12:新しい巣です。
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稲荷と別れたあと、エレベーターに乗って8階に到着した因幡は、そのまま真っ直ぐに自分の病室へと向かった。
寂しい個室に戻るのは億劫だったが、病室を出ると、あの看護師が目を光らせているので余計に落ち着かない。
「…!」
803号室の扉を開けると、ベッドに神崎と姫川、その傍にあるパイプ椅子に夏目と城山が座っていた。
「…なにしてんだ」
姫川と神崎は真剣な顔をしながら、各々リンゴの皮を包丁で剥いていた。
「ああ、因幡ちゃん、おかえり。姫ちゃんと神崎君が、因幡ちゃんのためにウサギリンゴ剥いてんだってさ」
夏目は面白おかしくその光景を眺めている。
「夏目、何気に「ちゃん」付けに変更すんな。…つうか、おまえらも、たかがリンゴの皮むきになに必死になって…」
肩を落とし、呆れてそう言いながらも、早速その光景を写メに撮って母親に送信する。
「黙ってろ。たかがって…、どうやったらあんなキレーなウサギさんが出来んだ…痛てっ!」
切り方を誤り、神崎は親指を切った。
夏目は「あーあ」と言って立ち上がり、用意していた絆創膏を貼りつけてあげる。
「おいおい、リンゴを血で染めるなよ」
姫川はそう言って失敗作を小棚の上にある皿に載せた。
皿の上には、耳が途中で切れてしまったものや、うまく形にならなかったものが積まれてある。
「もうやめろって! リンゴの無駄遣いだ! つうか見舞い品全部リンゴ!?」
同じことを考えていたのだろう、偶然にも、姫川と神崎の見舞い品は被っていた。
因幡は部屋の中心にピラミッドのように積まれたリンゴを見上げ、あきれ果てる。
「…もう帰れ」
「寂しくて死んでねーか見に来てやったんだろ。…おい、手本みせてみろ」
姫川はリンゴと包丁を因幡に手渡した。
受け取った因幡はため息をつき、ベッドに腰掛けて剥き始める。
「患者にリンゴ剥かせるなよ…」
「そういえば、おまえ、勝手に名前書き換えんな」
神崎は、油性ペンで本名を書きかえられた、この病室の掲示を思い出した。
「ほっとけ。他の石矢魔生徒に見られたらどうすんだ」
「因幡ちゃんも必死だねぇ」
「だから「ちゃん」付けすんな夏目!」
「じゃあ…、桃ちゃん?」
「よしわかった、そこ動くなぁ!!」
因幡はくわっと怒りの形相を見せ、包丁の先を夏目に向けた。
「病室では…、お静かに…。そんなに病院に舞い戻りたいんですか?」
ギクリと振り返ると、例の看護師が注射とメスを両手に、扉の隙間からこちらを窺っていた。
「「「「……すみませんでしたっっ」」」」
その場にいた全員は頭を下げて本気で謝った。
扉が静かに閉まり、胸をなで下ろす。
「殺されるかと思った…;」と神崎。
「…リンゴ、食べる?」と差し出した因幡の皿には見事なウサギリンゴが並んでいた。
「「「「いつ剥いた!!?」」」」
「ついさっきだよ。ほら、見舞い分食べるし、食べさせるからなっ」
因幡は笑顔を向け、稲荷にこう言った。
「おまえらのおかげで、住み心地最高の、いい巣が見つかった」
.To be continued