15:魔界に来ちゃいました。
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一方、石矢魔総合病院・803号室にて、見舞いに来たコハルはなにもない病室に絶句していた。
「…これは……。みんな…、どこへ行ったの…」
因幡達どころか、ベッドや棚までなくなっている。
退院はもう少し先のはずだ。
“コハル…、微かだが、魔力を感じるぞ…”
胸元の万年筆に視線を下ろし、すぐに天井を見上げた。
「!」
“屋上だ!”
見舞いの品をそこに置き、急いでエレベーターに乗って屋上へと向かった。
屋上の扉を開け、足を踏み入れる。
しかし、辺りを見渡すが、誰もいない。
「…!」
気配はペントハウスの上からだった。
はっと振り返ったコハルはそこに立つ人物を見つけた。
フードを被って顔を隠し、コハルを見下ろしている。
その首筋には大きな傷跡があった。
唯一露出した口が笑みを浮かべた。
「久しぶり、コハルちゃん」
その低い声からして、男であることがうかがえた。
「…っ!」
聞き覚えがある声だったのか、コハルの顔色が変わる。
「ひょっとして、桃ちゃん捜してる?」
「…!! 娘をどこにやったの…!? 娘だけじゃなく…、お友達も…」
「んー…。どこって…魔界?」
「!!」
「まあまあ、たまには魔界の空気も吸わせた方がいいって…。こっち(石矢魔)に引っ越してきてから、桃ちゃんの暴走が目立つ。この間だって、倒れたそうじゃないか。…本当に娘の心配してるの? 死ぬぜ、アレ…」
“挑発だ。乗るな、コハル”
シロトはそう言うが、コハルは胸元から万年筆を取り出した。
男は嘲笑を浮かべ、言葉を続ける。
「…代々受け継がれてきたシロトと対になったまま、家を飛び出し、一族とは縁もゆかりもない平凡な男との結婚…、そして3児の母…。これ以上、“受け継ぐ者”が生まれないとでも思った? 皮肉なことに、才能ある女を生んでしまったことにも気付かず…」
コハルの瞳が赤く染まる。
「ごたくはたくさん…。桃ちゃん達を、返しなさいっ!!」
万年筆のキャップを指で押し上げて取り外し、横一線に振るった。
すると、空中に鋭いツララがいくつも出現し、男目掛けて飛ぶ。
男はペントハウスから飛び下り、「危ない危ない」とツララがかすって切れた右肩を見た。
「捕まえたわよ」
「!」
男の足下に円陣が浮き出るとそれは青白く光り、四方八方から氷柱が立ち、氷の檻を形成した。
「あらら…、捕まっちゃった…」
男は笑みを浮かべたままだ。
コハルは万年筆の先を向け、口元に笑みを浮かべる。
「さっさと桃ちゃん達を戻さないと、私、あなたを殺すことになるわよ? 前に私にねじ伏せられたこと、忘れたわけじゃないでしょう?」
「何十年前の話だ? ……シロトの入れ物、変えたのか…」
男の視線が万年筆に移り、コハルは大事そうに握りしめる。
「夫と出会ってからね…。…今、私はとても幸せなの。幸せな家庭に幸せな仕事…。もう放っておいてちょうだい。今更なんなの? 他の人達まで巻き込んで…」
「桃ちゃんが寂しいだろうと思って一緒に送ってやったんだ。…ついでに桃ちゃんの目の前で死んでくれると面白いことになりそうなんだけどな…」
「……戻す気はないのね?」
コハルの目付きが鋭くなり、男は手をヒラヒラさせて軽い口調で返した。
「オレ様じゃムリだ。そこの鮫島(さめじま)か、他の次元転送悪魔に頼んでくれ」
「!!」
パンッ
コハルは背後の気配に気付き、同時に頬に平手を食らい、その場に倒れた。
「うっ!」
見上げると、サングラスをかけたスーツ姿の男が立っていた。
見た目は20代後半、後ろに束ねられた赤髪が特徴だ。
「鮫島、捕まった。助けて」
「お戯れが過ぎるぞ」
ため息をつく鮫島は男に近づき、氷の檻に手を触れただけでそれを消した。
解放された男は「ありがとなっ」と鮫島の腕に自分の腕を絡ませる。
「その人…、次元転送悪魔…?」
「そう。プラス、オレ様の執事」
「フフ…。ネタね…」
コハルは打たれた頬に手を当て、立ち上がる。
鮫島は男の腕を払い、サングラスを指で上げて言った。
「娘達は魔界の最果ての地、ロベール砂漠に落とした。全員が生き残る確率は極めて低いが、森まで戻ればこちらに帰ることができるかもしれない」
「鮫島、余計なことは喋るな。これは罰だ。オレ様は絶望するコハルちゃんが見たいんだ」
フードの下から覗いた鋭い瞳が鮫島を睨んだ。
「…これはどうも失礼しました、フユマ様」
鮫島は、フユマ、と呼んだ男に一礼する。
「さて…、コンティニューできないゲームに、何人生き残るでしょーか?」
コハルが万年筆を足下に突き刺すと、鋭く尖った氷の床がフユマ達に迫るが、衝突する前にフユマ達は姿を消した。
次元を越えたようだ。
屋上は静けさを取り戻し、コハルはただひとり立ちつくしていた。
「大変……」
逃走した次元転送悪魔を追いかけることは不可能だ。
こちらでなんとかするしかない。
しかし、どうすれば。
こうしている間にも、因幡達は魔界で危険な目に遭っているかもしれない。
コハルは頭を抱えた。
“コハル、ワシに考えがある”
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