて閉めたうえに鍵もかけた。
春樹も外の連中も一瞬呆けただろう。
「え、いいの?」
「いいえ、まったく知らない奴らだ。けど、セールスより面倒なことは確かだから次にピンポンされても絶対に出るんじゃねーぞ。居留守使え!! 奴らに敷居を跨がせるな!!」
途端に慌てた様子でドアをドンドンと叩き出した。
「ちょっと!! なにもそんな聞こえる声で!!」
「オレ達相談しに来たんスよ!!」
「ぜひとも協力してほしいことが!!」
「冷酷兎・因幡桃矢さんにしかできないことで!!」
やかましい。
オレは平和な争いのない休日をゆっくり過ごすんだ。
両耳を塞いで春樹と一緒にダイニングに戻ろうとするところが見えているように奴らは近所迷惑も考えずに騒ぎ出す。
「待ってくださーい!!」
「お願いしまーす!!」
「せめて話だけでも!! 話だけでもぉぉぉ!!」
必死な奴らの懇願はダイニングまで届きそうだ。
こんな時に限って不審者対応の父さんがいないなんて。
舌打ちしたオレは踵を返し、玄関のドアの鍵を開けて顔だけ出してこう言った。
「15分だけ時間やる。コンビニでこのアメ買い占めてこい」
オレは手持ちのアメを見せてから再びドアを閉めた。
告げると同時にそれがスタートの合図のように走り出したのを見届け、ギリギリ15分でそいつらはオレの注文したキャンディーを買ってきた。
オレも鬼じゃないので、仕方なく部屋に上げてやる。
そして今、丸いローテーブルを挟んでオレの向かい側には、沖縄で出会ってそれっきりだった南東邦神姫の4人組が真剣な面持ちで胡坐をかいて座ってた。
オレは目の前に積まれた大量のキャンディーの中からコーヒー味を手に取り、袋を開封して口に咥えた。
その苦味に眉根を寄せる。
「…オレに協力したいことってなんだよ。ただのパシりだったらブッ転がすぞ」
さっき人をパシらせといて言うのもなんだが。
首を振って否定したのは神谷だ。
「パシりだなんてとんでもない! しかし、こんなこと、オレ達の憧れ、東邦神姫である神崎さんと姫川さんのお二方の傍にいらっしゃる因幡桃矢さんに協力してもらう他なくて…っ」
姫路、東山、邦彦も力強く頷いている。
真剣な眼差しを向けられてなんだが、オレはふと思った疑問を尋ねた。
「つか…、なんでオレの家知ってんの?」
教えた覚えは一切ないし、いつも家の屋根飛び回りながら登下校してるオレを尾行したとも考えにくい。
そこで平然と答えたのもまたしても神谷だ。
「以前、神崎さんに住所聞いたら、なぜかここを教えられて…」
「オレも、姫川さんに聞いたら…」
姫路も小さく手を上げて答えた。
(ヤロウ共が…っ!!!)
オレは怒りのままにテーブルをコブシで叩いた。
その衝撃に積まれたキャンディーは崩れ、神谷達も怯む。
適当にあしらったり、存在しない住所を教えとけばいいものを、なんで面倒事押し付けるようにオレの住所教えるかな。
つか、なんでオレの住所をソラで覚えてんだあいつら。
プライバシーの侵害で訴えてやろうかと考える。
あいつらのせいでせっかくのオレの休日が潰れたかと、そうとも知らずに優雅な休日を過ごしているかと思うと無性に腹立たしくなってきた。
「言っとくけど、あいつらのサインが欲しいなら、直接本人達に頼めよな。オレから頼みたくねーし。絶対に!!」
最後は強調して言ってやる。
オレがこいつらに頼まれてサインをせがんでいるところなんて想像したくもねえ。
なにおまえあいつらに頼まれたの、パシりなの、と指さされて笑われそうだし。
沖縄旅行最後の日にしつこくせがんでたからてっきりそうなのかと思っていたが、神谷達は首を振った。
「いえいえ。サインは諦めてます。…しかし、写真集だけは諦めきれなくて…っ!!」
悔しそうに邦彦が取り出したのはデジカメだ。
「詳しく聞かせろ」
オレは思わず食いついてしまった。
神谷達が説明するには、東邦神姫ばかり撮影した写真集を制作したいらしい。
珍高の中だけで純粋に見て楽しむ写真集。
無断転売は絶対にさせないらしい。
値段を聞けば、金銭的に制作側は損もなければ得もしない。
趣味で出すもの、と聞けば、コミケの販売を思い浮かべてしまう。
「くだらない計画かもしれませんが、南校にとって東邦神姫は不良達のアイドル的存在!! 今こうしている間にも、あいつらはオレ達の撮ってきた写真を今か今かと待ちわびてるんです!! 絶対に撮ってくるって啖呵も切ってきました!!」
「東条さんと邦枝さんには許可をもらって撮影も終了しています!!」
「あとは神崎さんと姫川さんのみ…!!」
「しかし、お2人とも頑なで…!!」
熱弁している間、オレはデジカメを見せてもらっていた。
確かに東条と邦枝は許可しただけに写真写りも綺麗なものだ。
東条はほとんどバイトしているシーンと喧嘩の真っ最中のシーン、登校中のシーン、バイト疲れで眠っているシーンなど。
邦枝も烈怒帝留との写真がほとんどだ。
女子の休日って写真もあれば、登校中のシーンもある。
男鹿をひそかに見つめている写真もあるがこれはいいのだろうか。
日付を見ると、1週間前だ。
そして、神崎と姫川の写真なのだが、先程比べてこちらは酷い写真写りだ。
隠し撮りしたものばかり。
見切れやピンボケも多くあった。
オレなら隠し撮りでもうまく撮影できる自信はあるけどな。
うわ、オレも写ってる。
気付かなかった。
「…本当はカメラ目線の写真が欲しかったのですが、その前に気付かれてカメラを何度かボロボロにされました」
東山が執念を語っている時、オレはあることに気付いて戦慄した。
神崎と姫川のカメラ視線はないものの、一緒に写っている夏目はどれも見事なカメラ目線だし、余裕があればピースもしている。
恐ろしい奴だ。
「因幡さんはいっぱい撮影されているというのに…」
「オレは…、そりゃあ……」
思い返せば、あまり怒られたことはない。
最初は「勝手に撮るな」と叱られはしたものの、今では諦めたように撮影させてくれる。
オレのケータイとパソコン、デジカメの中にはあいつらの写真が大量にあった。
半年と少し分とは思えないほど。
「……………」
なんとなく照れ臭くなってしまう。
「そこで相談なんですが…、因幡さんの写真、少し分けてもらえませんかね?」
「ヤだ」
神谷の頼みにオレは即答する。
「そんなぁ~」
「悪いが、オレが撮った写真はオレだけのもんだ。複写だろうが譲れねえよ」
どれも適当に撮ったものじゃないから愛着はある。
オレが断って露骨に落ち込んでいる神谷達。
オレは「あー…」と後頭部を掻き、提案を出してやる。
「オレが直接言っても、たぶんあいつら協力しなさそうだし…、サポートくらいならしてやらなくも…」
するとどうだ、花が一斉に開花するように神谷達の表情が明るくなり、前に乗り出した。
「「「「本当ですか!!?」」」」
「お…、おう…。―――で、どんな写真が欲しいわけ?」
あまりこだわりがなければ、撮れそうな写真はいくらでもある。
オレは注文を聞きながら新しいキャンディーを手に取った。
「そうですね、欲を言うなら…、汗水流してるなどの色っぽいシーンとか…」
「ちょっと待て」
真剣な顔でなに抜かしてやがる。
「その写真集…」
「私達にも分けてもらえるんですか?」
いつの間にかドアが開けられ、トレーに人数分のコーヒーを載せて持ってきた母さんと、菓子袋を両手いっぱいに抱えてきた春樹が興味津々な面持ちで立っていた。
「混ざんなぁ!!」
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