14:喧嘩に花火とも。
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夏目はあのあと自転車の後ろに因幡を乗せて因幡の自宅まで運んできた。
因幡は部屋で寝かされ、姉の桜に看病されている。
「そう…。ありがとう、夏目君」
夏目から事情を聞いたコハルは玄関先まで夏目を見送った。
「お大事に」
夏目は一礼し、家の前に停めた自転車に乗って坂道を下っていった。
コハルは天井を見上げ、高熱を出した因幡のことを心配する。
すると、胸ポケットの万年筆からホタルのような光が出現し、コハルの周りを飛んだ。
「シロト…」
“案ずるな。一時的なものじゃ。…しばらくは外に出さん方がいい。闘争心が騒いどるうえに、敵味方の判別もつけられん状態じゃ…”
「命の危険はないのね?」
“自分がそうじゃったろう、コハル。…娘に早く治ってほしければ、ワシとちゃんと契約させるか、なにか発散できるものを与えるか…”
「……発散できるものって…、町でも壊せっていうの?」
“ククク…、契約される方が困るじゃろう? それをやってしまえば、貴様が家を飛び出した意味がなくなってしまうからな…。だが、それをやらなければ、制御する者もおらず、娘は自らの魔力に体が耐えきれず、身を滅ぼすことになる…”
「……………」
“いい加減気付け、コハル。あの時、娘の瞳が赤く染まった時点で貴様の負けじゃ。その悪あがきで自分の娘を殺すことになるぞ”
シロトはコハルの耳元に近づき、囁くように言ったあと、万年筆に戻った。
「…桃ちゃん…、ごめんなさい…」
ここからでも、因幡の苦しげな呼吸が聞こえる気がして、罪悪感に苛まれた。
*****
その夜、数回鳴らされたインターフォンの音で因幡は目を覚ました。
「…?」
聞き覚えのある声が1階から聞こえ、耳を澄ませる。
弟の春樹と、もうひとり。
「城山さん、どうしたんですか?」
春樹は城山越しを見るが、いつも一緒にいるはずの神崎の姿は見当たらない。
「因幡…桃はいるか?」
「ああ…、姉貴今風邪引いて寝込んでて…」
「風邪!? 大丈夫なのか?」
「けっこう熱出してるみたいで…。おふくろも外に出すなって言ってるし…。神崎さんになんかあったんスか? オレでよかったら…」
その質問に城山は口を濁す。
「いや…。因幡が風邪をひいてるならしょうがない…。他を当たってみる…。邪魔した」
城山は逃げるようにその場をあとにした。
巻き込まないようにといった気づかいが窺えた。
閉じた玄関の扉を見つめ、首を傾げる春樹。
その背後にコハルが近づいて声をかける。
「誰だったの?」
「城山さん。桃姉に用があったみたい…。来たことだけ言った方がいいな」
春樹はコハルの横を通過し、階段を上がっていく。
コハルはそれを見送り、ダイニングへと戻ろうとした。
コハルが階段の前を通過しようとしたとき、春樹が慌てた様子で階段の上からコハルに声をかける。
「おふくろ! 桃姉が…!!」
まさか、とコハルは目を見開き、急いで階段を上がって春樹とともに因幡の部屋を見る。
電気の消えた部屋の中、めくられたタオルケット、開け放たれた窓、風で揺れるカーテン。
寝かされていた部屋の主はどこにも見当たらない。
「桃ちゃん…!」
万年筆から小さな笑い声が聞こえる。
“ククク…、血は争えんな、コハル。おせっかいなところもしっかりと受け継がれている…”
「黙って…っ」
声に怒りを混じらせ、ぎゅっと胸元の万年筆を握りしめる。
「おふくろ?」
春樹には独り言にしか聞こえず、どうしたのかと頭に「?」を浮かべた。
(あのコ、今の自分熱わかってるの!? 医者もひっくり返るくらいあるのに…!)
エプロンのポケットから携帯を取り出して因幡にかけたが、その着信音は枕元から聞こえた。
.